幼妻、お見合いパーティーへ潜入する(1/3)
後日のお茶会の席で、わたしはあの集まりではひどい目に遭ったとミケットに文句を言った。
「それは悪いことをしたわね」
ミケットが憂い顔で紅茶にため息を落とす。
「あたしも、あんまり愉快な体験はできなかったわ。二人そろって運がなかったのね」
「そういう問題じゃないと思うけど。まともな男はそんなところにはいないって相場が決まってるのよ」
どんよりするわたしとミケットに、サロメが同情したような視線を向ける。
「素晴らしい出会いっていうのはね、やっぱりお見合いパーティーにしかないのよ。二人とも、一度来てみたらいいわ」
「それって、結婚してても参加できるの?」
「無理に決まってるでしょう」
じゃあ、わたしやミケットは参加資格がないじゃん。っていうより、わたしは別に出会いに飢えてるわけじゃないし……。
ミケットのほうもあまり興味がないようだった。「大人の男女が楽しくお喋りをする集まり」へも、旦那様への当てこすりで行ったんだもんね。冷静になった今は、あれは軽率な行為だったと反省しているのかもしれない。
「そういえば今朝、あんたの家から誕生日会の招待状が届いたわよ」
ミケットが紅茶から目を上げて言った。手提げカバンに入っていたシンプルな白色のカードを出す。
「これ、出す前にちゃんと見直したの? 内容に間違いがあったわよ」
「えっ、どこ?」
うわあ……どうしよう! もう全部送付しちゃったのに! サロメも何か心当たりがあるらしく、「ああ、あそこね」と言っている。
「ほら、これ」
ミケットが招待状の「パーティーの開催時間」の欄を指差す。そこには、「午前四時~午前八時」と書いてあった。
わたしは思わず肩の力を抜く。
「これなら大丈夫だよ。ちゃんと合ってるから」
「何言ってるのよ。ここ、午前じゃなくて午後が正解でしょう?」
「ううん。午前でいいんだよ」
わたしの返事に、ミケットは一瞬言葉を失う。
「でも午前四時からなんて、いくらなんでも早すぎるんじゃ……」
「ああ! しまったわ!」
突然サロメが大声を出したものだから、わたしは驚いて椅子から落ちそうになった。
「もうお見合いパーティーへ行く時間だったわ! ……その前に、これを」
サロメはわたしとミケットに慌ただしく封筒を差し出す。
「文通用の手紙を書いてきたの。あたくし宛てのは、次のお茶会で渡してちょうだい!」
言うだけ言うと、サロメは派手な赤いドレスの裾を華麗に翻しながらカフェから出ていった。まるで嵐のようなその後ろ姿を、わたしはポカンとしながら見送る。
「相変わらず忙しい子ね」
ミケットが呆れ顔で、早速サロメからの手紙を開封している。我に返ったわたしも、マネして封筒を開けた。
その途端、ふんわりと上品な香りが漂う。きっと、サロメが手紙に香水を振りかけたんだろう。オシャレなことするなあ。
宛先には、『世界で一番大切な方へ』と書いてある。つまり、「大好きな親友へ」ってこと? えへへ……。なんだか照れるなあ。
『あたくし、昨日もあなたの夢を見ました。起きている時のあたくしは始終あなたのことばかり考えていますから、きっとそのせいですわね。
このようなことを書いて、どうかあたくしをはしたない女だと思わないでくださいませ。あなたに嫌われたら、この胸は悲しみで張り裂けてしまうでしょうから。
あなたと出会ってからというもの、あたくしはあなたがくださるわずかな優しさでどうにか生きながらえてきたのです。あなたの存在こそが、あたくしが生きる糧なのです。できればこの先もずっとあなたの傍で……』
途中まで読んだわたしは、妙な気持ちになって手紙から目を上げた。何か、この手紙ちょっと変じゃない? 友だち宛っていうより、恋人に向けたラブレターって感じがするんだけど……。
奇妙に思って、ミケットにも手紙を見せることにする。おしまいまで読んだミケットは、難しい顔になった。
「……これ、多分キャンディス宛じゃないわね」
ミケットもわたしと同じ感想を抱いたらしい。二杯目の紅茶を飲みながら、顎の下に手を当てる。
「サロメは、『文通は男受けがよさそう』って言ってたわ。あの子は思い立ったら何でもやってしまうし、きっと意中の男性宛の手紙も書いたでしょうね」
「やっぱりこれ、ラブレターだったんだね。手紙を同時に二通書いたせいで、届け先を間違ったってことかな? サロメも意外とドジなところあるね」
わたしはのほほんと笑ったけど、ミケットは険しい顔をしている。
「笑い事ですめばいいけど。だって、キャンディスがラブレターを受け取ったってことは、本来のラブレターの届け先には、キャンディス宛の手紙が行ってるかもしれないってことでしょう?」
「ああ……確かに。手紙が入れ替わっちゃったんだもんね」
「もしその手紙に、『あなたってまだまだ子どもねえ』とか書かれてたらどうするの?」
「わたし、そこまで子どもじゃないよ。大人リストにはもう四項目もチェックが入ってるから、十分の六は大人だもん!」
わたしは頬を膨らませて注文したマカロンを口に放り込んだ。ミケットが「それを言うなら五分の三でしょう」とツッコむ。
「そんなことを言ってるんじゃないのよ。もし手紙が軽口だらけだったら、サロメの好感度がガタ落ちになるわ。それであの子……」
「またフラれちゃうの……?」
た、大変! このままだと、サロメのお見合いパーティーの連敗記録がさらに更新されちゃう! 親友として、なんとか助けてあげないと!
「この手紙、今からでもサロメに渡せないかな?」
わたしは所在なさげにテーブルに置かれたラブレターに視線を向ける。
「狙ってる男の人にサロメが手紙を送る前に、どうにかして宛先が間違ってるってことを知らせるの」
サロメはせっかちだから、手紙も郵送じゃなくて直接渡すだろう。ということは、今向かったばかりのお見合いパーティーで、サロメは相手の男性にラブレターを手渡しする可能性が高い。
「でも、手紙を届けるためにはパーティーへ行かないといけないのよ。あたしは嫌だわ。既婚者なのにそんなところへ行ったら、ゴシップ紙になんて書かれるか……」
「ミケットってば冷たいんだから! 今は自分の評判なんて気にしてる場合じゃないでしょう? どうしても嫌って言うなら、わたしが行くよ」
サロメが今持ってるのは、わたし宛ての手紙だもんね。
もちろん、そのことに関してわたしには全然責任がないっていうのは分かってるけど、これは「乗りかかった泥船」ってやつだもん。どうせ巻き込まれたのなら、なんとか親友の役に立ってあげないと!
それに、サロメはわたしの大人計画にも最初に賛成してくれたし、ドレスも貸してくれた。彼女には色々とお世話になってるから、このくらいの恩返しをするのは当然だ。
「じゃあ、行ってくるね!」
わたしはラブレターにシワが寄らないように丁寧に手のひらでこすると、慎重に封筒に入れ直す。そして、手紙を片手にカフェを飛び出した。




