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侑くんとわたしの七夕

七夕のお話。一日フライングしてますが…

よろしくお願いします!

「あっ! 笹だ~。もうそんな季節なんだねー」 

 静先輩が、そのまあるい瞳をキラキラと輝かせ、実に楽しそうに笹の木を指差した。

わたしの通っている学校では、毎年七夕が近くなると大きな笹が運び込まれる。折り紙で作られた飾りで飾られた笹には、生徒だけでなく時には教師陣までが願い事を書いた紙をつるしていて、笹が置かれているエリアはいつもよりちょっとにぎやかになる。

 短冊に書かれている願い事はユニークなものが多くて、わたしにとってはそれらを見ているほうが楽しい。静先輩は書いているほうが楽しそうだけれど。

 今日早く家帰りたいんだよねーだから部活いつもより早めに終わろー。

 そういって部活を終わらせたのは静先輩なのに、嬉々として後輩たちと願い事を書き始めた。

「小夜も書きなよー」

「お断りします」

「楽しーのに」

 断ると大人しく静先輩は引いた。そしてわたしに差し出していた短冊に再び願い事を記入。……願い事ってそんなに何個も書くものなんですか?

 他の文芸部員たちも大はしゃぎで複数願いを書いているようだからまあいいのかもしれない。つくづくうちの部活は似た者が多い。

 ひとりだけ先に帰っても良かったのだけれど、なんとなくそんな気になれなくて、ぐるりと願い事を見て歩く。

『世界征服』

『○○と××が幸せでいられますように』

『文才が欲しい』

 これはうちの部員の願い事だろう。筆跡からして千鶴(ちづる)のようだ。

 筆跡鑑定までして熱心に眺めていたら、突然声をかけられた。

「まだ帰ってなかったのかよ」

 おやおやこれはまあ、なんという偶然。

「侑くんじゃないですか。今日は部活だったんですよ」

 そう言えば彼は途端に嫌そうな顔をした。侑くんは、静先輩が苦手。嫌いじゃないけど、出来ることなら近寄りたくない。たぶん静先輩は侑くんの苦手なヒトリストナンバーワンに君臨しているだろう。ゆえに彼は文芸部が苦手。わたしは例外にしておいてほしい。

「あっそう」

「そうです」

「静先輩、いんの?」

「いますよ」

 ほらあそこに。

 きゃあきゃあと子供のように騒いでる静先輩は侑くんにとって幸いなことにこちらに気づいてはいない。

 これ幸いと、侑くんはこの場を離れようとした。

「今日は陸上部の練習の日でしたね」

「ああ」

「侑くんは」

「何?」

「お願い事、しないんですか?」

「願い事? ああ七夕か」

「そう七夕です」

「七夕とか、どうでもいいんだけど。てか、お前が七夕に興味あるとか知らなかった」

 意外そうな目で見られてしまった。

「別に興味はないんですけど。でも、侑くんが願うもの、気になりますよ。さらに足が速くなりますように? 試合で結果を残せますように? 苦手な古典の成績が上がりますように?」

 侑くんは国語が苦手だ。現代文はまあまあなのだが古典になると、もう少し点数が落ちる。反対に晶先輩は国語が得意で、数学の点数が若干低い。静先輩はオールマイティになんでも出来る。なかでも国語は不動の一番らしい。あと英語も得意。四条先輩は努力のヒトだと晶先輩がことあるごとに呟いている。

 話が少し横に逸れた。

「お前はどう思う?」

 綺麗な瞳は明らかに面白がっている。わたしだって別に、今挙げたものが答えだなんてこれっぽっちも思ってはいない。

「晶先輩が幸せになりますように」

 そうくちびるを動かせば、

「お前が思うもんが答えなんじゃねえの。オレは短冊書かねえし」

 と返される。

「そういうことにしておきますね」

 わたしは笑った。



 見つけてしまった願い事。

 繊細な字で書かれた願い事。あまり人目につかないところにこっそりと飾ってあって。

『彼女が幸せになりますように』

 あなたの筆跡はよく知っているから、名前なんてなくてもすぐにわかってしまった。

 彼女を想って書いた願い事。

 あなたが彼女を想って願うなら、わたしはあなたを想って書きましょう。





『彼が幸せになりますように』


 あなたが彼女の幸せを願うように、彼女もまた、あなたの幸せを願っているはずだから。

 

 


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