Ⅴ 『光と闇、善と悪』
時は少し遡り。現在、時刻は15時を回ったところ。夕食までにはまだ時間があるため、
白雪と小人達の一行はホーム『魔女の家』を目指して、魔女の家近郊の森『マホウノモリ』へと足
を踏み入れていた。
「いいかい姫。絶対に僕たちから離れちゃいけないよ」
細く霞がかった森の小道を、集団の先頭を進むタッシェルが、奥へ奥へと分け入りながら
白雪に向かって教唆した。
「この森には、魔女ドロテーアの強力な魔法がかけられている。世俗の人間が気紛れで魔女の裨益
(ひえき)に浴さないよう、魔女の家屋と黒い森との間に幻術という垣根を敷いているんだ」
フェンヒェルは白雪と並行しもって、魔女の存在や魔術の定義について知っている限りを説明した。
「そもそも『魔女』とは、一神教であるキリスト勢が、信仰する唯一神を完全な絶対善に仕立て上
げるために形成した『悪魔学』の犠牲者達だと言われている。世の中に蔓延る病気や戦争、犯罪
や災害といった無数の悪を説明するために、どうやら魔女という存在は生まれたみたいだ。また、
その背景には善悪二元論を唱えた『ゾロアスター教』の影響を受けていたとも伝えられているね」
「悪魔学にゾロアスター教……でしょうか?」
白雪が二人の話に色めき立ちながら、後背のネッセル達に目をやった。最後尾ではミーレを中心に、
ネッセル達が真ん丸カエルと戯れている。白雪はみんながきちんと付いてきていることを確認して、
目線をフェンヒェル達に戻した。
「悪魔学はそののつまり、悪魔に関する考察・分類・その他の体系的な記述の総称で――」
「ゾロアスター教は古代ペルシャを紀元とする『古代宗教』の一つさ。先ほどフェンヒェルが述べ
た善悪二元論や終末論などが有名だね。その他にも、同じく善悪二元論を教義の中心にしていた
宗教があって、『マニ教』辺りがそうだったと言われているね」
タッシェルがフェンヒェルから衣鉢を継いで言説する。悪魔については、先日の母親との
一悶着で、赤頭巾の祖父――狩人から幼い頃にその存在を聞いており、多少なりと知識はあったが、
そこにゾロアスター教やマニ教といった、古式ゆかしい宗教までが関係していたことに、白雪は悪
魔学の奥深さを推知した。
「現代で悪魔学と聞くと、悪魔を崇拝する悪魔研究者達によって創造・俗信されてきたものだと考
えられているけど、実際はキリスト教神学で形成された、れっきとした学問なんだ」
「姫は『新約聖書』というものを読んだことがあるかい?」
「えっと……たしかキリスト教のみなさんが書かれた『正典』でしたでしょうか? 私は読んだこ
とはありませんが、お城に住んでいた何人かのお手伝いさんが大切に所持していたのを目にした
ことがあります」
白雪が口元に人差し指を当てて、お城にいた時の事を思い出す。彼女の住んでいたお城――フリー
ドリヒシュタイン城では、宗教の自由が領主によって認められていたため、実に様々な人種・信者
が、差別を受けることなく出入りを繰り返していた。
「キリスト教は、1世紀頃にイエスによって作られた宗教だが、初期の頃はまだ明確な教義の体系
が整っていなかったんだよ。そこでキリスト教の指導者達は、何が正学で何が異端なのかを明確
にする必要があったんだ」
「当時のキリスト教徒は、人を喰う、赤子を殺す、といった言われなき嫌疑を多くかけられていた
からね。その背景には、同時代に多くの異教が乱立していて、とくに〝物質世界は完全なる悪の
世界で、人間は知識を得ることにより悪の肉体から解き放たれる――〟って主張する『グノーシ
ス主義』の連中と、真っ向から対立していた事が記録として残っている」
「平たく言えば、異教や異端者との信徒獲得合戦のために、キリスト側にも明確な正統神学が必須
だったってわけさ。正統な教義を新約聖書としてまとめ上げ、悪魔の定義も正統なものに構築し
なければならなかったんだ」
「教義を整えるためには、神だけではなく悪魔も整える必要があった。ってことだね」
マホウノモリ内は少し肌寒く、どこからか不思議な芳香が漂ってくる。感知能力の高い
フェンヒェルは、白雪との話の傍ら森の隅々に目を向けて、樹木の一本一本に神経を尖らせていた。
「そして、中世になると、それまで神学の中で形作られていった悪魔の概念をベースに、多種多様
なアプローチで悪魔像が考えられていったんだ。〈ダンテ・アリギエーリ〉の叙事詩『神曲』や、
〈牧羊の神パーン〉を模した羊型の悪魔など、悪魔の手先である魔女像が生まれたのも、まさに悪
魔像の多様化が民衆に広まった、この時代だと言及されているね」
「ただ……魔女妄想を作り出した悪魔学は、歪んだ神学の汚点だったんだ」
「汚点……?」
「『魔女狩り』さ。無実の罪で多数の人々を処刑した社会現象だよ。処刑された人々は魔女の濡れ
衣を着せられて、無実を証明できないまま迫害された」
「異端派の増大や、黒死病の流行。予測不能な異常気候など、当時発生していた社会不安の連鎖が、
悪魔の仕業だと捉えられたのさ。そして、その矛先は、悪魔の手先である魔女に向けられたんだ」
魔女狩り――中世末から近代にかけて、主にヨーロッパで発生した、魔女と思しき人間や、魔術ら
しい行為を告発・処罰した社会現象。その根源は、弾圧と習合で勝ち取った、キリスト教社会だっ
たようだ。
「おっと、あれは魔女の使い魔だ。運がいい。さすが〝難攻不落のホーム〟と呼ばれるだけの事は
あるね。わずか数分足らずで、こちらの居場所に気づいたようだ」
タッシェルが唐突に空を見上げ、頭上を旋回する一羽の白鳥に目を向けた。白鳥はやがて近くの枝
の先に止まり、じーっとこちらを眺めると、再びバサバサバサと翼を広げ、白雪達を誘導するかの
ように羽ばたいた。
「みんな、あの白い鳥を追いかけるんだ! くれぐれも離れ離れになるなよ!」
フェンヒェルが後方を振り返り、弟達に白鳥を追うよう指示を出す。小人達は二人一組になって手
を繋ぎ、森の奥へと飛んでいく白鳥の後を追った。
☆
扉を開けたのはグレーテルだった。マホウノモリの効果に伴い、侵入者ではなく、魔女が使い魔を
用いて招き入れた〝客人〟だということは分かっていたが、グレーテルは扉に半分ほど姿を隠して
白雪達を迎え入れた。
「いやはや、ヘンゼルを探そうと使い魔を飛ばしておったら、まさか勇敢なホビット族に、白雪王
女までが一緒だったなんてねぇ。アイソーポスの子といい、今日は客人の絶えない一日じゃのう」
家のリビングへと通された白雪達一行は、ロッキングチェアに腰をかけた、魔女ドロテーアと初対
面した。彼女は編み物の途中だったのか、食卓には編みかけで置かれた棒針と、仕上がりに必要な
編み図なるものが除けられていた。
「お初にお目にかかります。魔女さん」
「ホォッホッホッ。話はグレーテルから聞いてるよ」
魔女とグレーテルが四人がけのテーブルに椅子を追加して、フェンヒェル達に席へ座るよう勧めた。
グレーテルはおもてなしの紅茶を淹れるため、戸棚からティーサーバーを取り出すと、落とさない
よう両手で抱え、いそいそと炊事場へ入っていった。
「グレーテルちゃん。私も手伝うわ」
「ミーレもやるー」
白雪はグレーテルが一人で人数分のお茶を用意するのは大変だと思い立ち、ミーレと共にグレーテ
ルの手伝いに向かった。炊事場からは、魔女を除く女性陣達の楽しそうな声が聞こえてくる。
「それで……ここを訪ねてきたってことは、私に何か用があって来たのだろう?」
食卓の上で両手を組み、魔女は自ら英知を求めに来た理由を問いただした。
「ええ。あなたの知恵をお借りしようと伺いました。ルーア、あのカエルを」
フェンヒェルに促され、ルーアはミーレから手渡されていた真ん丸カエルを差し出した。
「魔女ドロテーアなら何か分かると思って連れてきたんだけど……どうやらこのカエル、何かを伝
えようとずーっと鳴いていて、シュパイゼいわく、喋っているようなんだ」
真ん丸カエルは相も変わらずゲコゲコと鳴いており、食卓の上を、ぴょんぴょんと跳ね回っている。
「『妖精の湖』に突然現れたみたいで、知能も高く、ただのカエルではないと僕たちも思ってるん
ですけど……何か分かりそうですか?」
フェンヒェルとタッシェルが魔女ドロテーアを前に、真ん丸カエルとの出来事を口々に語った。
「ふむ……どれどれ。こっちにおいで」
真ん丸カエルを手中に招き、魔女はカエルのあちこちを隈なく調べ始めた。カエルは魔女の手の中
で先ほどよりも強く、何かを訴えかけるかのように鳴き散らした。
「むむ……これは……」
「おおっ! 何か分かったのか!?」
魔女の思わせぶりな発言に、ネッセルが食卓から身を乗り出した。
「やれやれ……どこで何があったのかは知らないが、どうやらただ事ではなさそうだねぇ」
小人達が互いに顔を見合わせる。そのタイミングで、炊事場からグレーテルら女性陣が戻ってきて、
テーブルの上はベルガモットの香りでいっぱいになった。用意された紅茶は、茶葉にアールグレイ
を使った、ミルクティーだった。
「グレーテル。茶葉の香りがよく出ているね。ミルクもきちんとミルクインファーストじゃないか。
紅茶の淹れ方が一段と上手くなっているよ」
魔女がカップ内の紅茶を揺らし、ほどよく香る柑橘系の香りを嗅いだ。
「さて……話の途中だったね」
紅茶を一口すすり、魔女が静かにカップを置いた。グレーテル達も席につき、全員の視線が魔女に
注がれる。椅子の数が足りなかったのか、ミーレは白雪の膝の上で、抱えられるように座っていた。
「先ず、これを見てもらったほうが早いかのう」
そう言って魔女は、カエルを小人達に見えるよう食卓の中心に置き、口内から伸びる粘着性の強い
細舌を、自身の指に巻き付けさせた。
「デブカエルの舌がどうかしたの?」
シュパイゼが白雪の隣から言い放つ。他のみんなも同じような顔ばせになっていた。
「ちょいと見づらいんじゃが、この舌の底面に、何やら〝刻印〟らしきものが見えないかえ?」
口内にほど近い、舌の根元部分に注目するよう、魔女が全員の視線を喉奥へと誘導する。舌の根元
部分には、斜め45度の直線と、垂直線だけを使って描かれた、神秘的な文字が刻まれていた。
「教団の刻標……ではないみたいだね」
被験体である子ども達の身体に刻まれた、教団の『個体識別標』ではないとレッティヒが見識する。
「これは、ルーン文字じゃ」
「ルーンもじ??」
ミーレが白雪の顔を見上げる。魔女は指先に吸盤のごとく絡み付いていた、カエルの細い舌を取り
外し、真ん丸カエルを再び手の中へと収めこんだ。
「ルーン文字は1世紀頃に考案され、ゲルマン系の諸民族に使用されていた、古代文字の一つだの。
なかでも、このカエルに刻まれておるルーン文字は、最古のルーン文字・第一のルーン文字と言
われ、『ゲルマン共通フサクル』と呼ばれておるものじゃ。フサクルには24文字あって、字体
それぞれに意味が存在し、《ルーン魔術》の効果に応じて、刻む文字を決めているんじゃ」
『ルーン文字』――スカンジナヴィア半島や中央ヨーロッパの各地で、千年以上に渡って使用され
てきた統一規格を持たない魔術文字。その第一発見者は、神話の神〈オーディン〉とも言い伝えら
れている。
「魔女ドロテーア。ではこのカエルには、ルーン文字を使用した《ルーン魔術》がかけられている。
つまりはそういうことですね?」
「ホォッホッホッ。お前さんは、なかなかどうして頭の回転が速いようだね。フェンヒェル……と
言ったかい? まさにお前さんが説明したとおりじゃ。この丸っこいカエルには、ルーン文字を
使った《ルーン魔術》がかけられておる。曲がりなりにも〝魔女の力〟が働いているようだね」
「「「魔女の力だって!?」」」
ネッセル・シュパイゼ・レッティヒの三人が声を揃えて立ち上がった。
「落ち着くんだ三人とも。魔女ドロテーア、話の続きを」
ネッセル達三人をタッシェルが注意し、魔女に話の続きをお願いした。話の内容から事態は思わぬ
展開に進んでいるようだ。
「《ルーン魔術》は格式の高い魔術体系の一つで、魔力の備わったルーン文字を自由に組み合わせ、
様々な場所やモノに刻むことで一定の魔術効果を得る『刻印魔法』じゃ。魔女の間では、ルーン
魔術を扱う者を『ルーンメイジ』と呼んでおり、私の知るルーンメイジの中でこれほどにも正確
で、最も効果の高くなる位置にルーンを刻み込める魔女は、おそらく〝彼女〟しか知らないねぇ」
「彼女? 魔女ドロテーアのお知り合いですか?」
魔女は紅茶を口に運んで一息し、フェンヒェルの問いかけに返答した。
「〈魔女フラウ・ゴーテル〉……魔女でありながら人間の子どもを育てた、心優しい変り種の魔女
さ。娘の名前は、たしかラプンツェルと言っていたかねぇ……よく『ヴァルプルギスの夜』に娘
を連れて参加していたよ。他の魔女達は、人間であるラプンツェルを快くは思ってい
なかったが、それでも強大な力を持つゴーテルの娘とあって、魔女達からの評判は高かったよう
だね。ただ……」
一旦そう言葉を切って、魔女は視線をテーブルへと落とした。
「あの忌まわしき事件が起きてから、彼女は変わってしまった」
「事件……それってもしかして『魔女狩り』のことですか?」
魔女がタッシェルに顔を向け静かに頷いた。魔女狩りについては、ここへの道中でその全貌を聞い
ており、白雪やミーレ……他の弟小人達もその悲惨な出来事は知っていた。多くの魔女達が審問官
によって魔女裁判にかけられ、その生涯に幕を閉じた社会現象だ。
「魔女ゴーテルは横暴な魔女狩りで、最愛の愛娘ラプンツェルを殺されたんだよ……魔女達の宴に
参加しているという、当時、異端審問の中で最も重たい罪でね。その後、彼女は娘と暮らしてい
た『高い塔』に身を潜めるよう引きこもり、怒りと悲しみに明け暮れた。そして、人間を憎むほ
どに変貌してしまったんじゃ」
紅茶の熱はすっかりと冷め切っており、室内にも水を打ったような静けさが訪れた。
「私の見解だが、おそらくこの真ん丸カエルは、魔女ゴーテルの住処に近づいてしまったのだろう。
舌底に『ナウシズ』のルーンが刻まれておる。ナウシズはアルファベットで『n』を表し、困苦
を意味するフサクルじゃ。さらに『フェフ』、『マンナズ』といった〝生物に対しての〟ルーン
がナウシズを中心に染色されていることから、おおかた《変身のルーン》を受けてしまったに違
いない。ナウシズ・フェフ・マンナズの組み合わせは、〝人間を別の生物へと変えてしまう〟変
身効果を持ったルーン魔術なんじゃ」
真ん丸カエルが、いかにもそうであると言わないばかりに飛び跳ねる。
「変身の魔法って……それじゃあこのカエルは、もともとは人間だったってことですか?」
「さよう……ゆえに、ただ事ではないと申したんじゃ。頭部の王冠を見て分かるように、人間――
それも爵位持ちか、王様のようだしね」
今の今まで誰も気が付かなかったのか、カエルの頭部には、小さな王冠がちょこんと載っていた。
「えええ!? このデブカエ……少し太った、立派なカエル様がですか!?」
シュパイゼがデブカエルと言おうとして、途中で言葉を訂正した。魔女の英知によると、カエルは
もともとは人間の姿をしていたが、何かしらの事情で、魔女ゴーテルと相まみてしまい、彼女の強
力な変身魔術を受けて今の姿になってしまったという。
「でぶっちょかえるさんは、おうさまだったんだね」
「こ、こらミーレ! 王様に失礼だぞ!! 言葉を慎まないか!!」
シュパイゼに続き、レッティヒも慌てた様子になっていた。
「王様だろうがカエルだろうが太っていることに変わりはないんだし、別にデブカエルでよくね?」
「「よくねーよ!!」」
ネッセルの失礼極まりない言動に、シュパイゼとレッティヒが同時に声を荒げた。
「とにかくじゃ……ルーン魔術は、ルーン魔術をかけた本人にしか解くことができぬ。王様カエル
にかけられた《変身のルーン》を解くためには、魔女フラウ・ゴーテルに接触するしか道はない」
真ん丸カエルの謎が解け、彼を人間に戻すための方法が魔女によって進言された。魔女ドロテーア
は、結界魔術の中心であるホーム『魔女の家』を離れることができないため、王様カエルの在りど
ころは、白雪達に委ねられることになった。
小人達が考え込む。魔女ドロテーアの話によれば、魔女フラウ・ゴーテルは、最愛の愛娘を無残に
も人間達に殺され、その悲しみと憎しみで人間達に憎悪を抱いているそうだ。そんな彼女と接触し
て、王様カエルを元の人間に戻してもらう交渉が、すんなりとできるのだろうか。白雪の護謨毬を
湖から拾い上げてくれたことには感謝しているが、相手は強大な力を持った最上級の魔女だ。あま
りにも危険過ぎる。王様カエルには申し訳ないが、自分達は白雪の護衛を任されている以上、彼女
を危険な目に逢わすことはできないのだ。
「私、行きますわ。カエルさんを元のお姿に戻してもらえるよう、魔女さんにお話をしに行きます」
白雪がミーレを席に座らせて立ち上がる。黙していた小人達が驚いた様子で一斉に白雪を見上げた。
「姫、この任務はあまりにも危険すぎる。魔女ゴーテルは、君の母上みたいに優しくはないんだよ」
「フェンヒェルの言うとおりだ。君が護謨毬の件で王様カエルへ恩を感じているのも分かっている。
だけど……今回の件は相手が悪すぎるんだ。ヘタをすれば命の保障だってないかもしれない」
魔女の話を聞いて急ぎ立つ白雪を、フェンヒェルとタッシェルがたしなめる。
「俺は姫について行くぜ。まあ……デブカエルがマリを拾ってくれなかったら、俺は湖に投げ出さ
れていたかもしれないからな……少なからず感謝してんだ。困ったときはお互い様だろ?」
椅子の上で仰け反るように腕を組み、ネッセルが兄達二人とは違う言い分で力説した。
「ぼ、僕も姫についていくよ。そんな危険なところに姫を一人で向かわせるなんて、それこそ危険
だからね。姫は僕たちが守らなきゃいけないんだから」
「シュパイゼの意見に僕も賛成だね。どのみち誰かがやらなきゃ、王様はずーっとカエルにされた
ままだ。相手がたとえ凶悪な魔女でも、会ってみないことには何も分からないじゃないか」
ネッセルの男気に突き動かされたのか、シュパイゼ・レッティヒの二人も、白雪についていくこと
を名乗り出る。そして、
「……ときはみちた」
なにやらかっこいい言葉を呟きながら、ルーアがサンタ帽の乱れを整えた。あきらかに一人だけ戦
闘態勢に入っている。そんな兄達の勇ましさに感化され、末っ子のミーレも立ち上がった。
「雪ちゃんはミーレが守るもん」
無い胸をえっへんと張って、ミーレが白雪に飛びついた。
フェンヒェルとタッシェル以外の小人達が白雪についていくことになり、二人はやれやれと言った
様子で頭を左右に振った。こうなってしまった以上、自分達だけがついて行かないわけにはいかな
いからだ。小人達の決定事項の判決は、すべて多数決で決めることになっている。
「わかった……僕たちもついていくよ。でも、これだけは約束してほしい。僕が危険な状況だと判
断した場合、すぐに身を引くんだよ。いいね、姫?」
フェンヒェルからの諸注意を受け、白雪が真剣な表情で頷いた。
「ふむ……ヘンゼルが戻ったら、もしものために、グレーテル達もそちらに向かわせる。二人には、
魔女の秘薬『軟膏』を持たせるつもりじゃ。『軟膏』には魔術に対する一種の抵抗性があるため、
ちょっとしたお守りの代わりになる。本当はすぐにでもそれを持たせてあげたいんだが、いかん
せん、軟膏の調合には少々時間を要するんじゃ」
魔女は自身がホームから離れられない代わりに、後から魔術対策の薬――軟膏を持った兄妹を、そ
ちらに向かわせると白雪達に言い伝えた。ヘンゼルはニンフェを追いかけてホームを出て行ったき
り、今だ帰宅の様子はない。魔女はもう一度ヘンゼルを探すため、再び窓辺から白鳥を解き放った。




