十五話 気持ちの想察 碧と先生
朝目が覚める。俺の体は何故か身動き取れない感じに押さえられていた。柔らかく気持ちの良い感触が左手を押さえ込み。温かく、安心する匂いのする、ほどよい重みの何かが右腕を押さえている。左手を抱き締めて隣で寝ている一水先生。あれから結局、洗った下着を着けていない。そのため、つんとした何かの大きさや形まではっきりと、押し付けられた腕から伝わってくる。下もはいていないはず。彼女の足は、抱き枕を抱くように俺の足へ絡みついている。太ももの辺りに妙なはかほかとした暖かさを感じてしまう。
右腕では碧が俺の腕枕に乗っている。顔をこちらに向けているせいで吐息が俺の耳に当たる。
何で二人とも俺の寝ているベットにいるんだろう。寝ている間に忍び込んで来たのだろうことは、わかる。だか何故?と思考がぐるぐると廻っていると、碧がモゾモゾと動きだす。目が覚めたようだ。
「ん、おはよう」
「あ、あぁおはよう」
何事も無かったように朝の挨拶が行われる。その声で起きたのか先生も動き出す。
「ふぁぁ。けーすけちゃんおはよう」
「あっ、はい、おはようございます」
こちらを見つめたまま肩に頬をグリグリ寄せてくる。手や足を離してくれるつもりはまだないようだ。それを見た碧が「ずるい」と小さく呟き、同じように肩にグリグリしてくる。何なんだこれはいったい。
「あの、お二人は何で俺と同じベットで寝ているのでしょうか」
その問いには先生が答えてくれた。
「んー。それが昨日寝る前なんだけど、碧ちゃんがケースケちゃんと寝るって聞かなくてね。何度止めても部屋抜け出してケースケちゃんのところ行こうとするから、二人きりで寝るなんて、認められないじゃない?で、止めるの面倒になって私も一緒に寝てケースケちゃんを守ることにしたのよ」
途中て放り投げてる気がするとか、なんだそれはと言いたい。が、まぁ何があったかはわかった。守るどころか襲ってないかとツッコミたい気はするが、グッと言葉を飲み込む。
「むぅ、邪魔者」
碧の反応を見るに、どうやら先生の言ってることは正しいらしい。
「碧は何でそんなに俺と寝ようとしてたんだ?」
「寝たいから。一緒に」
端的である。この言葉以上の意味はないだろう。事情はわかったが、二人とも早く離れてくれないと、不味い。こんな女性二人と密着した状態で、鶏介の鶏さんは朝の元気ブーストも加えて猛り立っており、足を絡める先生の太ももすれすれな場所に控えてしまっている。変に動くと当たってしまうため、できれば二人の方から退いて欲しい。
「あの、先生はそろそろ起きて服取り戻らないといけないですよね?退いて貰いたいなーって」
先生に伝えるが、離れてくれない。
「今日このまま休んじゃおうかしら」
何を言ってるのだこの先生は。まだ酒が残ってて酔っているのだろうか。
「かずみん、チクるよ」
「ちょっと、碧ちゃんそれはずるいわ……」
渋々と碧の言葉にようやく離れてくれる。チクるって何だろう。学校にとかだろうか。確かにそれはヤバそうだ。この状況が広まったら、生徒に手を出した教師みたいになって最悪、首だろう。先生のことは好きなので、先生とそんな仲になったらとか考えると、嬉しい反面、教師としてのキャリアを潰してしまうことに成りかねないのは、やはり不味いと思う。俺は彼女に先生でいて欲しいのだ。
「俺も弁当作ったりしないと行けないから、碧も早く退いてくれ」
こちらも渋々と退いてくれる。ようやく解放された。弁当やら何やら朝の仕事を行うため、立ち上がる。すると何やら二人の視線が突き刺さる。訝しげに二人の視線を追うと、俺の鶏君が元気いっぱいになってパジャマのズボンを膨らませていた。早くこの場を離れたいと思っていたら、自分の状態を忘れていた。俺は前屈みになってそれを隠しながらキッチンへと逃げるように向かう。追いかけて来て後ろから無言で覗き込んでくる二人がちょっと怖かった。
朝食を済ませると、碧は一端家へ戻ることに。壊れた窓の対応は昨日のうちに碧父へ連絡してあるとのことで、今日は会社を早退して帰ってきて後処理をしてくれるらしい。先生も着替えやら化粧やらのため、家に帰っていった。こちらも昨日のうちに大家さんに連絡し、朝鍵を開けて貰えることになったそうな。
二人が帰り、やっと落ち着いた時間が取れたので、学校に行く時間まで、少し思考を巡らせることにする。最近の二人の事を。
碧が恋愛に興味がでてきた、というのはいまひとつ信じ難い。だが最近の俺へのスキンシップは激し過ぎる気がする。その、俺を好きかもとか、思い上がってしまってもしかたない位だと思う。とはいえ、小さい頃から一緒にいるせいかもしれないが、碧は、妹のようなものだと俺は感じてしまっている。
先生も、俺が高校に上がってからのスキンシップがかなり危ないレベルだと思う。からかわれているだけかもしれない。それとも俺が高校生になって、先生の守備範囲の年齢になったということなのだろうか。確か今27だから、11歳差だ。一回り以上違う高一男子に手を出すとは、流石に思えない。男としては先生みたいな美人に迫られるのは、悪くない気分だ。だが、さっきも思ったが、やはり教師と生徒であることは年齢差と合わせると相当なハードルだと思うし、そんなことで彼女の教師生命に影響は与えたくない。
最近はナナも距離が近くなって来ている。先輩とも、頻繁に会う様になっている。中学の頃とは段違いに、たくさんの可愛い女性達との距離が。妙に近づいている気がする。これから俺は彼女達に新しい恋をすることが有るのだろうか。彼女達と触れ合うなかで、すっかり失恋の痛みが消えて来た俺は……
スマホが震え、メッセージの受信を告げる。差出人は前に俺が告白し、振られた彼女。先ほどまでの思考内容とあまりにタイムリーな通知に、俺は恐る恐るメッセージを読み上げる。
……昨日今日の濃厚なイベントの記憶がぶっ飛ぶくらいに、俺は失恋のダメージを蘇らせてしまった。ぐすん。
――メッセージの内容――
風見くん、進学先、海波高校だったよね?
サッカー部のキャプテン、すごいイケメンって評判なんだけど、知り合いだったりする?紹介してくれない?
プロローグのあれだ。




