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咆哮のグレーテル  作者: 胡桃ヌイ
★第三章 『三匹の子豚』――Kapitel 3:Die drei kleinen Schweinchen――
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Ⅰ 『三兄弟』

「ハァ……ハァ……大丈夫か兄者」

「……ちィ。相手が悪かったぜェ……まさかあいつが『黒い森』最強の男だったとは。

 三人がかりでこの様だ……」

「あ~あ。ホーム壊されちゃったね。気に入ってたのになぁ『藁の家』」


閑静な森の中に、三人の会話が入り雑じる。

三人の名は、シュヴァイン三兄弟――上から長男シュトロ、次男ホルツ、三男ジーゲル。

酷く太った体型と大柄な体格から、森の中では〈三匹の子豚〉と呼ばれていた。


三匹の子豚は森の獣道を敗走し、木々の開けた草むらで傷ついた身体を休めていた。


「無茶しすぎだぜ兄者はよ。あいつがその気になれば、今頃みんなまとめて消し炭になってたぞ」


〈黒い影〉が腕に黒電を絡ませて放った、数十万ボルトの電圧。

それを受けた長男と三男は、ものの見事に感電して気を失った。

おそらく、それでも本気は出していない。その気になれば、数億ボルトの電流すら発生できただろう。

手加減されていたのだ。〈黒い影〉を分析した結果、次男ホルツがそう語った。


「それにしても……ジーゲルよ。お前はほとんど逃げ回ってただけじゃねーか。根性見せろや」

「ホルツあんちゃんこそボコボコだったじゃないかぁ……ぼく、ちゃんと見てたんだからね」

「ちゃんと見てた。じゃねーよ! 加勢しに来いってんだ」

「だって……お腹が空いて力が出ないんだもん。この前だってあと少しってところで、

 食料を獲り損ねるしさ。あ~あ、一度でいいからお腹いっぱい食べてみたいなぁ」


三男ジーゲルが草むらに足を投げ出し、パタパタと草木を蹴り扇いだ。


「まったくお前は能天気だな。ホームを失ったってのによ。お前の頭の中は、

 食い物のことばっかじゃねーか」

「ブー。そんなことないもん。ぼくだってやるときはやるんだからね」

「ヘイヘイ……微力ながら期待してるぜ。食いしん坊ちゃん」


根拠のない三男の自信に、次男ホルツが呆れた表情で吐き捨てた。


「に、してもよ……どうすんだ兄者。ホーム周辺の縄張りはあいつに取られちまったし、

『藁の家』だって跡形もなく破壊されちまった……これからどうやって生きていきゃいいんだよ」

 

樹木にもたれ傷を癒す長男に、次男がすがるように確認する。


「うん。ご飯だって何とかしないと大変だよ」

「お前はそこら辺の草でも食って、黙って寝てろ!」

「それじゃあブタさんじゃないかぁ」


話を遮る三男を次男が叱責する。長男は先ほどから目を瞑っては、鼻をスンスンと動かしていた。


「……匂うなァ。それも、とびきりうまそうな匂いだ」

 

長男が目を閉じたまま、口の端を吊り上げて呟いた。

                                  

「匂い? 俺には何にも匂わねーぞ」

「なになに? 匂い? もしかしてご飯の予感!?」

 

次男と三男が、長男に倣って鼻を動かし、周辺の匂いをクンクンと嗅いだ。

どうやらこの近くから、香ばしい匂いが漂っているようだ。


「もしかしたら……飯どころかホームまでも奪えるかもしれねェ。

 どうだお前ら。もう一戦、行けるか?」


ギラリと目を開けた長男が、弟二人を見渡して問いかける。


「俺は賛成だぜ。どちみち失うモノは何もないんだ。次で勝てなきゃ獣たちの餌にされちまう」

「ぼくもぼくも! 空腹で死ぬなんて絶対に御免だよ」


弟二人が長男の意見に賛同する。長男はもう一度二人の弟を見渡すと、


「こっちだ」                                                    

 

負傷した身体を重々しく持ち上げ、獲物を見つけたと言わんばかりに、舌なめずりをした――


      ★


「被験体ナンバー【KHM05/0215/R】が、予定通り〈三匹の子豚〉と接触。彼らのホーム

『藁の家』の破壊に成功しました」


太陽が真上に昇ったお昼時。リーダー格の男、ドライの前に(ひざまず)き、

側近の羊飼い、ツェーンが更新された情報を報告する。


「ほう。さすがは、我が教団が期待する最有力候補の一人。ここまで順調に、『物語』を

 描いているようだな」

「ええ……同じ〝物語を共有する〟被験体ナンバー【KHM26/0426/R】との『結びつき』にも

 支障はないようで、このままいけば『物語の完成』も間近かと」


粒子状のタブレットを、慣れた手つきで操作して、

ドライの端末機に、ツェーンがデータの転送を完了した。


「ククク……そうだな。お前の報告通り、〝事が上手く運べば〟いいがな。世の中そうは

 いかないのが悩みの種でもある。どうやら、新たな『結びつき』が生まれそうだ」


ツェーンが不服そうにタブレットを操作し、そして新たに更新されたデータを見てハッとする。

被験体ナンバーと記載された数字の隣から、別の被験体に対して、一本の接続線が伸びていたからだ。

画面内の矢印の矛先は→【KHM15/0514/R】&【KHM15/1113/R】となっていた。


「どうだ? 面白いことになってきただろう」

「しかし……これでは、あの子達の物語が潰されてしまう危険性が……」

「そうなってしまえば、所詮その程度だったということだ」


ドライが冷ややかな口調で、平然と言ってみせる。


「さあ、初陣だぞ。物語タイトル〈兄妹〉……お前達の『想い』、我々に見せてみろ」

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