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幼妻は大人になりたい ~年上旦那様との溺愛生活を守るために大切な10のこと~  作者: 三羽高明


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爆発まで、あと80日(1/1)

 それからしばらくして、パーティーはお開きになった。帰宅しようとする招待客たちに、ランジャック博士がお土産を配る。なんでも、彼の発明品らしい。


 見た目は、四角い小型のタイプライターって感じかな。数字と文字の書かれた鍵盤が、下のほうについている。


 でも、これはただのタイプライターじゃなさそうだ。だって、上部には『爆発まで、あと○○日』という不穏な文字が書かれた、木製の日めくりカレンダーみたいなものが設置されていたから。


「これは、あらかじめ決めた日までに秘密の言葉を入力しないと、爆発する時計です」


 ランジャック博士は善良そのものの顔で言った。


「こんな屋敷くらいなら、木っ端みじんになってしまうかもしれませんな。あははは」


「さすがあなた!」


 ランジャック夫人は、感激のあまり卒倒しそうになっている。


「最初に、何日後に爆発させたいかを入力してください。その後、秘密の言葉を設定します。すると、時計が動き出してカウントダウンが始まるのです」


 とんでもないお土産を押しつけられて、参加者たちは戸惑っていた。フェルナンド様も「なんと物騒な……」と眉をひそめている。


「とてもではないが、こんなものは家に置いておけない。キャンディス、それは夫妻に返しなさい」


「いえいえ、使い道はありますよ」


 ランジャック博士は顔の前で手を振った。


「たとえば、どうしてもやり遂げなければならない仕事があるとします。そこで、この時計の出番です。まずは、爆発の日を仕事の締め切り当日に設定します。次に、秘密の言葉を『任務完了』とすれば、どうなるでしょう? 時計の持ち主は、爆発を避けるために『任務完了』と入力しなければならないから、一心不乱になって作業をするはずです」


「だが、実際に仕事が終わっていなくても、秘密の言葉を入力することは可能だろう?」


「それはもちろん。しかし、この時計には嘘発見器の機能も組み込まれているのですよ。もし仕事が終わっていないのに『任務完了』場合と打ち込んだら、ドカン! です。もちろん、秘密の言葉を間違えても爆発しますよ」


「つまり、この時計はそういう目的で開発されたものなのか。尻叩き役というわけだ」


「追い詰められないと何にもしない方は多いですからねえ。スケジュール管理のためのものですから、入力できる秘密の言葉にも制限はございます。必ず『○○完了』といったニュアンスのフレーズにしてください」


「皆様、こちらがマニュアルですわ」


 ランジャック夫人がお客さんたちに紙を配る。


「もし、爆発は避けたいのに、どうしても期日までにお仕事が終わらない、という時は、ここに書かれた手順に従って、時計を止めてくださいませ」


 マニュアルを手渡されても、フェルナンド様は渋い顔のままだった。困ったように時計を見ている。


「博士、やはりこれは私たちの家には置けない。キャンディスもそう思うだろう? ……キャンディス?」


 フェルナンド様はわたしが早速時計を操作しているのを見て、目を丸くした。


「キャンディス、何をしているんだ」

「せっかくだから、使おうかなと思いまして」


 日付の入力が完了した。


『爆発まで、あと八十日』


 続いて、秘密の言葉を打ち込んでいく。もちろん、「リスト完了!」である。


 ランジャック博士がこの時計の詳細を語った時に、わたしはピンと来たのだ。これを使えば、より確実に大人リストを完成させられる、と。


 思い立ったからには、やってみないと! 動き出した時計を見て、わたしはすっかり満足していた。


 一方のフェルナンド様は手のひらで額を押さえている。


「キャンディス……どうしてそんなに嬉しそうなんだ。このままでは、あと三カ月もしないうちに私たちの家が吹き飛ばされてしまうんだぞ?」


「心配いりません。締め切りまでに、必ず使命を果たしてみせますから!」


「そもそも、君が入力したのは何の日付なんだ?」


「それは八十日後のお楽しみです!」


 あと八十日後には、わたしはフェルナンド様に相応しい、素敵な大人の女性になっている。それだけではなく、屋敷も爆発を避けられるんだ。


 なんていいことずくめなんだろう! ランジャック博士って発明の才能があるんだなあ。


 こうしてわたしは、物騒極まりない時計を抱え、ちょっぴり複雑そうな顔をするフェルナンド様と手を繋いで、ランジャック博士の家をあとにしたのだった。

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