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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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幼妻、お見合いパーティーへ潜入する(2/3)

 以前にサロメからパーティーが開催されている場所のことは聞いて知っていたから、わたしは迷わずにお見合いの会場まで馬車を飛ばすことができた。


 着いてみるとそこは、大規模な建物に大きな庭がついた、華やかな雰囲気の施設だった。


 敷地内からは、賑やかな話し声が聞こえてきている。どうやら、もうパーティーは始まっているらしい。手遅れになっていませんようにと祈りながら、わたしは門の前に立つ番人に話しかけた。


「このパーティーに参加している友だちに届け物をしたいんですけど」

「はあ……」


 門番は、いかにもやる気のなさそうな若者だった。偉い人から命令されたから仕方なくここに立ってます、って感じの顔をしている。


「大事な手紙なんです。きちんと届けてくれますよね?」

「ええと……それは俺では分かんないっすね」

「じゃあ、分かる人を連れてきてください」

「分かる人……っすか。分かる人が誰か、ちょっと分かんないっすね」


 まどろっこしい会話にわたしはイライラしてきた。こんなことをしてる間にも、サロメがフラれてるかもしれないのに!


「じゃあ、わたしが直接届けます」


「備品配達の業者さんってことっすか? それなら、専用の入り口が裏にあるんで……」


「業者じゃなくてパーティーの参加者です!」


 急いでるのに遠回りなんてしてられない! わたしは急いで結婚指輪を外し、ポシェットの中にしまった。


「ほら、指輪もしてないでしょ! 早くここを通してください!」 

「あー、うち、事前の予約がないと割増料金を取ることになってるんすけど……」

「いくらでも払います!」


 わたしはお小遣いが入った巾着を逆さまにすると、中身を門番の手のひらの上にぶちまけた。


「じゃあ、ここにお名前をお願いしまーす」


 門番が差し出してきた紙にわたしは急いでペンを走らせて「キャンディス・ダンジュー」と署名する。その間に門番が手のひらから必要なだけのお金をより分けていった。


 ……ちょっとぼったくりすぎじゃない? もしかしてこの人、水増し請求してる……?


 いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない。わたしはじれったくなるほどゆっくりと開く門をくぐり、会場へと入った。


 見た目どおりパーティー会場は広く、おまけにどこもかしこも人だらけだ。わたしは親友の姿を求めて、あちこちをひたすら歩き回った。


 けれど(らち)が明かなくなり、途中からすれ違う人にサロメを見なかったか尋ねる方針に切り替える。


「人を探してるんですけど……。背が高くて金髪で、派手な赤いドレスを着たサロメっていう名前の女性を知りませんか?」


「ああ、あの人ですね。確か、十カ国語を話せるっていう」


「大臣の秘書をしている方ですか?」


「外国の王族の血を引いてるなんて、すごいわよねえ」


 ……うわ、サロメってばプロフィール盛りすぎじゃない? でも、彼女が皆に大げさな話をしまくって注目を浴びていたお陰で、わたしはなんとかサロメを見つけることができた。


「ええ~、そんなことがあったんですかぁ~?」


 パーティー会場の一角で、親友は妙に甘ったるい声を出していた。これはサロメの得意技、「ぶりっ子の声」だ! 


 この技を披露してるってことは、今回のターゲットはかなり本気で狙っている相手ということである。これは何としてでも、正しい手紙を届けてあげないと!


 サロメが話しているのは、青年実業家って感じの男性だった。仕立てのいい服装といい、高価そうな装飾品の数々といい、一目でお金持ちと分かる出で立ちをしている。


 間違いない。サロメがラブレターを渡したかったのはこの人だ。


 わたしは大股でサロメのほうに駆け寄ろうとする。


 大声を上げて注意を引くっていう手もあるけど、せっかくサロメが「文通が趣味の奥ゆかしい女性」を演じてるんだもん。あんまり騒がしい方法で近づいたら、イメージが崩れてしまう。


「キャンディスちゃん」


 もう少しでサロメのところへ行ける、っていう時だった。誰かがわたしの肩に手を置く。反射的に振り向いたわたしは、途端に顔をしかめた。


「ア、アルバンさん……」


 そこにいたのは、先日の「大人の男女が楽しくお喋りをする集まり」でわたしを散々な目に遭わせたおじさまだった。


 日の光の下で見るアルバンさんは、太っているのになぜか貧相に見える。まるで、育ちすぎたネズミのようだった。


 どうしてアルバンさんがここに? と思ったけど、この会場にいる人たちの目的なんて一つしかないと考え直す。まあ、わたしは例外なんだけど。


 それにしても、アルバンさんがいるってことは、お見合いパーティーの参加者にも、一定数でろくでもない男性が混じってるってことじゃないの? とつい余計なことを考えてしまった。


「また会えるなんて嬉しいよ。この間いきなり帰っちゃったことは気にしてないからね。きっと照れていたんでしょう? いやあ、キャンディスちゃんにはかわいいところもあるんだねえ」


 アルバンさんがニタニタと笑う。けれど、わたしは薄気味悪さよりもサロメのほうが気になって仕方がなかった。


 ……大変! サロメが何かを青年実業家さんに手渡した! きっと例の手紙だ!


 急ぎ足でサロメのところに駆け寄ろうとしたけど、その前にアルバンさんにむんずと腕をつかまれてしまった。わたしの体を寒気が駆け抜ける。


「は、離してください! わたし、急ぎの用が……」


「いいんだよ、キャンディスちゃん。おじさんは何でも知ってるんだ。なにせ、あんなに愛のこもった手紙をもらったんだからね」


 いや、手紙はまだ正しく届けられてないの! サロメが渡したのは、わたし宛ての手紙なの! わたしは軽いパニック状態になっていて、アルバンさんの話をまともに聞くどころじゃない。


 青年実業家さんが封筒を開けた。ああ……マズイ、マズイ、マズイ……!


「もしかしてこんなところまで来てくれたのも、おじさんのためだったりして? ……なんちゃって」


 なんちゃって、じゃないよ! わたしは腕をブンブンと振って、なんとかアルバンさんから逃れようとする。けれど、アルバンさんは一向に手を離してくれる気配がない。


 そうこうするうちに、青年実業家さんが折りたたまれていた封筒の中の手紙を広げてしまった。


 こうなったら、もうなりふり構っていられない! 大声を上げてでも、サロメに手違いのことを知らせないと! お上品なイメージは多少崩れてしまうかもしれないけど、フラれるよりはマシだろう。


 わたしは大きく息を吸い込んだ。けれど、突然視界にアルバンさんが割り込んできて、驚いたわたしは喉まで出かかった声をうっかりと引っ込めてしまう。


「キャンディスちゃん、好きな人にわざとつれなくするような子は、おじさんは好きじゃないぞ。もっと素直に、自分の気持ちを伝えてほしいなあ」


 そこに立たないで、邪魔だから! わたしは精一杯体をひねって、アルバンさんの背後をうかがう。


 すると、そこに立っていたのはサロメ一人だけだった。彼女は呆然とした顔をしており、先ほどまで青年実業家さんが立っていたところには、手紙が一通落ちている。


 遅かった。サロメ、またフラれちゃったんだ……。


 わたしもサロメに負けないくらいしょんぼりとなってしまった。ごめんね、助けてあげられなくて……。

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