お誕生日おめでとう、心からお悔やみ申し上げます(2/3)
しばらくすると、目的地が見えてくる。ノアくんがぎょっとしたような顔になった。
「ここお墓だよ!? こんなところで何するの?」
「故人を偲んでのお墓参りだよ」
「誕生日パーティーでお墓参り……?」
「子どものノアくんには分かんないかなあ? こういうのが大人の余裕っていうんだよ」
わたしはしたり顔で解説する。ノアくんは呆気に取られていた。
「でも……誰のお墓を参るの?」
「……え?」
ノアくんの言葉に、わたしは固まった。
どうしよう……それは考えてなかった!
インタビューしたお年寄りは、「先に旅立っていった友だちのことを思い出す」と言っていた。でも、わたしの友だちはありがたいことに皆生きている。
だからって、「一時間くらいでいいから、今から死体になってくれない?」なんて頼めないし……。
見れば、参加者たちもどうしていいのか分からずに右往左往していた。せっかくここまで順調に進行していたのに、このままじゃパーティーが台無しになっちゃう!
「キャンディスのご先祖様のお墓とかは?」
困っていると、ノアくんが助け船を出してくれた。おお! ナイスアイデア!
……いや、ダメだ。わたしの一族のお墓は、王都じゃなくてお父様が経営している領地にある。今から向かっていたら、着く頃にはとっくに誕生日が終わってるよ!
仕方がない。こうなったら奥の手だ!
「お客様の中に、ここに知り合いが埋められている方はいませんか!?」
わたしは参加者に向かって声を張り上げた。もうこうなったら誰のお墓でもいい。とにかく参拝して、無事にパーティーを終わらせないと!
「誰でもいいんです! 顔も見たことがないひいひいひいおじいさんとか、弟の息子の友だちの向かいの家に住んでいた人とか……」
「あ、あの……」
必死になっていると、おずおずとした調子で手が上がった。くすんだ金色の髪をした、三白眼気味の青年だ。年齢はわたしと同じくらいかな?
「本当に、誰でもいいんですか?」
「もちろんです!」
わたしは救われた思いで、「どなたのお墓があるんですか?」と青年に尋ねた。
「それが……墓はないんです。その……金がなかったから墓石が買えなくて」
青年は気まずそうに言った。
「すごくかわいい奴でした。俺が仕事から帰ってきたら、真っ先に出迎えてくれて……。な、なのに、二週間前に突然……」
青年が黒い瞳を潤ませる。わたしは「辛かったんですね」と言いながら、ハンカチを差し出した。
「亡くなったのはどなたですか? ご友人? それとも恋人?」
「ペットのトカゲです」
「……トカゲ?」
「名前は、ギョロギョロ目玉二世」
後ろから誰かがプッと吹き出す声が聞こえてきた。青年は絶望的な顔でわたしを見る。
「やっぱりダメですよね……。トカゲの墓参りなんて」
「い、いいえ、そんなことはありません!」
わたしは一瞬困惑してしまった自分を恥じた。ペットだって家族だ。トカゲだろうがヘビだろうが、亡くなったら人間と同じように弔われる権利があるはずである。
「そのギョロ目さんはいまどこに?」
「あの大きな木の下に埋めました。あいつは木登りが好きだったから……」
青年の目にまた涙が溜り始める。わたしは彼の背中をさすりながら、教えてもらった場所まで皆を引き連れて移動した。
パーティーの参加者が木を囲むように並ぶと、着いてきたオーケストラが荘厳な葬送曲を奏でだす。あらかじめ呼んでおいた高名な司祭様が、厳かな声で祈りを捧げた。
「偉大なるトカゲ、ギョロギョロ目玉二世よ! 幸多きは虫類よ! 汝の肉体は朽ちるとも、その魂は永遠に滅することはないであろう……!」
「ギョ、ギョロギョロ目玉二世~! 何で俺を置いて逝っちまったんだよぉ~! 俺はこれからどうすればいいんだぁ!」
青年は地面に突っ伏して大号泣している。わたしもついもらい泣きしてしまい、目元を指先で拭った。
ほかの参加者たちは、困惑したように顔を見合わせている。
司祭様の感動的なお祈りが終わり、オーケストラが演奏していた葬送曲も終了すると同時に、パーティーもお開きとなった。
「宴も投げ縄ではございますが……」
わたしがお決まりの挨拶をすると、参加者はそれぞれ帰っていった。
一時は失敗に終わるかもと焦っていた誕生日会をなんとか成功させることができて、わたしはほっとする。
「あの……今日はありがとうございました」
出口に向かう人波に逆らってこちらに近づいてきたのは、先ほどトカゲのお墓参りを提案してくれた青年だった。
「あいつも喜んでいると思います。こんなに立派な葬式を出してくれたんですから。俺からも礼を言わせてください、ダンジュー夫人」
「キャンディスでいいですよ」
ダンジュー夫人って響き、なんだか照れるから。
「そうですか……。分かりました、キャンディスさん」
青年は赤くなりながらわたしを見た。黒い瞳が無駄にキラキラしている。それくらいわたしに感謝してるってこと? いやぁ、それほどでもないけど。
思わずはにかむと、青年の頬がますます紅潮する。「じゃあ、俺はこれで」と上ずった声で言って帰っていった。
「あっ、そういえばお名前……」
呼びかけた頃には、もういなくなっている。足、速いんだね。




