二百年前の記録
『俺と同じ』
『神銃士なら――』
俺は。
息を。
呑んだ。
神銃が。
青白く。
光っている。
石の台から。
聞こえる。
男の声。
二百年以上。
前。
ここに。
残された。
声。
――ザザッ。
雑音。
一度。
声が。
途切れる。
そして。
『ここへ』
『辿り着いたということは』
少し。
間が空く。
『あいつも』
『再び』
『現れたのかもしれない』
「……あいつ?」
セリアが。
小さく。
呟いた。
返事は。
ない。
これは。
会話じゃない。
昔。
残された。
声。
ただ。
俺たちが。
聞いているだけだ。
『俺たちは』
雑音。
『あれを』
『災厄と』
『呼んだ』
「災厄……」
リーナが。
呟く。
俺は。
何も。
言えなかった。
災厄。
その言葉。
どこかで。
聞いた。
わけじゃない。
それでも。
頭に。
浮かぶ。
外で。
見つけた。
巨大な。
爪痕。
地面を。
抉った。
何か。
そして。
街中に。
残されていた。
神銃の。
痕跡。
『多くの』
『人間が』
『戦った』
『七つの神器も』
『使われた』
俺たちは。
壁を見る。
ここへ。
来る途中。
見つけた。
七つの。
形。
「やっぱり……」
セリアが。
呟く。
「あれ」
「七神器だったんだ」
「ああ」
俺は。
神銃を見る。
そのうちの。
一つ。
俺が。
持っている。
神器。
『だが』
声が。
続く。
『倒せなかった』
「……」
誰も。
喋らない。
『俺も』
『神銃で』
『戦った』
その言葉で。
確信した。
あの。
痕跡。
壁を。
貫いていた。
穴。
焼けた。
石畳。
何発も。
何発も。
撃った。
跡。
あれは。
この男が。
残したものだ。
『撃った』
『何度も』
『何度も』
『撃った』
やっぱり。
そうだ。
『神銃は』
『強かった』
『俺も』
『その力を』
『信じていた』
俺は。
無意識に。
神銃を。
強く。
握っていた。
前の。
神銃士。
この男は。
神銃を。
使っていた。
この場所で。
何度も。
撃った。
俺とは。
違う。
最初から。
神銃の力を。
使うことが。
できた。
『それでも』
『届かなかった』
雑音。
『違う』
男の。
声。
少しだけ。
低くなる。
『届かせるための』
『ものは』
『あった』
「……?」
俺は。
石の台を見る。
『最後の』
『一発』
「最後の……」
思わず。
声が出た。
セリアが。
俺を見る。
「レン?」
「いや」
知らない。
そんなもの。
俺は。
知らない。
神銃には。
魔力弾がある。
今の俺が。
撃てる。
一発。
でも。
男が。
言っているのは。
多分。
それじゃない。
『神銃は』
『七神器の中で』
『最後に』
『作られた』
俺の。
手の中。
神銃が。
微かに。
震えた。
『あれを』
『終わらせるために』
『最後の』
『一撃を』
『放つために』
「……」
背中が。
冷たくなる。
最後に。
作られた。
神器。
神銃。
災厄を。
終わらせる。
最後の。
一撃。
それが。
こいつには。
ある。
「レンさん……」
リーナの。
声。
「ああ」
俺も。
初めて。
知った。
そんなものが。
神銃に。
あるなんて。
『俺は』
声が。
途切れる。
――ザザッ。
『神銃と』
『共に』
『戦い続けた』
『そして』
『あれを』
『終わらせるための』
『最後の一撃を』
『使おうとした』
雑音。
『その時』
『初めて』
『知った』
俺は。
神銃を。
見る。
『最後の一撃には』
『俺だけでは』
『足りない』
「……え?」
セリアが。
声を出した。
俺も。
意味が。
分からなかった。
神銃士が。
神銃を。
使う。
それだけじゃ。
足りない?
『神銃が』
『要求した』
一瞬。
神銃の。
文字が。
強く。
光る。
『第二接続者を』
「……!」
俺は。
目を。
見開いた。
第二接続。
知っている。
その言葉。
王都。
記録院。
前の。
神銃士について。
調べた時。
見つけた。
僅かな。
記録。
そこに。
あった。
言葉。
第二接続。
あの時は。
意味が。
分からなかった。
でも。
今。
前の。
神銃士が。
同じ言葉を。
口にした。
「……第二接続」
俺が。
呟く。
セリアが。
こっちを見る。
「知ってるの?」
「ああ」
「王都で」
「前の神銃士を」
「調べた時」
「その言葉だけ」
「記録に」
「残ってた」
「意味は?」
「分からなかった」
少なくとも。
今までは。
『俺には』
声が。
続く。
『最後まで』
『分からなかった』
『第二接続者が』
『何なのか』
『誰なのか』
『どうすれば』
『見つけられるのか』
俺は。
黙って。
聞いていた。
でも。
隣で。
誰かが。
僅かに。
動いた。
リーナ。
俺は。
そちらを見る。
リーナも。
俺を。
見ていた。
「……」
何も。
言わない。
でも。
同じことを。
考えたのかもしれない。
神銃に。
触れられる。
俺以外の。
人間。
神器の。
内部へ。
繋がることが。
できる。
唯一の。
人間。
「……私?」
リーナが。
小さく。
呟いた。
「分からない」
俺は。
答える。
「まだ」
「分からない」
似ている。
確かに。
似ている。
でも。
まだ。
それだけだ。
第二接続者。
それが。
リーナだと。
決まったわけじゃない。
『結局』
男の。
声が。
続く。
『俺には』
『撃てなかった』
『最後の』
『一発を』
声が。
僅かに。
掠れる。
『災厄を』
『終わらせるための』
『一発を』
『目の前に』
『していながら』
『俺には』
『撃てなかった』
静かな。
声だった。
怒っている。
わけでもない。
泣いている。
わけでもない。
でも。
なぜか。
その言葉だけが。
重かった。
二百年以上。
前。
この男は。
ここで。
戦った。
神銃を。
使い。
何度も。
撃った。
それでも。
最後の。
一発だけが。
撃てなかった。
『だから』
『俺たちは』
雑音。
――ザザッ。
声が。
乱れる。
『倒せないなら』
『せめて』
『止めるしか』
『なかった』
「止める……?」
セリアが。
呟く。
『この地ごと――』
――ザザッ!
「っ」
急に。
雑音が。
大きくなる。
『――封じ――』
「封じ?」
俺は。
石の台へ。
近づく。
「おい」
「その先は?」
当然。
返事なんて。
ない。
『――いつまで――』
『――分からない』
――ザザッ。
「待て!」
音が。
途切れる。
「レン!」
分かってる。
でも。
聞きたい。
この地ごと。
何だ?
封じた?
何を?
災厄を?
『もし』
突然。
声が。
戻った。
俺は。
止まる。
『これを』
『聞いている』
『神銃士が』
『俺の』
『次に』
『選ばれた者なら』
男の。
声。
今までより。
少しだけ。
はっきり。
聞こえる。
『俺には』
『できなかった』
『最後の一撃を』
『お前には』
『撃ってほしい』
「……」
『もう一人を』
『見つけろ』
俺の。
視線が。
僅かに。
動く。
リーナ。
でも。
すぐに。
戻す。
『そして』
一度。
声が。
途切れる。
『今度こそ』
『あれを』
『終わらせてくれ』
――ザッ。
音が。
消えた。
「……」
静かに。
なった。
石の台。
さっきまで。
浮かんでいた。
青白い。
文字も。
少しずつ。
消えていく。
「……終わり?」
セリアが。
聞く。
「多分」
俺は。
答える。
でも。
動けなかった。
頭の中を。
いくつもの。
言葉が。
回っている。
災厄。
七神器。
最後に。
作られた。
神銃。
最後の。
一撃。
第二接続者。
そして。
封じた。
「……レン」
「何」
「思ってたより」
セリアが。
少し。
困ったような。
顔をする。
「すごい話に」
「なってない?」
「……俺も」
「そう思ってる」
ただ。
湖のことを。
調べる。
それだけの。
つもりだった。
昔。
なかった。
湖。
突然。
現れた。
湖。
その。
理由を。
知りたかった。
それだけだった。
なのに。
その底には。
二百年以上。
前の。
街が。
沈んでいた。
前の。
神銃士が。
戦った。
跡が。
残っていた。
そして。
「第二接続者……」
リーナが。
呟く。
俺と。
セリアが。
そちらを見る。
リーナは。
自分の。
手を。
見ていた。
「リーナ」
「……はい」
「さっきのこと」
俺は。
少し。
考える。
「まだ」
「決めつけない方がいい」
「……はい」
「第二接続者が」
「何なのかも」
「まだ」
「ちゃんとは」
「分かってない」
「はい」
リーナが。
頷く。
でも。
その表情は。
どこか。
考え込んでいた。
俺だって。
同じだ。
考えない。
なんて。
無理だ。
俺以外で。
神銃に。
繋がれた。
人間。
リーナ。
それが。
ただの。
偶然なのか。
それとも。
「……」
その時。
――ゴウン。
「っ!」
地面が。
揺れた。
「何!?」
セリアが。
剣へ。
手を伸ばす。
リーナも。
周囲を見る。
――ゴウン。
もう一度。
遺跡全体が。
震える。
「レンさん!」
神銃。
光っている。
さっきまで。
弱くなっていた。
青白い。
光。
それが。
再び。
強くなっている。
「またかよ……」
「今度は」
「何?」
「俺に」
「聞くな!」
神銃を。
見る。
でも。
さっきとは。
違う。
奥じゃない。
俺は。
ゆっくり。
神銃を。
動かす。
右。
弱い。
左。
弱い。
後ろ。
――……ン。
強くなる。
「……後ろ?」
セリアが。
聞く。
「ああ」
俺たちが。
来た方向。
入口。
そっちに。
反応している。
「もしかして」
リーナが。
言う。
「戻れるんでしょうか」
「分からない」
「でも」
俺は。
神銃を見る。
「行ってみるしか」
「ないな」
「結局」
「そればっかりだね」
「他に」
「どうしろって」
「言うんだよ」
「はいはい」
セリアが。
歩き出す。
俺も。
その後へ。
続こうとして。
止まった。
「……」
「レン?」
振り返る。
石の台。
もう。
光は。
消えている。
二百年以上。
前。
ここで。
戦った。
男。
前の。
神銃士。
その言葉を。
頭の中で。
もう一度。
思い出す。
倒した。
そうは。
一度も。
言わなかった。
あの男は。
倒せなかった。
だから。
止めた。
そして。
途切れた。
言葉。
『この地ごと――』
『――封じ――』
俺は。
ゆっくり。
足元を見る。
この遺跡。
この街。
そして。
その。
さらに。
下。
「……この地ごと」
「何?」
セリアが。
振り返る。
「さっき」
「あいつが」
「言ってただろ」
「倒せないなら」
「止めるしかなかったって」
「ああ……」
セリアも。
足元を見る。
俺は。
さらに。
その上。
遥か。
頭上を見る。
暗い。
水。
俺たちを。
覆っている。
巨大な。
湖。
「もしかして」
セリアの。
声が。
小さくなる。
「あの湖……」
「ああ」
二百年以上。
前。
ここには。
湖なんて。
なかった。
その時代。
この場所で。
災厄と。
七神器が。
戦った。
そして。
前の神銃士は。
言った。
倒せなかった。
だから。
この地ごと。
封じた。
その後。
ここに。
巨大な湖が。
現れた。
「……湖そのものが」
俺は。
頭上を見る。
「封印なのか?」
誰も。
答えなかった。
答えられる。
はずもない。
でも。
今まで。
別々だったものが。
一つに。
繋がり始めている。
突然。
現れた。
巨大な湖。
その底に。
沈んだ。
街。
消された。
同じ時代の。
記録。
そして。
災厄を。
この地ごと。
封じたという。
前の神銃士。
「じゃあ」
セリアが。
足元を見る。
「この下に……」
その先を。
言わなかった。
俺も。
言えなかった。
災厄。
倒せなかった。
何か。
それが。
もし。
今も。
封じられているなら。
俺たちが。
立っている。
この場所の。
さらに。
下に――。
「レンさん」
リーナの。
声。
「神銃が」
見る。
青白い。
光。
俺たちが。
来た方向を。
示している。
「……行こう」
今は。
確かめる。
方法がない。
それに。
ここから。
戻る方が。
先だ。
俺は。
歩き出す。
でも。
一度だけ。
振り返った。
湖の底に。
沈んだ。
古い街。
その。
さらに。
下。
前の神銃士が。
倒すことのできなかった。
災厄。
もし。
あいつの。
言葉が。
そのままの。
意味なら。
ここには。
今も――
災厄が。
眠っている。




