122話
「真宵、先生……」
深い深い暗闇の遥か底に堕ちた永新に対して真宵がやったのは、顔を上げさせる事。ただそれだけだった。
引き上げるために手を差し伸べるのではなく、自らを導とすべく、永新の心を支配する暗闇を晴らす、一つの光を見つけさせるために、顔を上げさせた。
永新なら、それだけで十分だと知っているから。
妖魔達の中で、一番永新の事を見て来た真宵だからこそ分かる。永新に必要なのは、手を差し伸べてくれる人でも、引っ張り上げてくれる人でも無い。彼に必要なのは、隣で共に歩いてくれる人、ただそれだけだと、知っているから。
だけども、真宵は隣には立てない。最強の名を冠する真宵には、永新のずっと前で、彼が手を伸ばしたいと思える程に高い位置で、燦然と輝く事しか出来ないから。彼が歩む道を、立ち上がるその時を、一番星の如く光り輝く事しか出来ないからこそ、真宵は自分に出来る事を、全力で遂行するのみ。
自分の為すべき事を為した時、永新は一人でも立ち上がる事が出来る。永新がそれだけの力を持っている事を、真宵は知っている。
真宵は過去に一度して、永新に無理難題を突き付けた事は無い。永新ならば出来る範囲の物事しか挑戦させて来なかった。それは、今回も同じ。
真宵はただ彼の前で、灼熱の太陽の如く、何よりも輝かしい一番星の如く、燦然と輝き続けていればいい。それだけで、十分なのであった。
――見ていろ。
永新の心を震わせるのは、恐怖か、それとも興奮か。
真宵の匂いと温もりが残るライダースジャケットを肩から掛けた永新は、額に宿った紅蓮の魂に触れ、何よりも頼もしい歴史に残る女傑の背を見つめる。
最強にして無敵。その強さが絶対的である事を証明すべく、真宵は霊力を解放していく。
その雄姿を、永新は一瞬たりとも見逃さぬよう、固唾を飲んで見守る。
「最強……。どこまで驕り高ぶるか、子犬。それとも何か、無様に敗北するその姿を小僧に見せるための前振りか? どちらにせよ、殊勝な事よ……。あの小僧には確かに、私を殺す力がある。だが、あの小僧では、私を殺す事は出来ない。持ち得る役と、小僧の持つ力が釣り合っていないのは、貴様でも分かっているはずだ。有り得もしない、限りなく零に近い希望に縋るのは――恥だと知れ。汚辱に身を晒しながら泥に塗れる行為は、いかな私であろうとも興は覚め、機嫌を損ねる真似である。ここまで言っても理解出来ぬほど、貴様は愚かでは無いはずだ、子犬よ。……貴様は、我が軍門に下れ。さすれば、この私が手ずから貴様の牙を、爪を研いでやろう」
「――ハッ! オレの敬愛する主はただ一人。首を垂れ、忠義を誓うのは白麗様、ただお一人のみだ。オレの牙に、爪に触れていいのも、白麗様ただ一人のみ。目を覚まして早々で悪いが、その体……返してもらうぞ、妖魔の王」
「その言葉……後悔するぞ」
「そっくりそのまま返してやろうじゃねぇか。ニセモノさん?」
「図に……乗るなッ――!!!!!」
永新に背を向けた真宵は、一歩、また一歩と、言葉を交わしながら彼我の距離を詰めていく。
妖魔の王の言葉を受けた真宵が一歩を踏み出す度に、彼女の背に陽炎が揺らぐ。
そして遂には、お互いが大気を震わすような霊力を放出し睨み合った末に、お互いの姿が掻き消える。
瞬間、ぶつかり合う二つの影が生み出す衝撃の波濤に、永新は思わず小さな悲鳴を上げて、気圧されるかのように後ろに向かってたたらを踏む。
直後、永新の目では捉えられないような速度で――否、幾度となく瞬間移動を繰り出し、互いに互いの攻防を繰り返す光の瞬きが、衝撃の残光が永新の視界の中で縦横無尽に繰り広げられていく。
「っ……!」
右で爆発が起きたかと思えば、次の瞬間には左からぶつかり音が聞こえてくる。
お互いに攻め合い、防ぎ合う攻防は、如何にして瞬間移動による先手を取り続けるか、と言う後手の先の取り合いであり、時にはフェイントを入れるかのように白香厭麗が真宵の瞬間移動する先に回って真宵の有利を奪いにかかる。しかし、真宵は更にその裏をかくように動き、中級程度の妖魔であれば簡単に消し飛ぶような霊力を妖魔の王目掛けて放つも、妖魔の王はそれをすんでの所で防ぐ。すかさず後隙を狙う妖魔の王だが、しかして真宵は瞬間移動によって攻撃後の隙が生じないが故に、白の体から妖魔の王を削り取っていくかのように攻めていく。だが、白香厭麗もまた、それを防ぎ、時に攻めに転じる事で、真宵の独壇場を防いでいく。
そのようにして何度も何度も攻防が入れ代わり立ち代わり巻き起こり、永新の視界に収まらない範囲で真宵と白香厭麗はお互いの霊力をぶつけ合う。
最強と、最凶。
その二つの衝突を前に、永新は真宵の背中だけを目で追う努力をしていた。
「……っ」
見ていろ、と言われた背中を早々に見失い、空間全体を使ってぶつかり合う二人の姿を、永新の目は捉える事が出来ていなかった。
それが意味するのは、時期尚早。
妖魔の身でありながらその身にそぐわない倶利伽羅の環境で生きて来た永新が本来の力を取り戻したのが、凡そ三週間前。永新が白に言葉巧みに乗せられ騙されて妖魔の血を体に取り込んだ日から、たったの三週間しか経っていないのだから、仮初の力しか有していない永新に、この世界における最高レベルの戦いに足を踏み入れる事は時期尚早にして、自殺行為でしかなかった。
白香厭麗が目覚めて、真宵が足止めに動いてくれたあの時。
永新はそれこそ、自惚れていた。
――最強たる真宵から教えを受け、倶利伽羅を相手取り、羅威竿と共に中級妖魔を屠った。それから、格上である人形使いを追い詰め、数多の犠牲の上で裏切りの誠一郎を殺した。
そう言った経験が、永新を強くしていったのは間違いではない。だが、永新が力を付けていくのに反して、永新の心は、幾度となく壊れては修復を繰り返し、事を負う毎に弱くなっていった。
そして今回。白を取り戻す為、妖魔の王を殺すと言う作戦に参加すると言うだけで永新は「選ばれた」気になっていた。自分の力ではなく、永新に与えられた力が、この重大な作戦に永新を「選ばざるを得なかった」と言うだけであるのにもかかわらず。
それに拍車をかけたのが、羅威竿とルゥの想いだろう。永新にとって新しくできた仲間であり、家族だった二人。その二人の命を、願いを異なる形で預かってしまったが故に、永新はそれを己の力だと勘違いしてしまった。
時期尚早であるが理由である、付け焼刃の力。永新が宿す実力と言うのは、彼が持ち得る力の中でも、限られたほんの一部しかない。敢えて口に出すのであれば、真宵から授かった戦闘技能と、それを実現できるだけの持ち前の身体能力及び霊力の操作性くらいしか挙げられない。
永新のみに宿ったそれ以外の力こそが「付け焼刃」であり、それらは所詮他者からの借り物。仮初の実力でしか無いと言うのが現実であり、永新がこの場に相応しくない事の証明であった。
「……妖魔の王を殺す力、妖魔としての力。それから、羅威竿と、ルゥの、想い……。全部、俺の力なんかじゃ、無いって言うのに――」
選ばれたくなんて無かった。
そう口にしたつもりでも、選ばれた事で、自分が特別であると言う事実に悦びを感じていたのは紛れも無い真実。だからあの一瞬、自分でも妖魔の王を止められるんじゃないか、などと言う自惚れに駆られた結果、身の程を叩き込まれた先で恐怖を植え付けられ、真宵にいらぬ心配を与えてしまった。
「――なら、俺はどうして、ここに居る……?」
――時期尚早、足手纏い、落ちこぼれ、失敗作。
あらゆる文言が永新を貶める中、それでもまだ自分がここに居るのは何故か。
邪魔であるならば、真宵の邪魔をしない為にも逃げて、隠れて、縮こまって震えているべきなのでは無いか。妖魔の王を殺す事が出来るのが永新ただ一人だけだとしても、どこか閉じ籠って、全てが終わるその瞬間まで、泣いて、喚いて、震えていればいい。それこそが身の丈に合った行動なのでは無いかと、心に宿った恐怖が訴えてくる。
頭の中で巡り巡る思考が永新を落ち込ませ、彼の口から疑問を吐かせる。恐怖が支配し、彼から役目を奪い取るべく闇に追い詰めるように。
しかし、舌の上で転がした疑問の言葉に対する反論を考えるよりも先に、永新の口は疑いようのない真実となる答えを口にしていた。
暗闇を裂くような鮮烈なまでに猛々しい光を。
傲慢で、唯我独尊を地で行くような、永新をも焼き焦がす光を見つけて。
「……真宵先生は、なんて、言っ、た……?」
彼方で起こった衝撃が風となって永新の髪を撫でる。
明らかな足手纏いである永新に対して真宵は一度として永新を貶めるような言葉を吐いたりなど、絶対にしなかった。その上で、真宵は恐怖に支配された永新に向かって何と言ったか。
――見ていろ、オレの背中を。
単純明快にして、傲岸不遜。
そんな、宿無真宵と言う女性の粋を集めたような灼熱の太陽を思わせる言葉は、思い出すだけでも永新の心を、魂を、確実に震わせた。
泣くんじゃない、と否定した訳でもなければ、俯くな前を向け、と強制した訳でもない。
泣く事も俯く事も肯定した上で、真宵は自分が信じる永新の心を信じ、彼女なりの永新を勇気づける言葉を送ったのであった。
であるならば、真宵からの信頼を受け取った永新が何をすべきなのか、答えはただ一つ。
「見なきゃ……。真宵先生の、背中を……! 見るんだ、真宵先生を……あの人の、背中を――!」
グッ、と固く握り締められた拳は熱い。けれども、滾らせた霊力は永新の心を映し出す鏡のように弱々しい。それは、永新の心に巣食う恐怖が、立ち上がろうとする永新を抑えつけているかのよう。真宵が光を示してくれたは良いものの、幾度となく永新を突き動かし、転がし、何度も何度も後悔するに至った所以の恐怖を打ち払うのは、真宵ではなく、永新本人にしか出来ない事だった。
纏わり付く恐怖は、妖魔の王が植え付けたものだけではない。
それは永新が生まれてから今日に至るまでに培われてきた、根源的な恐怖。永新が望んで手にした訳ではない、永新が虐げられてきた記憶とも言い換える事が出来るものであった。
「……っ」
その恐怖が、永新に訴える。
諦めろ、と。何をしても無駄だ、と。
胸中の心象風景と、現実とが重なり、リンクする。
これまで何度も何度も永新が新たな一歩を踏み出そうとする度に邪魔をしてきた声が、はっきりと聞こえてくる。永恋に助けを求めようとした時も、両親に助けを乞おうとした時も、いつだってそうだった。その声に支配されると、永新の体はまるで自分のものではなくなってしまったかのように言う事を利かなくなるのだ。
今も、同じように。
堅く握った拳が、震える。
屈する事を覚えた膝に、力が入らない。
全身を這う怖気に、目の前が真っ白になる。
強張った身体が、ガチガチと耳障りな音を打ち鳴らす。
そして遂には、苛烈さを増す恐怖が形を成して、差し込んだ光に向かおうとする永新を、闇に留まらせるかのように絡みついてくる。
壊されては修復し、また壊される。その繰り返しで、つぎはぎだらけ、軽く小突くだけでも欠けてしまいそうな程に脆くて弱い永新の心では絡みつく恐怖の闇を振り払う事は出来ない。
やがて、絡みつく根源的な恐怖は、手を、足を、口を塞ぐように絡め取っていく。間もなくして、遂には、呼吸や意志の決定権までもが恐怖に支配されていくかのように、永新の全ての感覚が恐怖によって絡め取られ、遮断されていく。
そうして残ったのは、闇の底で恐怖に囚われたまま、差し込んでくる光を見上げるだけの虚ろなる存在。
太陽に恋をして、近付こうとして翼が焼け落ちて死んだ男の話を思い出す。
そんな、惨めで、愚かしく、滑稽でありながら――何よりも強くて美しい死に様は、自分には相応しくない。
恐怖に囚われたまま、太陽に近付く度胸も無い自分には、指を咥えて見上げる姿がお似合いだと、死ぬまで後悔し続けるのが相応しいと断じて、永新は伸ばした手を、静かに下ろしていく。
暗き闇と化した恐怖に染まった永新の心には、「諦念」だけが霧のように満ち満ちているのであった。
(――駄目だ。俺には、何も、出来ない。立ち上がりたくても、立ち上がれない。立ち上がった所で、何が出来る訳でも無いのに……。だって、俺には何も……、何も、無いから……。どれだけ真宵先生が俺の事を信じてくれたとしても……俺は、俺自身を信じる事が――出来ない)
永新には、圧倒的に成功体験と言うものが足りていなかった。
あるのは全て、否定され、貶され、蔑まれ、虐げられ続けて来た経験のみ。それらが永新を作り上げていると言っても過言ではなく、もし仮に永新が妖魔になる道を辿っていなかったとしても、彼の生は極端に短かっただろう。もしかすれば、母親が死んだあの日に、全ては終わっていたかもしれない。それ程までに、永新は人間としてあるべきものが大きく欠けていた。
故に、永新は自分に自信など持ち得ていない。
出来る訳が無い。出来なくて当然。そうやって否定され続けて来た永新にとって、初めて肯定してくれたのが、白であった。白が永新に「生きていてもいいんだ」と教えてくれたのに対して、真宵が教えてくれたのは「お前なら出来る」と言う、永新の自信に繋がるはずだった小さな火種。
立ち込める「諦念」に晒された永新の足元で、それだけが永新の心が折れるのを妨げてくれている。
だがそれも、風前の灯火。消えるのは時間の問題であったのだが、それは確かに、永新の胸に燻る感情に火を点けていた。
――悔しい。
その証拠として、見上げる事しか出来ない今の自分に対して永新が抱いたのは、悔しい、と言う感情。
しかしてそれは、何も出来なかったと言う事象に対して自己を否定された時に起こる感情。それはつまり、永新は自分に対して価値がある事を認めている事の裏付けでもあり、その価値を証明できなかった事に対する怒りが、悔やみとなって永新に火を灯したのであった。
自己肯定感が底を尽いて、マイナスへと振り切っていると思われた永新であったが、白や真宵、羅威竿やルゥと言った仲間を超えた家族のような存在に囲まれた時間は、永新の一生から見ても本当に僅かでありながらも、確かに永新の心に爪痕を残した価値ある時間だったと言えるだろう。
(……羅威竿の願い、ルゥの想い。大切な人から託されたものを、俺の所為で無に帰すことが、どうしても許せない。無理だと分かっているはずなのに、悔しくて悔しくて、堪らない……ッ!)
立ち込めた諦念の中、脱力し果たしていた永新の四肢に、再び力が込められる。
恐怖が形作った黒の拘束具は、思いの外容易く引き千切れる。
それでも、永新の心に巣食う恐怖の規模は尋常ではなく、千切った上から更に覆い被さるように絡みついてくるため、どれだけ引き千切ろうと、いたちごっこの繰り返し。
その中でも、辛うじて届いた左手が、永新の顔面を覆っていた恐怖の闇を引き千切り、ようやく真宵が指し示してくれた光をその目に取り戻す事が叶った。
「――ぷはぁっ!!! ……っ、俺は、前に、進まなくちゃ、いけないんだ――ッ!?」
だが、それも束の間。
一面が恐怖に染まる心象風景の中、永新の顔面に闇が伸び出来て、視界は、口は、再び暗闇に閉ざされる。
それは、長年蓄積されてきた本能が「黙っていろ」と訴えているようなもので、しがない理性でしかない永新には、逆らう事が許されない。
それでも、ようやく動き出した四肢を再び止めてしまえば、もう二度と奮起する力は得られないと理解しているが故に、永新は暗闇を払い続ける。
――だがしかし。
永新の決死の抵抗も、無限に広がる恐怖の前では無力と嘲笑されているかの如く終わりの見えない闘争を続けているかのようで、次第に永新の抵抗の手も、止まっていく。
(やっぱり、俺には、何も――)
諦念がぶり返し、微かに残った最後の火種すらも消えてしまえるかと思えた、その時だった。
永新の耳を打つのは、連続する遠鳴りの雷鳴。
それから、安心感を与えてくれる、小さくも頼もしい囁くような笑い声。
『――楽しそうな事、してるじゃねぇか』
『――ん。すこし、くろうした』
「ッ!?!!?」
雷鳴と指を鳴らす音に続けて二つの声が聞こえたかと思うと、永新の四肢は自由を取り戻す。
これまでの苦労が嘘のように思える程、容易く恐怖が払われた以上に、聞き慣れた声に永新は振り返らずにはいられなかった。
だがしかし、全身に絡みついていた恐怖が払われたと言うのに、永新の目にはまだ闇が絡んだまま。
一目でも会いたいと言う思いが永新の体を突き動かしてその目隠しを取ろうと動き出すのだが――、その手は、見えない二人によって止められてしまう。
『安心しろ。お前に必要なのは、振り返る事じゃねぇ。前だけ見てりゃあ、お前なら何でもできるはずだ。何せ……お前は俺様が信じて託した、偉大な後輩様だからな』
『……おもにに、なるってわかってた。けど、えいしんになら、しんじて、たくせた。だから、いっておいで、えいしん。ふりかえるひつようは、ないから』
『諦めるのはまだ早ぇ。お前はまだ、立ってるだろ? 最後まで膝を屈しなかったお前なら、間違いなく出来る。俺様達の王は、ただ一人だ。任せたぜ、永新』
そう言って、永新に前を向かせる二人の声に、永新は目隠しの下から大量の涙を溢れさせる。
もう二度と、聞く事の出来ない二人の声。これが例え永新の心が生み出した幻想だったとしても、永新にとってはそれで十分だった。
恐怖に打ちひしがれた時とは意味の異なる涙を湛えた永新は、二人の願いを聞き届けるかのように前を、目隠しを貫通して永新に光を届ける真宵の輝きに向けて向き直った上で、一つの我儘を口にする。
「……また、二人には、会える?」
『…………会う必要は、ねぇな。俺様は、お前の中に居続ける。だから、ほら、さっさと行ってこいってんだ』
『なきすぎ』
『泣いてねぇっての!』
『……だから、いってらっしゃい、えいしん』
「――っ!」
もう二度と会う事は無い。
そう言った二人の声に、永新はより一層涙を強く滲ませるのだが、ただ一言を告げて、心に留まった諦念も、恐怖も、何もかもを吹き飛ばして、もう一度、力強く立ち上がるのであった。
「行ってきます――」
二人に押された背中は、とても軽く、恐怖を打ち払った永新が再び目を開くと、変わらず永新では手の届かない領域に居る二人がぶつかり合っていた。
そうして生まれる衝撃波が地面を抉り、永新の頬を撫でる。
先程までは恐怖に囚われていたが故に、ただそれだけでも震えてしまっていたのだが、今の永新には、最早何も――一切合切全てにおいて、恐怖するものは存在し得なかった。
故にこそ、永新は首から提げたガラス球に祈りを捧ぐ。
「……見てて、二人とも。――我流・千変万火」
瞬間。
全てを振り切った永新は、その身に宿りし霊力を解放させ、完成されし無敵の『千変万火』をその身に纏わせるのであった。
翻訳は……必要無いですよね。




