幼妻は夜遊びには向かない(3/3)
ふと、部屋の外から物音がする。もしかしてと思い、わたしはベッドから身を起こして寝室を飛び出した。
想像どおり、正面玄関から続く大階段をフェルナンド様が歩いてくるところだった。帰宅したばかりなのか、まだ軍装のままだ。
「フェルナンド様ぁ!」
フェルナンド様が踊り場に差しかかった時、わたしは夫の逞しい体に抱きついた。フェルナンド様が「まだ起きていたのか」と目を見張る。
「フェルナンド様、フェルナンド様……!」
わたしは一心不乱に愛する旦那様に頬ずりした。
心の中にまだ残っていた、フェルナンド様の服を着ただけでは癒やしきれなかった嫌な感情が消えていき、代わりに夫への愛情がどっとあふれてくる。
やっぱりフェルナンド様は最高で完璧だ。頭を撫でられ、わたしは破顔した。
「寂しい思いをさせてしまったようだな。遅くなってすまなかった」
フェルナンド様が後悔の色がにじむ口調で言った。わたしは「平気です」と言いながら顔を上げる。
「フェルナンド様のお姿を見たら、もう元気になっちゃいました」
わたしはその場でくるりとターンしてみせる。その様子を目を細めて眺めていたフェルナンド様が、ふと不思議そうな表情になった。
「その服は私のものか?」
あっ、そうだ。ガウン、脱いでくるの忘れてた。わたしは袖から指を少し出して、襟元をいじる。
「これを着ていると、フェルナンド様に包まれているみたいで安心するので……」
「だが、今は本物が目の前にいるだろう?」
あっという間にガウンを脱がされ、わたしはフェルナンド様にふわりと横抱きにされた。ああ……フェルナンド様のお顔が近くにある……。素敵……。
わたしは目を閉じ、顎を心持ち高く上げた。何をしてほしいのか察したフェルナンド様が、わたしの唇に軽くキスをする。わたしの頭の中は、瞬く間にコットンキャンディーのような薄ピンクのふわふわしたものでいっぱいになった。
何度もキスを交わしながら、わたしはフェルナンド様に寝室まで連れていってもらう。
「湯浴みをすませたら私もすぐに来るから、先に寝ていなさい」
優しい声で言って、フェルナンド様が部屋を出ていく。もう少し一緒にいたいと思う気持ちもあったものの、同じ屋敷に夫がいるという安心感のお陰で、一人でいることへの不満はそれ以上大きく育たなかった。
わたしはベッドの下に置いておいたポシェットを引っ張り出して、月明かりを頼りに中から手帳を取り出す。
今夜の出来事で、わたしは色々と学んだ。夜の世界はとても危険なところだ。今後はもう、「大人の男女が楽しくお喋りをする集まり」には参加しないでおこう。ほら、「苦心して危うきに近寄らず」って言葉もあるし。
失敗を失敗で終わらせず、そこから教訓を得る。こんなわたしって、すごく大人じゃない?
そう思いながら、『NO.1 夜更かしをする』にチェックを入れる。これでリストの残りはあと六個だ。わたしは満足しながら手帳を閉じ、ポシェットの中にしまおうとした。
その時、ラブレターのことを思い出した。そうだった! フェルナンド様に渡そうと思って、ポシェットの中に入れておいたんだった!
どうせならこっそり届けて、びっくりさせちゃおうかな? たとえば、枕の下に入れておくとか!
素晴らしいアイデアに心をときめかせながら、わたしはポシェットの中からラブレターを取りだした。
……いや、正確に言えば「取り出そうとした」かな。
「あれ……? おかしいな……」
なぜか、ラブレターが見当たらない。ポシェットの中身を全部ひっくり返して調べたけど、手紙の入った封筒はどこにもなかった。
部屋に置いてきたのかな……?
そう思って昼間ラブレターを書いた自室の机の辺りを探したけれど、やっぱり手紙は見つからなかった。寝室へ戻り、わたしは首を傾げる。
本当に、どこへ行っちゃったんだろう?
「まあ、手紙くらいまた書けばいいか」
内容は大体覚えているし。
そう思い、わたしは布団にくるまった。でも、なぜだか軽い胸騒ぎを覚えて、なかなか寝つくことができなかったのだった。




