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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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旦那様に見つかるな!(2/2)

 も、もしかして、フェルナンド様……!?


 と思ったけど、フェルナンド様のお声ならどんなに離れていても一発で聞き分けられる自信があったから別人だろう。


 案の定、声の主はくすんだ金髪のわたしと同い年くらいの青年だった。


「あなた、ギョロ目さんのお葬式の……」


「お~い、レズリー! 無礼講だからってナンパなんかしたら、いくらお前の部隊長が優しいからって、さすがに怒られるぞ~!」


 これまたわたしと同年代に見えるがっしりした体格の赤毛の若者が、気安い調子で金髪の青年と肩を組む。わたしは、金髪の青年の名前を今さらのように知ったと気づいた。


「あなた、レズリーさんっていうんですね」

「そういえば自己紹介がまだでしたね」

「何? 知り合い?」

 

 わたしを発見した赤毛の青年が楽しそうな顔になる。


「へえ、かわいい子じゃん。食堂の女給とか? 俺にも紹介してくれよ~」

「バ、バカ! この方はダンジュー将軍の奥方だぞ!」

「ええっ!? この人が例の!? 失礼いたしました、ダンジュー夫人!」


 だらしなくレズリーさんにもたれかかっていた赤毛の青年が背筋を伸ばし、ビシッと敬礼する。わあ、教育が行き届いてるなあ。


 それにしても、「例の」ってどういうこと? わたしのこと、どこかで聞いて知ってたのかな?


「キャンディスでいいですよ。この人はレズリーさんのお友だちですか?」

「友だちっていうか、同期ですね」

「おいおい、冷たいこと言うなよ~。俺たち、大親友だろう?」


 レズリーさんの話し方で、わたしがそこまで肩肘張って応対するような相手ではないと判断したらしい。赤毛の青年はまたレズリーさんと肩を組む。「何が大親友だよ」とレズリーさんが片眉をあげた。


「本日はどのようなご用件で?」


 レズリーさんに尋ねられる。わたしは「ええと……」と視線を泳がせた。すると、赤毛の青年が「決まってるだろ」と会話に入ってくる。


「ダンジュー将軍に会いにきたんですよね? 俺、呼んできましょうか?」

「い、いいえ! 結構です!」


 わたしは大慌てで首を振った。


「実は……フェルナンド様はわたしがここにいることを知りません。黙っていてくれると嬉しいんですけど……」


「……隊長に用があったわけじゃないんですね」


 レズリーさんはなぜかほっとしたように見えた。赤毛の青年が含み笑いをしながら、レズリーさんの肩を叩く。


「こいつ、最近はキャンディスさんのことばっかり話してるんですよ。そんなに忘れられない人ってどんなのかなと思ってたら、なるほどこれは……」


「余計なことを言うな」


 レズリーさんが友人の頭を勢いよくはたいた。どうやら、この赤毛の青年はかなりのお調子者のようだ。


 でも、これで彼がわたしのことを知っていた理由が分かった。レズリーさんは、わたしのことを気に入ってくれていたみたいだ。


 夫の部下に好かれるなんて、すごくデキた妻じゃない? 最高だ。


「キャンディスさんも、こんなところで立っているだけなのも暇でしょう? よかったら一緒に来ませんか? 俺たちが仲よくしてるほかの同期にも紹介しますよ」


「おい、何を勝手に……」


「いいえ、ぜひお願いします」


 何にせよ、知り合いが増えるのはいいことだろう。わたしはレズリーさんのお友だちの申し出をありがたく受け入れることにした。


 二人に案内され、わたしは親睦会を楽しんでいる人たちの中にこっそりと紛れ込む。


 紹介されたお友だちは気さくでいい人ばかりだったから、わたしはすぐに皆と打ち解けることができた。どうやら、彼らは少し前に騎士団に入隊したばかりの新兵さんらしい。


「それでさあ、俺の上官はまあ怖くて怖くて……」


 もう五杯目になるお酒のグラスを空にしながら、赤毛の青年が泣き言を漏らす。


「新人だからって、すげえこき使うんだよ。この間も、『手袋を忘れたからワシの家に取りにいけ』って言われて……。俺はあんたの家なんて知らないっての!」


 年も近いということで、いつの間にか皆はわたしに敬語を使わなくなっている。そのためか、彼らとの心理的距離もぐっと近づいたように感じられた。


 わたしは赤毛の青年に、「それで、どうなったの?」と話の続きを促す。


「巡査に教えてもらって、どうにか家にはたどり着いたよ。でも、手袋を片手に本部に戻ったと思ったら、『予備が机の引き出しに入っていたわい』だぜ? しかも、戻りが遅いからって罰で廊下の雑巾がけをやらされちまったよ」


 どうやら、同期といえども所属している部隊はそれぞれ別らしい。この中でフェルナンド様の部隊に配属されたのは、レズリーさん一人だけのようだ。そのことが、皆すごく羨ましいらしかった。


「レズリーのところはいいよなあ。ダンジュー将軍、優しくて」

「怒鳴らないし」

「理不尽なことも言わないし」

「無茶な訓練はさせないし」

「質問しても、『そんなことは自分で考えろ!』とか怒らないし」


 フェルナンド様が褒められていると、なんだかわたしまで嬉しくなってくる。けれど、レズリーさんは浮かない顔だ。


「その代わり、副隊長はとんでもない人だぜ。彼女は鬼だよ」


 厳しい意見だなあ。確かにあの副隊長さん、かなり怖そうではあるけれど。


 苦笑していたわたしは、ふと遠くに見知った顔を見つけ、全身の神経を張りつめさせた。とっさにレズリーさんの懐に隠れる。


「キャ、キャンディスさん!?」


 突然のことにレズリーさんがうろたえたけど、わたしも同じくらい気が動転していた。わたしは声を落として、「静かに!」と自分の口にピンと立てた人差し指を当てる。


「近くにフェルナンド様がいるの……」


 もし今、わたしがレズリーさんの懐から出ていったら、ほぼ間違いなくフェルナンド様に見つかってしまう。


 肩越しに振り返ろうとしたレズリーさんに、わたしは「ダメ! さりげなく振る舞って!」と頼み込んだ。


 挙動不審なところをフェルナンド様に見られて、不信感を抱かれたら大変だ。わたしがここにいることがバレちゃうかもしれない。


 わたしはレズリーさんと体を密着させると、彼の影からこっそりと頭だけを出して様子をうかがった。


 ……よし、大丈夫。フェルナンド様は軍服の胸に勲章をいっぱいつけた白髪頭のおじいさんと談笑していて、こちらには全然注目していない。……その代わり、立ち去ろうとする気配もなかったけど。


「皆、何か話して」


 わたしはレズリーさんの友人たちに懇願した。こんなに大勢の人が黙って棒立ちしていたら、さすがに不自然だ。


「あー、そういやさ、新しく任命される副騎士団長の話、聞いた?」


 レズリーさんが、焦り気味に皆に話を振る。なんだか心臓の鼓動も早くなってない? わたしを(かくま)っているところをフェルナンド様に見つかったらどうしようって、緊張してるのかな?


「ああ、あれだろう? ダンジュー将軍が昇進して、次の副騎士団長になるんだよな?」


 フェルナンド様が副騎士団長に!?


 レズリーさんの話に応じた赤毛の青年の言葉に、わたしはもう少しで素っ頓狂な声を上げそうになり、慌てて口を手で塞ぐ。


 そんな話は初耳だ。副騎士団長ってことは、軍で二番目に偉い人ってことだよね!? フェルナンド様、さすがです……! これは盛大にお祝いしないと! 


 ……ちょっと待って。ということは、その次に待っているのは騎士団長じゃない!? ひえええぇ! ものすごく偉い人だ! 


 そうなったら、もう「フェルナンド様」なんて気安く呼べなくなっちゃうよ。「ダンジュー騎士団長閣下」とかにしないと!


「おいおい、その話はまだ公式発表前だろう?」


 わたしが一人で興奮していると、レズリーさんの友人の一人が釘を刺すような声を出した。


「部外者がいる前で言っちゃいけないんじゃないか?」


 えっ、これ、機密事項だったの!? どうしよう……聞かないほうがよかったかな? わたしは慌てて耳を塞いだけど、どう考えてももう遅かった。


 わたしの頭の中では、「副騎士団長」と書かれた格好いいネームプレートの置いてあるデスクに、フェルナンド様が堂々と座っている光景が早くも浮かび始めている。


 でもこれで、フェルナンド様が昇進のことをわたしに黙っていた理由が分かった。フェルナンド様はきっちりした人だから、情報を外部に公表する許可が下りるまで待っていたんだろう。


 っていうことは、わたしも昇進の話はすでに耳に入っていたことは隠すほうがいいのかな?


 フェルナンド様の口から直接聞かされた時に、「そうなんですか! 今初めて知りました!」ってとぼけるのが最善かもしれない。

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