第36話
商人広場にて。
「なかなか取りに来ないから、要らないのかと思ったよ。」
ガラス製品の店の人が言う。
「すみません、すぐに取りに来たかったのですが、いろいろありまして。」
新品のガラスの盾を受け取るアラン。
前のスチールシールドより、やや重いが、とても丈夫そうだし
なによりガラス細工が美しい。
「魔法も防げるんだよねー。いいなー。」
ケイトが盾を覗き込むとピカピカの面に顔が映り込んだ。
真新しい盾を持ったアランとケイトは緑の森へ向かった。
「ミズタケっていうキノコを取ってくれば良いんだよねー。」
ピョンピョンスキップしながら進むケイト。
「ミズタケって毒キノコなのですか?」
「そうだね、そのまま触ると水ぶくれになっちゃうから手袋したほうがいいよ。」
しばらく歩いて行くと、大きな木の根本部分に
水色地に赤の点々模様の派手なキノコが生えている場所に着いた。
2人は手袋をして採集を始めた。
アランは何かを採集する時は、盾を外して作業する。
いつものように、新しい盾も地面に置いた。
~30分後~
どっさり地面に山盛りになったミズタケ。
アランとケイトは持ってきた袋にそれを詰めているところだった。
「そういえば、アランってさー。なんでメロン嫌いになったの?」
「知りたいんですか?」
「うん!」
アランはすうっと息を吸ってから話を始めた。
「きゅうりに蜂蜜かけるとメロンの味になるって聞いたことありませんか?」
「何それ!?ボク知らない。」
「孤児院長が、教えてくれたのである日試してみたんです。」
「それが不味かったから、嫌いになっちゃったの?」
「いいえ。」
「え?」
「それがとても美味しくて、本物のメロンが美味しく感じなくなってしまったんです。」
「(アランの味覚って・・・。)」
「さて、雑談はこの位にして、キノコを届けに行きましょう。」
アランは、さっき置いた盾を拾おうとした。
スッと盾が動いて、アランの手から逃げた。
「!?」
もう一度拾おうとした。
だが、またスッと動いて拾えなかった。
「どうしたのアラン?」
「盾が・・・・・・逃げるんです!」
「そんなわけないよー。よいしょっと。」
ケイトが拾おうとした。
ふわっと宙に浮かぶ盾。
そのまま森の奥に向かって飛んでいってしまった。
「だ、ダメです!!30ゴールドはしたんですから!!」
慌てて追いかけるアラン。
ケイトも後を追う。
辺りが薄暗い場所に来たアランとケイト。
盾の色は赤いので、遠くからでも見失わずに済んだが、なかなか追いつけない。
「ふぃ・・・・・・ふぅ・・・・・・。」
息がきれてるアラン。
いつの間にかケイトの方が先に行っており、だいぶ距離が離れてしまっていた。
「アーラーン!!捕まえたよ!!」
ケイトが叫んだので、少し速度を緩めて走るアラン。
ようやくアランが盾の所に来た。
「なんで飛んで行っちゃったんだろー。」
ケイトが不思議そうな顔をして言った。
きゅ?きゅきゅきゅ?
奇妙な音がした。
周りをキョロキョロと見てみる2人。
「あ、あれは!?」
アランが何かに気がついた。
宙に浮かぶ、光の塊。
フヨフヨ漂っていて、明るくなったり、暗くなったりしている。
手を伸ばして触ろうとするケイト。
しかしスッと通り抜けてしまった。
「触れないねー。」
「これは、精霊かもしれないですね。」
アランは前に読んだ本に、普通は精霊には触れることが出来ないと
書かれていたのを思い出していた。
「何の精霊かなー。」
ケイトが耳をピクッとさせた。
「光っているから、光と闇の精霊ですかね。」
きゅー!きゅきゅきゅ!
まるで、正解!お見事!とでも言うかのように精霊はクルクルまわり始めた。
「合っているみたいですね。」
「ふーん、人の言葉わかるのかー。精霊って。」
アランの盾にフヨフヨと近づくとペタっと張り付く精霊。
「この盾が気に入ってるのでしょうか?」
「なんなんだろー?」
じーっと精霊を見つめる2人。
だんだんと精霊の明かりが弱くなって、フッと消えてしまった。
「消えちゃったよ?」
「マジックアイテムですから、魔力を無効化してしまいます。
そのせいではないでしょうか?」
よく見ると、精霊のくっついていた部分に小さくて黒い核のような物が残っていた。
「この精霊、死んじゃったのかなー?」
「ケイトさん。森林浴の魔法をかけてみたらどうでしょうか?」
ペリッと黒い物体を剥がして手のひらに乗せたアラン。
「クンヨリシン!!」
黒い物体がキラキラと、また輝き始めて元の精霊の姿に戻った。
きゅきゅきゅ?きゅー!
謎の音を発しながら、精霊はどこかに飛んでいってしまった。
「治ったのかな?良かったねー。」
精霊の飛んでいった方に向かって手をフリフリするケイト。
「これ、なんでしょうね?」
アランが自分の手のひらを見つめている。
「何?」
「さっきの精霊が残していったみたいなんですが。」
手のひらをケイトに見せるアラン。
淡黄色の物体が手に乗っている。
「何かの種っぽいね?」
「ケイトさんの魔法で、また植物が出来たんでしょうか?」
涙型の物体は3センチくらいの大きさだ。
ケイトにも何の種かは、わからないようだった。
「この種どうするの?アラン。」
種をツンツンしながらケイトが聞く。
「どうしましょうか。
使い道があるとは思えませんし捨てるしか無いと思います。」
「じゃあさ、ボクに頂戴!」
「え?」
「ボク、これ育ててみるよ!」
商人広場で、可愛らしい丸い鉢を買ったケイト。
育てるための土は、緑の森から持ってきた。
そっと鉢の土に種を埋める。
「もし、すごく大きな木に育ってしまったら、どうするのですか?」
アランが覗き込みながらケイトに言った。
「うーん、そうなったら、こっそり緑の森に植えに行こうと思うよー。」
「そんな事を、して良いのでしょうか?」
「まぁ、ある程度育ったら、何の木かわかる人も居るかもしれないしー。
商人広場に持っていって買い取ってもらうとか、何とかするよ。」
「・・・・・・大丈夫なのでしょうか?」
謎の種の鉢は、ケイトの部屋の窓際に置くことにした。