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転生したら最強ジョブだが最凶だった件 ~伝説の【神銃士】になったのに、一発も撃てない~  作者: 蝶野摩矢
最凶の神器編

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7/68

価値のない少女

「……足りないって」


「何かが」


「ずっと」


「足りないって」


リーナの言葉が。


頭から離れなかった。


俺は。


神器を見る。


今はもう。


何の反応もない。


いつもの。


撃てない神器。


でも。


確かに。


さっき。


反応した。


リーナが。


触れた瞬間に。


「リーナ」


「……はい」


「もう一回」


「触ってみてくれない?」


リーナの身体が。


わずかに強張った。


「……嫌です」


「え?」


「すみません」


リーナは。


一歩。


後ろへ下がった。


「どうして?」


「分からないから」


「何が?」


「さっきの」


リーナは。


自分の右手を見る。


「私にも」


「何が起きたのか」


「分からないんです」


「……」


「だから」


「触らない方がいいです」


その声は。


怯えていた。


神器が。


怖いんじゃない。


自分が。


何かをしてしまうことを。


怖がっている。


そんなふうに見えた。


「分かった」


「……え?」


「無理に触らなくていいよ」


リーナが。


驚いたように。


俺を見る。


「でも」


俺は。


神器を消した。


青白い光が。


空気へ溶けていく。


「少しだけ」


「話を聞かせてほしい」


「……私の?」


「うん」


リーナは。


黙った。


そして。


少しして。


小さく頷いた。


◇


俺たちは。


近くの広場へ移動した。


古いベンチに。


二人で座る。


「……」


「……」


さて。


何から。


聞けばいい。


「リーナも」


「冒険者なんだよね?」


リーナの肩が。


少しだけ動いた。


「……一応」


「ギルドで聞いた」


「弱い魔物なら」


「一人で倒してるって」


「……はい」


リーナが。


腰の短剣に触れる。


「この子が」


「いるので」


この子。


武器を。


そんなふうに呼ぶ人を。


俺は初めて見た。


「大事なんだ」


「……はい」


今度は。


迷わなかった。


「ずっと」


「使ってるので」


リーナの指が。


短剣の柄を。


そっとなぞる。


「何度も」


「助けてもらいました」


「いい短剣なんだ?」


「……普通です」


「普通?」


「たぶん」


少しだけ。


リーナの表情が緩む。


「安いものです」


「そうなんだ」


「でも」


リーナは。


短剣を見る。


「私には」


「この子が一番」


「使いやすいです」


さっき。


俺の剣を見た時とは。


全然違う。


自分の短剣を。


信頼している。


そんなことが。


伝わってきた。


「じゃあ」


「結構戦えるんじゃない?」


「そんなことないです」


即答だった。


「小さい魔物なら」


「なんとか」


「でも」


「強い魔物は無理です」


「だから」


「薬草を採ったり」


「小さい魔物を倒したり」


「一人でできる依頼だけ」


「受けてます」


それだけ。


そう言うけど。


一人で。


生きている。


俺より。


よっぽど。


すごい気もする。


「ジョブは?」


聞いた瞬間。


リーナの表情が。


少しだけ。


曇った。


「……分かりません」


「ギルドで聞いたよ」


「……そうですか」


リーナは。


俯いた。


「冒険者に」


「登録した時」


「簡易水晶で」


「調べてもらいました」


「でも」


「何も」


「出なかったんです」


「何も?」


リーナは。


指で。


膝の上に。


四本の線を描いた。


「【――――】」


「これだけ」


「……」


「職員さんも」


「分からないって」


ジョブが。


表示されない。


俺は。


十五歳の時。


教会で。


あれだけ。


派手に。


【神銃士】


と示された。


その結果。


期待されて。


失望された。


リーナは。


その逆だ。


最初から。


何なのかすら。


分からなかった。


それに。


さっき聞いた。


リーナは。


授職の儀を。


受けていない。


だから。


簡易水晶で。


ジョブの名前が出なかったのも。


そのせいなのかもしれない。


でも。


十五歳くらいから。


武器の何かが。


分かるようになった。


やっぱり。


この力は。


何かのジョブに。


関係している気がする。


「でも」


俺は。


話を戻す。


「武器のことは分かるんだよね?」


「分かるだけです」


「それって」


「すごいことじゃない?」


「違います」


即答だった。


「調律師なら」


「ちゃんと」


「武器と使い手を」


「繋げられます」


「私は」


自分の手を見る。


「おかしいところが」


「なんとなく」


「分かるだけ」


「直せない」


「だから」


「意味なんて」


「ないんです」


意味がない。


その言葉に。


胸の奥が。


少しだけ。


ざわついた。


「それでも」


「今日の剣」


「危ないって分かったんでしょ?」


「……」


「だったら」


「意味あるじゃん」


「でも」


「余計なことするなって」


「言われました」


「それは」


「あの人が」


「聞かなかっただけだろ」


「違います」


リーナは。


首を横に振る。


「いつも」


「そうなんです」


「私が」


「何か言うと」


「嫌な顔をされる」


「触ったら」


「壊したって言われる」


「だから」


「私が」


「余計なことをしなければ」


「……」


リーナは。


また。


短剣に触れた。


「誰にも」


「迷惑をかけないから」


その言葉を聞いて。


少しだけ。


昔の自分を。


思い出した。


できないなら。


やらない。


失敗するなら。


最初から。


関わらない。


その方が。


楽だった。


俺も。


前の人生では。


そうやって。


何度も。


諦めた。


「俺は」


「え?」


「迷惑じゃなかったよ」


リーナが。


俺を見る。


「剣のこと」


「教えてくれて」


「助かった」


「……」


「それに」


俺は。


右手を見る。


今は。


消えている神器。


「リーナが触った時」


「初めて」


「神器が反応した」


「それは……」


「偶然かもしれません」


「そうかも」


「だったら――」


「でも」


俺は。


リーナを見る。


「偶然かどうか」


「調べないと」


「分からないだろ?」


「……」


「俺」


「一年以上」


「これが撃てない理由を」


「探してるんだ」


「何回も」


「何百回も」


「引き金を引いた」


「調べた」


「人にも聞いた」


「それでも」


「何も分からなかった」


「でも」


「リーナが触ったら」


「初めて」


「何かが起きた」


「……」


「だから」


「俺には」


「意味がある」


リーナが。


俺を見る。


「リーナにとって」


「意味がなくても」


「俺には」


「あるよ」


「……」


リーナの唇が。


わずかに。


動いた。


でも。


何も。


言わなかった。


ただ。


さっきまで。


俺から逸らしていた目だけは。


もう。


逸らさなかった。


やがて。


――ぐぅ。


「……」


「……」


小さな音。


リーナが。


俯いた。


「腹減ってる?」


「……減ってません」


――ぐぅぅ。


「減ってるじゃん」


「……」


「飯行こう」


「大丈夫です」


「俺が大丈夫じゃない」


「……?」


「腹減った」


「一人で食べれば……」


「付き合ってよ」


「……」


リーナは。


困ったように。


俺を見る。


◇


「……おいしい」


小さな声だった。


リーナが。


温かいスープを。


少しずつ飲んでいる。


パンも。


もう半分ない。


「よかった」


「……すみません」


「なんで謝るの?」


「ご馳走になってるから」


「じゃあ」


「いつか返して」


リーナの手が。


止まった。


「……返せるか」


「分かりません」


「金じゃなくていいよ」


「え?」


「俺の神器」


「一緒に調べてほしい」


「……」


リーナが。


黙る。


「それで」


「今日の飯代」


「十分」


「そんな」


「それじゃ」


「レンさんの方が」


「損です」


「俺が決めることじゃない?」


「……変な人」


「よく言われる」


嘘だ。


そんなに。


言われたことはない。


でも。


リーナが。


ほんの少し。


笑った。


それは。


今日初めて見た。


リーナの。


ちゃんとした笑顔だった。


◇


店を出た。


夕方。


空が。


赤く染まり始めている。


「じゃあ」


リーナが。


小さく頭を下げる。


「ありがとうございました」


「うん」


「……それじゃ」


「待って」


リーナが。


止まる。


「明日」


「また会えない?」


「……」


「無理に神器を」


「触らなくてもいい」


「まず」


「普通の武器から」


「一緒に調べてみたい」


「普通の武器?」


俺は。


腰の剣を叩く。


「これ」


「俺と少しずれてるんでしょ?」


「……はい」


「だったら」


「どうしたら」


「合うようになるのか」


「一緒に考えてみよう」


「でも」


「私には」


「できません」


「やったことある?」


「……」


「ないなら」


「まだ」


「できないって」


「決まってないだろ」


リーナが。


何も言わなくなる。


「明日の朝」


「ギルドで待ってる」


「……」


「来なかったら?」


「探す」


「……どうして」


「俺が困るから」


「え?」


「せっかく」


「手掛かりを見つけたのに」


「勝手にいなくなられたら」


「俺が困る」


リーナの目が。


少しだけ。


大きくなる。


「……私じゃなくても」


「他の人を」


「探せば」


「一年探して」


「初めて神器を反応させたのが」


「リーナなんだけど」


「……」


「だから」


「勝手にいなくなるな」


言ってから。


ちょっと。


強く言いすぎたかと思った。


でも。


リーナは。


怒らなかった。


むしろ。


少しだけ。


困ったような顔をした。


それから。


腰の。


短剣に触れる。


「……考えておきます」


「考えるだけ?」


「はい」


「じゃあ」


「待ってる」


リーナは。


小さく頭を下げて。


歩いていった。


その背中が。


人混みの中へ。


消えていく。


俺は。


しばらく。


そこを見ていた。


◇


次の日。


朝。


「……遅い」


ギルドの前。


俺は。


一人で。


立っていた。


約束は。


してない。


考えておく。


そう言われただけだ。


十分。


二十分。


「……来ないか」


仕方ない。


そう思って。


ギルドへ入ろうとした。


「……レンさん」


振り返る。


そこに。


リーナがいた。


腰には。


あの短剣。


「来た」


「……少しだけです」


「十分」


「何をするんですか?」


「とりあえず」


俺は。


腰の剣を叩く。


「これを」


「ちゃんと見てもらいたい」


リーナが。


剣を見る。


「街の中だと」


「やりにくいです」


「じゃあ」


「外に出よう」


俺たちは。


街の門へ向かった。


◇


街から。


少し離れた。


森の入口。


俺は。


剣を抜いた。


リーナが。


その剣に触れる。


「……やっぱり」


「ずれてる?」


「少しだけ」


「どうすれば直る?」


「……分かりません」


「じゃあ」


「試してみよう」


「え?」


「昨日」


「触ったら分かるって」


「言ってたよね」


「はい」


「だったら」


「俺が剣を持つ」


「リーナが触る」


「どこがずれてるか」


「教えて」


「でも……」


「失敗してもいい」


「……」


「俺も」


「ずっと失敗してるから」


リーナは。


剣を見る。


しばらく。


迷っていた。


やがて。


「……分かりました」


俺は。


剣を構える。


リーナが。


そっと。


剣に触れた。


「……魔力を」


「流してみてください」


「分かった」


剣へ。


魔力を流す。


リーナが。


目を細める。


何かを。


探すように。


剣へ触れた指を。


ゆっくりと動かしていく。


「……少し」


「弱くしてください」


「こう?」


魔力を。


弱くする。


「……はい」


リーナの指が。


止まる。


「そのまま」


「……ここ」


「ここ?」


「はい」


でも。


俺には。


何があるのか。


分からない。


俺にできるのは。


言われた通り。


魔力を流すことだけ。


「少し」


「強くしてください」


「分かった」


魔力を。


少し強くする。


その瞬間。


リーナの指が。


わずかに動いた。


「……!」


剣の中を。


流れていた魔力が。


変わった。


今まで。


どこかで。


引っかかっていたものが。


すっと。


抜けたような。


そんな感覚。


「リーナ」


「……はい」


「今」


「何した?」


「え?」


リーナが。


自分の手を見る。


「分かりません」


「ただ」


「ここが」


剣へ。


もう一度。


触れる。


「ずれてるような」


「気がして」


「だから」


「触っただけです」


「……」


俺は。


剣を見る。


軽くなったわけじゃない。


強くなったわけでもない。


なのに。


分かる。


俺の力が。


前より。


ちゃんと。


剣へ伝わっている。


俺がしたのは。


魔力を。


流しただけ。


強くして。


弱くして。


それだけだ。


どこを通すのか。


何を変えたのか。


俺には。


分からない。


でも。


リーナが。


剣に触れた瞬間。


確かに。


何かが変わった。


「リーナ」


「……はい」


「これ」


「できてる」


「え?」


「たぶん」


俺は。


ガルドの言葉を。


思い出す。


――武器と使い手。


――その二つを繋ぐんだ。


「調律」


リーナの目が。


大きくなる。


「……違います」


「でも」


「私がやったのは」


「ただ」


「流れを――」


――ガサッ。


「……?」


言葉が。


止まる。


森の奥。


何かが。


動いた。


俺は。


剣を構える。


リーナも。


すぐに。


腰へ手を伸ばした。


短剣を。


抜く。


さっきまでとは。


目が違う。


震えていない。


何度も。


この短剣と。


戦ってきた。


そんな構えだった。


――グルルル……。


茂みの奥から。


狼型の魔物が。


姿を現す。


一匹。


二匹。


三匹。


さらに。


奥から。


二匹。


「五匹……」


リーナが。


小さく呟く。


「いける?」


俺が聞く。


リーナは。


短剣を握る。


「一匹なら」


「倒したことあります」


「五匹は?」


「……ないです」


「俺も」


「……」


「……」


一瞬。


二人で。


顔を見る。


「逃げる?」


「囲まれてます」


「だよな」


狼たちが。


左右へ。


広がっていく。


逃げ道を。


塞ぐように。


俺は。


剣を構え直した。


「リーナ」


「はい」


「一人で戦える?」


リーナは。


自分の短剣を見る。


そして。


頷いた。


「弱いですけど」


「戦えます」


「じゃあ」


俺は。


一歩。


前へ出る。


「二人でやろう」


「……はい」


リーナが。


俺の横へ並ぶ。


俺は剣。


リーナは短剣。


狼たちが。


低く。


身体を沈める。


次の瞬間。


五匹が。


一斉に。


地面を蹴った。


これが。


俺とリーナの。


初めての。


共闘だった。

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