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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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大人の誕生日パーティーとは?(1/1)

『大人になるためのリスト』※期限は三カ月!

 NO.1 夜更かしをする

 NO.2 落ち着いた振る舞いを心がける

 NO.3 上品な趣味を持つ

 NO.5 見た目を変える

 NO.6 フェルナンド様を支える

 NO.7 お化けを怖がらない

 NO.8 秘密を持つ

 NO.10 周りの人といい関係を築く


 わたしの大人リストの進み具合は、今のところこんな感じだ。


 ランジャック博士のパーティーで上手く立ち回れたら、NO.10の『周りの人といい関係を築く』にチェックを入れられるはずだったんだけど……。


 あの集まりの最中にわたしは大したことができなかったので、この項目は未達成のままである。ちょっと残念。


 でも、まだまだ挽回(ばんかい)のチャンスはあるはずだよね?


 それに、リストを作ってからまだ二週間くらいしかたっていないのに、もう二項目も達成できたんだ。


 一応、期限は三カ月って設定したけど、このペースでいけば、惜しい結果に終わったNO.10『周りの人といい関係を築く』も含め、再来月の半ばくらいには全項目を達成できるんじゃないの?


 わたしってなんて優秀なんだろう! これはきっと、フェルナンド様もますますわたしのことが好きになってしまうに違いない。


『キャンディス。君は成熟している上に素晴らしい才能を持っているんだな。こんなに早く大人に成長できる女性はそうはいないだろう。愛している』


 きゃ~! そんなふうに言われちゃったらどうしよう!? わたしも大好きです、フェルナンド様!


 子どもっぽいとフラれちゃう。それって、逆に言えば大人になれば好かれるってことだよね? フェルナンド様にさらに愛してもらえるように、今後も張り切ってリストを達成していかないと!


 次に取り組むのは……『NO.3 上品な趣味を持つ』にしよう!


 スキップしながら、わたしは食堂へ行ってワインを頼む。


 上品な趣味といえば、ワインのテイスティング! ワイングラスを傾けてるフェルナンド様もすごく素敵だから、わたしも上品にワインを味わえるようになれば、また一歩大人に近づけるに違いない。


 わたしはグラスになみなみと赤ワインを注ぎ込む。では、乾杯~!


「奥様。来月の誕生日パーティーの演出について、最終確認をしてもよろしいでしょうか?」


 グラスに口をつける寸前で食堂に入ってきた家令に話しかけられたために、わたしはうっかりとワインをひっくり返しそうになった。


 慌ててグラスをテーブルに置いて、「いいよ」と言う。


 大人リストに気を取られていて、わたしは自分の誕生日のことなんて完全に頭からすっぽ抜けていた。これ、すごく大人っぽくない? 


 誕生日パーティーを心待ちにしてるフェルナンド様なんて見たことないもん。それってつまり、大人は自分の誕生日を忘れてるくらいでちょうどいいってことだよね?


 それにしても、誕生日って素敵! だって、何もしなくても自動的に大人に近づけるんだから。そんな最高の日が、目前に迫っている。来月の半ばには、わたしは二十歳になるのだ。


 二十歳……なんて晴れやかな響き!


 十代っていうと、まだ子ども、って感じだけど、二十代はかなり成熟してるイメージだ。素晴らしすぎる。


 フェルナンド様も、「二十歳の妻とは、なんて大人なんだ!」と感激することだろう。ふふふ、今からニヤけちゃう。


 二十代になる記念すべき日だから、今回の誕生日パーティーは絶対に失敗がないようにしないと! わたしは背筋を伸ばして、家令の話を聞く。


「まずお誕生日ケーキですが、五段重ねの大きなものを想定しております」


 おお、巨大ケーキ! いいね!


「次に、会場では終始愉快な曲を流し、風船もあちらこちらに設置する予定です」


 賑やかな音楽と風船! これもいいなあ~。


「それから、忘れてはならないのはぬいぐるみ! 特大サイズを会場の真ん中に据えて、参加者が自由に触れるようにすると楽しいのではないかと存じます」


 わあ~、ぬいぐるみ! そういうの、皆面白がりそう! 特に子どもなんかには大ウケすること間違いないしだ。


 ……うん? 子どもに大ウケ?


 わたしはハッとなった。


「……ダメ」


 わたしは話を続けようとする家令を慌てて遮った。家令は「はい?」と聞き返す。


「何かお気に召さないことでもございましたか?」

「……うん、全部」


 大きいケーキに楽しい音楽に風船にぬいぐるみって……。これじゃあ、子どもの誕生日パーティーじゃん! わたしはもう大人なのに! こんなの、絶対に許可するわけにはいかないよ!


「では……どのような演出をお望みですか?」

「それは……」


 いきなり聞かれても困る。わたしは意味もなく手を上下に振りながら、どうしたいのかを説明した。


「ええと……もっとこう、大人っぽい雰囲気っていうか……」

「大人っぽい雰囲気とは?」

「それは……だから……」


 家令の意地悪! 自分も大人なんだから、なんとなく分かるでしょう?


 ……あっ、そうか!


 わたしの脳内で、花火のようにパッとアイデアが閃いた。


「ちょっと出かけてくる!」


 わたしは慌ただしく席を立つ。家令が「どちらへ?」と驚いたような顔をした。


「お誕生日会の演出はどうなさるのですか?」

「それを今から決めるの!」


 振り返りもせずにそう言って、わたしは食堂を出た。



 ****



 屋敷を出発したわたしは、街に出た。大人っぽい人を探し、辺りをきょろきょろする。


 というのも、大人な人を見かけたら、どんな誕生日パーティーが理想かを聞こうと思っていたのだ。大人のことは大人に質問するに限る。わたしって頭いい!


 でも、ただの大人じゃダメだ。なにせ、今回はわたしが二十歳になる日。そんな重要な瞬間を祝うためには、大人の中の大人に話を聞く必要がある。


 辺りを物色しながら歩いていたわたしは、何気なく近所の公園に入った。そして、園内の東屋で最高の発見をする。


 おばあさんやおじいさんたちが、のほほんとお喋りをしていたのだ。


 これだ! 


 集まっているのは、少なくともわたしより五十歳は年上に見える人たちばかりだ。これぞ大人の中の大人。この出会いに感謝しないと! 


 わたしはポシェットから手帳と携帯用のペンを取り出し、高齢者たちに歩み寄る。


「あの、すみません。ちょっとお話を聞かせていただいても?」

「あらあ、かわいらしいお嬢ちゃんねえ」

「うちにも同じくらいの孫がいるわ」

「アメちゃん食べる?」

「はい、いただきます」


 よっぽど暇を持て余していたのか、話し好きなのか、皆わたしを歓迎してくれた。もらったイチゴ味のキャンディーをもぐもぐと頬張りながら、わたしは手帳を開く。


「皆さんにお聞きしたいんですけど、お誕生日はどんなふうに祝われると嬉しいですか?」


「あら、お嬢ちゃん、高齢者サロンで発行している新聞の記者さんだったの? 小さいのに大変ねえ」


「いえ、わたしはもう、そこそこ大人で……」


「私は先月誕生日だったんだけど、あれには参ったよ」


 品のいい紳士が、わたしの話を遮って頭を掻く。


「出された料理が固くてねえ。柔らかいものじゃないと噛めないのに」

「なるほど、柔らかいもの……」


 誤解は解けなかったけど、今はそれよりもインタビューをするほうが大事だ。わたしは「料理は柔らかいものがいい」と貴重な意見を手帳にメモする。


 紳士の言葉をきっかけに、ほかの高齢者たちもわいわいと話を始めた。


「かといって、歯に詰まるものもダメよねえ」

「年を取ると朝が早いから、夜に誕生日会をされると困るかな」

「誕生日なんて嬉しくないさ。先に旅立っていった友のことばかりが頭に浮かぶ」


 なるほど、なるほど……。自分以外の人のことまで考えるなんて、これが大人の余裕ってことか。


 一通り意見を聞き終わったわたしは、お土産に色々な味のアメをどっさりもらって公園を出た。手帳には、ためになるアイデアがたっぷりと記載されている。


 これでわたしの誕生日会の演出の方針は決まった。当日が今から楽しみだ。


 ……あっ、そうだ! 招待状に、「大人っぽいプレゼントを持参してください」と書いておくっていうのはどう? 皆、何をくれるのかな? わくわくしちゃう!


 帰り道、わたしは劇場の前を通りかかった。そういえばノアくん、いつかはここで演奏したいって言ってたっけ。


 そんなことを考えながら、何気なく中を覗いてみる。すると、明日コンサートが開催されると掲示板に書いてあった。


 コンサートかあ……。そういう催し物に参加するのって、なんだか大人じゃない? リストの『NO.3 上品な趣味を持つ』も達成できるかも!


 いい思いつきに心を弾ませながら、わたしはポシェットからお小遣いを出してチケットを二枚買う。もちろん、わたしとフェルナンド様の分だ。


 エレガントに音楽を鑑賞するわたしの姿を見たら、フェルナンド様もきっと感心するに違いない。帰り道、わたしはニヤニヤが止まらなかった。


 帰宅後は、中断していたワインのテイスティングを再開することにした。


 家を出る前に用意したグラスとワインはすでに片づけられていたので、もう一度別のものを持ってこさせ、あらためてボトルの中身をグラスにドバドバと注ぎ込む。


 ……そういえば、テイスティングってどうやるんだろう?


 今さらになって、わたしは素朴な疑問を感じた。でも、深くは考えないことにする。多分、ボトルを一本空にすればいいんだろう。


「いただきます!」


 わたしは高らかに声を張り上げて、ワインをごくごくと飲み込んだ。

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