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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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旦那様に見つかるな!(1/2)

「来週開催される騎士団関係者の親睦会に参加したい?」


 誕生日パーティーから数日後のお茶会の席で、わたしはサロメからある頼み事をされていた。


「何で? サロメは騎士団とは何の関係もないじゃん」


 わたしはサロメにおごってもらった巨大なパフェを食べながら首を傾げる。今日のサロメはやけに親切だなあと思っていたら、下心があったらしい。


「あたくしはその親睦会とやらで、将来有望な軍人とお近づきになりたいのよ!」


 サロメは誤魔化すことなく、本心を口にする。ミケットが肩を竦めた。


「お見合いパーティー通いはもうやめたの?」


「やめてないわよ。ただ、いい出会いはどこに転がってるか分からないでしょう?」


「でも、何でわたしに頼むの?」


「そりゃあ、キャンディスの旦那様が騎士団の関係者だからよ。そのコネを使えば、部外者の一人や二人、親睦会にねじ込むのはわけないでしょう?」


 そういうの、「食券(・・)乱用」って言うんじゃないの?


「ダメだよ。見つかったら、フェルナンド様が偉い人から叱られちゃう」


「フェルナンドさんだって充分偉い人じゃないの~。将軍でしょう? きっと、そのうちにもっと階級が上がるわよ。あたくしもそんな旦那様が欲しいの! ほら、もう一個パフェおごってあげるから」


 やった~! 今度は何味にしようかな~?


 ……いやいやいや。食べ物に釣られちゃダメ! 「鼻の下(・・・)」なんて、絶対に受け取らないんだから!


「とにかく、ダメなものはダメ!」


 わたしは空になったパフェの器に、スプーンを放り投げる。カランと乾いた音が響いた。


「……キャンディスのケチ」


 サロメがしゅんと眉を下げる。


 いつも華やかな雰囲気をまとっているサロメには、こういう沈んだ表情は似合わない。わたしの脳裏に先月の手紙の誤配達事件が蘇ってきて、良心がチクリと痛んだ。


 わたしがあの時正しい手紙をちゃんと届けることができていれば、今頃サロメは素敵な男性と結ばれて、こんなふうに騎士団関係者の親睦会に行きたがることもなかったのかな?


 そう考えた途端に、胸の中に罪悪感が広がっていく。わたしはため息交じりにメニューを開いた。


「……次はキャラメル味のパフェにする」


「……キャンディス?」


「一応、頼むだけ頼んでみるよ。でも、あんまり期待しないでね?」


「キャンディス……! あなたって、なんていい子なのかしら! パフェなんて十個でも二十個でも好きなだけ食べてちょうだい」


「調子いいんだから」


 ミケットが呆れ顔になる。すっかり有頂天になっているサロメは「何とでも言いなさいよ」と笑って受け流す。


「こんなにいい行いをしたんだから、キャンディスは今にきっと素晴らしい幸運に巡り会えるはずよ。たとえば……例のリストの『周りの人といい関係を築く』の項目にチェックを入れられるとか! ええ、これは間違いなく達成できるわ。だって親友の役に立つのは、『周りの人といい関係を築く』に該当するもの!」


 それもそう……なのかな?


 何はともあれ、これであの時の失敗は取り戻せるだろう。わたしは小躍りするサロメを微笑ましい気持ちで見つめた。


 けれど、それから二日後のお茶会で、わたしはサロメに非常に残念なお知らせをすることになってしまったのである。


「む……無理? 無理ってどういうこと?」

「フェルナンド様に団内親睦会のお話をしてみたんだよね。そうしたら……」


 ――親睦会? 出席したいのか、キャンディス? だが、それはできないんだ。あれは騎士団で働く者たちのための集まりだからな。


「……って言われちゃって」


 わたしは首を左右に振る。


「騎士団の関係者なら、食堂のお皿洗い役とかでも参加できるらしいんだけど、それ以外は無理なんだって。サロメの名前を出す前に会話が終了しちゃったよ。最近のフェルナンド様、なんだか疲れてるみたいだから、とてもじゃないけど無理強いもできなくて」


「そ、そんなぁ~」


 サロメはテーブルに額を打ちつけそうなくらい勢いよくうなだれた。


「キャンディスに激甘のフェルナンドさんがダメって言うなら、本当にダメじゃないの! こうなったら、あたくしも今日から騎士団で働くわ! この際、ドブ掃除係とかでもいいから……」


「やめときなさいよ、みっともない。育ちのいい女性がそんなことをしていると知れたら、ゴシップ紙の記者が黙ってないわよ」


 ミケットがピシャリと言う。サロメが「ちょっとは慰めなさいよぉ」と恨みがましい声を出す。


「ミケットの旦那様の職場では、全然あたくしの役に立ちそうな集まりが開催されないじゃない! 来月の武官と文官の交流会だって、軍部からの提案が発端って聞いたわよ」


 ミケットの旦那様は、王宮で下級文官をしているのだ。文武交流会のことが話題に出たミケットは、「まったく、余計なことをしてくれるわ」と険しい顔になる。


「騎士団員の女性と夫が知り合う機会を増やすなんて……。軟弱な文官なんて、軍人にかかればイチコロよ。またあのバカ夫の浮気相手が増えるんだわ!」


 ミケットがテーブルの上で固く拳を握ったものだから、テーブルクロスがしわくちゃになってしまった。サロメが「ううっ……」とうなる。


「どうしてミケットの旦那様はあっさり愛を手に入れられるのに、あたくしはそうじゃないのよぉ! せっかく団内親睦会に合わせてドレスも新調したのにぃ! お肌のお手入れの時間も倍にして、それから……」


「よそにばっかり目移りして、あのバカ夫が! 待ってなさいよ、近いうちに必ず不貞の証拠を見つけて、とっちめてやるんだから……!」


 二人とも好き勝手なことをわめいているうちに、本日のお茶会は終了となった。肩を怒らすミケットと、背中を丸めてため息ばかり吐いているサロメと別れて家路につく。


 そうして、団内親睦会の当日がやって来た。


 いつもの時間に出勤したフェルナンド様をお見送りしたあと、わたしはなんとなく気になって時計ばかり眺めていた。親睦会、もう始まってるかな? サロメ、家で泣いてたりして……。


 ……いや、サロメはそういうお淑やかなタイプじゃないか。彼女はもっとパワフルだ。親睦会のことだって、そう簡単に諦めるとは思えない。騎士団に忍び込んででも参加しようとするだろう。


 ……騎士団に忍び込む?


「もしサロメが泥棒か何かに間違えられて捕まっちゃったらどうしよう……?」


 警備員さんは、サロメが「あたくしが盗もうとしたのは、未来の旦那様の心だけよ!」と主張しても、絶対に聞き入れてくれないに決まっている。


 そうしてサロメは牢獄行きになって、評判に傷がついたせいでますます結婚が遅れて、それから……。


『あの子の悲惨な人生が、ゴシップ紙の一面記事になるのよ!』


 頭の中でミケットがそう叫んだ。わたしは「そんなのダメ!」と大声を出す。


 わたしは取るものも取りあえず屋敷を飛び出すと、馬車で騎士団へ駆けつけた。門の前で下車すると、何やら守衛室のほうから騒ぎ声が聞こえてくる。


「だから、あたくしは未来の騎士団長夫人だって言ってるでしょう! 後悔したくなかったら、ここを通しなさい!」


 お得意のホラ話……ではなく誇張表現たっぷりのプロフィールを盾に守衛さんたちと押し問答をしているのは、お尻が見えそうなくらい背中の開いたドレスを身につけているサロメだった。


 よかった! まだ捕まってなかったんだ。サロメを門前で足止めしてくれていた守衛さんたち、ありがとう!


「サロメ」


 声をかけると、サロメの表情が和らぐ。親友はわたしの腕をぐいっと引っ張って、守衛さんたちの前に立たせた。


「あなた方は知らないかもしれないけど、この子は……」

「おや、キャンディス殿じゃないですか」

「将軍に会いにきたのですか? 相変わらず仲のよろしいことで」

「守衛室よりも、本部内の建物のほうが二人きりになりやすいでしょうね」


 守衛さんたちは物分かりのいい顔で門を開けてくれた。


「ダンジュー将軍の執務室は、一番大きな建物の最上階にありますよ。手前から二番目の部屋です。もっとも、今は中庭で開催されている団内親睦会に出席しているかもしれませんが」


「本当にお熱いですねえ」


 ニコニコ顔の守衛さんに見送られ、わたしたちは難なく敷地内に入ることができた。サロメが呆気に取られている。


「キャンディスって、意外と有名人なの?」

「どうかな? 前にここへ来たことはあったけど」


 わたしは小首をかしげる。前に訪問した時に、フェルナンド様との仲を見せびらかすような特別なことをした覚えはないんだけど……。


 わたしたちは中庭の近くまでやって来た。これでわたしの任務は終了だから、もう帰っていいよね? 


 でも、来た道を戻ろうとした途端に、「どこ行くのよ」とサロメに行く手を阻まれた。


「あたくしだけだったら、あっという間につまみ出されちゃうじゃないの。親睦会が終わるまではここにいてちょうだい」


 ええ……? そうなっちゃうの? これも乗りかかった箱船(・・)なのかなあ。


 戸惑っている間に、サロメは未来の旦那様を求めてどこかへ行ってしまった。残されたわたしは、親睦会の様子を遠巻きに眺める。


 会場となっている本部の中庭はかなり広く、たくさん張られた天幕の下に、いくつかの丸テーブルが設置されていた。


 テーブルには、色々な飲み物や軽食が置かれている。どうやら立食形式の格式張らないパーティーのようだ。階級も所属も違う参加者たちの間にも、和気あいあいとした雰囲気が漂っていた。


 ここにフェルナンド様もいるんだよね。関係者以外は来ちゃいけないって言われてたのに、こんなところにいるのを見つかったら怒られるかな……?


 そんなことを考えて不安になっていたものだから、突然「もしかして、キャンディスさんじゃないですか?」と声をかけられた時には、わたしは飛び上がりそうなくらい驚いてしまった。

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