打つ
翌日。
「……行こう」
朝。
宿を。
出てすぐ。
セリアが。
言った。
「どこに」
「工房」
「昨日も」
「止められただろ」
「昨日は」
「昨日でしょ」
「今日は」
「今日だから」
「そういう問題じゃ」
「ないだろ」
「でも」
セリアが。
少し。
前を歩く。
「気になる」
「私の剣だよ?」
「今」
「どうなってるのか」
「見たい」
気持ちは。
分からなくもない。
俺だって。
気になる。
地竜の。
素材。
あれが。
どうやって。
一本の剣に。
なるのか。
見たことなんて。
ない。
「……行くだけ」
「だからね」
「見るだけ」
「邪魔は」
「しない」
「それ」
「老人にも」
「言えよ」
「言う」
隣で。
リーナが。
少し。
困ったように。
笑っている。
結局。
三人で。
工房へ。
向かった。
◇
――カン。
近づく前から。
聞こえた。
――カン。
――カン。
金属を。
叩く。
音。
工房の。
中へ。
顔を出す。
熱。
昨日までとは。
違う。
炉の。
近く。
老人が。
立っていた。
「……」
俺たちに。
気づく。
そして。
一言。
「帰れ」
「見るだけ!」
セリアが。
即答した。
「邪魔だ」
「喋らないから!」
「もう」
「喋ってるだろ」
「……」
「帰れ」
「……はい」
早い。
セリアが。
肩を落とす。
「だから」
「言っただろ」
「レン」
「ちょっと」
「嬉しそうじゃない?」
「気のせい」
俺たちは。
工房を。
出ようとする。
その時。
「待て」
老人の。
声。
セリアが。
振り返った。
「いいの!?」
「お前じゃねえ」
「……え?」
老人が。
見る。
俺でも。
セリアでもない。
「嬢ちゃん」
リーナが。
自分を。
指差す。
「……私?」
「ああ」
老人が。
顎で。
炉の方を。
示す。
「来い」
「……はい」
リーナが。
老人の。
近くへ。
向かう。
セリアが。
俺を見る。
「私の剣だよね?」
「多分」
「なんで」
「リーナだけ?」
「知らない」
「……」
ものすごく。
不満そうだ。
老人が。
炉の横から。
何かを。
持ち上げる。
黒い。
細長い。
素材。
まだ。
剣とは。
呼べない。
昨日。
見た。
地竜の素材。
それが。
熱を。
加えられ。
叩かれ。
伸ばされている。
表面には。
所々。
青白い。
筋。
でも。
昨日より。
見えにくい。
「嬢ちゃん」
「はい」
「触れるか」
リーナが。
素材を見る。
「……熱くないところなら」
「ここだ」
老人が。
一部を。
示す。
リーナが。
慎重に。
指を。
触れる。
「……」
目を。
閉じる。
しばらく。
何も。
言わない。
老人も。
急かさない。
やがて。
リーナの。
指が。
動いた。
「……ここから」
ゆっくり。
素材の上を。
進む。
「ここまで」
止まる。
「その先は?」
「……」
少し。
集中する。
「途切れてます」
「どこでだ」
「ここです」
指が。
一点を。
示す。
老人が。
そこを見る。
「……そうか」
それだけ。
言って。
素材を。
受け取る。
炉へ。
戻る。
「何してるんだ?」
俺が。
小さく。
呟く。
セリアも。
首を。
傾げる。
老人が。
素材を。
熱する。
赤く。
なっていく。
取り出す。
台へ。
置く。
槌を。
持つ。
――カン!!
火花。
「……!」
セリアが。
少し。
身を乗り出す。
――カン!!
――カン!!
同じ場所では。
ない。
少しずつ。
位置を。
変えながら。
叩く。
伸ばす。
形を。
整える。
老人の。
目は。
素材から。
離れない。
やがて。
槌が。
止まった。
「嬢ちゃん」
「はい」
また。
リーナ。
今度は。
老人が。
冷ました。
素材を。
渡す。
「見ろ」
「……」
リーナが。
触れる。
「さっきのところ」
「どうだ」
指が。
進む。
さっき。
止まった。
場所。
そこを。
越える。
「……通ってます」
老人が。
頷く。
「その先は」
「ここまで」
「まだ」
「途中で」
「止まってます」
「そうか」
また。
老人が。
素材を。
受け取る。
俺は。
ようやく。
気づいた。
「道……」
老人が。
こっちを見る。
「なんだ」
「地竜の」
「魔力が」
「通ってた道」
「それを」
「見てるんですか?」
老人が。
鼻を鳴らす。
「見てるのは」
「俺じゃねえ」
リーナを見る。
「こいつだ」
「……」
「俺には」
「素材が」
「分かる」
老人が。
黒い素材を。
持ち上げる。
「どこが」
「硬い」
「どこが」
「脆い」
「どう熱を」
「入れる」
「どこを」
「叩く」
「それは」
「分かる」
でも。
老人の。
指が。
青白い筋へ。
触れる。
「こいつの中を」
「流れてたものまでは」
「分からねえ」
リーナが。
自分の手を見る。
「……私には」
「それが」
「分かる」
「ああ」
「だから」
老人が。
言う。
「それだけ」
「教えろ」
「どこを」
「叩くかは」
「俺が決める」
「……はい」
リーナが。
頷いた。
それで。
いい。
リーナは。
鍛冶師じゃない。
剣を。
作れるわけじゃない。
老人は。
魔力の流れを。
リーナみたいに。
感じられるわけじゃない。
でも。
老人には。
剣を。
打てる。
リーナには。
流れが。
分かる。
二人にしか。
できないことが。
違う。
「で」
老人が。
俺たちを見る。
「お前らは」
「まだ」
「いるのか」
「……」
セリアが。
一歩。
前へ。
出る。
「邪魔」
「しません」
「……」
「喋りません」
「今」
「喋ってるな」
「今だけ」
「……」
老人が。
深く。
息を吐く。
「勝手にしろ」
セリアの。
顔が。
明るくなる。
「ただし」
「邪魔したら」
「叩き出す」
「はい!」
「声が」
「でけえ」
「……はい」
今度は。
小さい。
俺も。
工房の。
端へ。
移動する。
リーナは。
老人の。
近く。
セリアは。
そこから。
少し離れた場所。
自分の。
剣が。
生まれていく。
その様子を。
じっと。
見ていた。
◇
――カン。
――カン。
――カン。
時間が。
過ぎる。
何度も。
熱する。
何度も。
叩く。
伸ばす。
整える。
冷ます。
そして。
また。
熱する。
黒かった。
地竜の素材が。
少しずつ。
姿を。
変えていく。
最初は。
ただの。
細長い。
塊だった。
それが。
少しずつ。
刃の。
形へ。
変わっていく。
その度に。
老人が。
リーナを。
呼ぶ。
「どうだ」
リーナが。
触れる。
「……ここまで」
「こっちは」
「まだ」
「繋がってます」
「こっちは?」
「……少し」
「細いです」
「そうか」
老人が。
見る。
考える。
そして。
自分で。
決める。
――カン!!
リーナが。
言った場所を。
そのまま。
叩くわけじゃない。
違う場所を。
叩くこともある。
熱を。
入れる場所を。
変えることもある。
老人には。
老人にしか。
分からないものが。
ある。
また。
形が。
変わる。
また。
リーナが。
触れる。
それを。
何度も。
繰り返す。
そして。
ある時。
リーナが。
小さく。
声を出した。
「……あ」
老人の。
手が。
止まる。
「なんだ」
「……変わってます」
「何がだ」
「流れが」
リーナの。
指が。
素材を。
なぞる。
「最初と」
「違います」
「地竜だった時は」
「もっと」
「いくつも」
「分かれてました」
身体中へ。
広がる。
道。
前脚。
胴。
首。
全身へ。
魔力を。
送っていた。
流れ。
でも。
今。
リーナが。
触れている。
素材は。
違う。
「今は」
指が。
進む。
「こっちへ」
一本。
長く。
伸びる。
「真っ直ぐ」
「流れようと」
「してます」
老人が。
素材を見る。
「当たり前だ」
「……え?」
「もう」
老人が。
槌を。
持つ。
「地竜じゃ」
「ねえ」
赤く。
熱せられた。
素材。
台の上へ。
置く。
「剣に」
「するんだ」
――カン!!
火花が。
散った。
「……」
セリアが。
息を。
呑む。
――カン!!
――カン!!
地竜の。
身体を。
巡っていた。
道。
それを。
そのまま。
残すんじゃない。
壊さず。
でも。
同じでもない。
剣として。
新しい。
道へ。
変えていく。
老人が。
言った。
これを。
殺さず。
剣にする。
その意味が。
少しだけ。
分かった。
◇
どれくらい。
経ったのか。
分からない。
炉の。
火。
槌の。
音。
汗。
熱。
老人は。
ほとんど。
休まない。
セリアも。
ずっと。
見ている。
一度も。
暇なんて。
言わなかった。
そして。
また。
老人が。
槌を。
置いた。
「嬢ちゃん」
「はい」
「もう一度」
「見ろ」
冷ました。
刃。
今度は。
もう。
素材とは。
呼べなかった。
剣。
まだ。
仕上げられて。
いない。
柄も。
ない。
刃だけ。
それでも。
確かに。
剣の。
形を。
している。
リーナが。
両手で。
受け取る。
「……」
指先を。
根元へ。
触れる。
目を。
閉じる。
ゆっくり。
進む。
根元。
刃の。
中ほど。
少し。
止まる。
また。
進む。
さらに。
先へ。
老人が。
聞く。
「どこまでだ」
リーナは。
答えない。
まだ。
指が。
進んでいる。
そして。
切っ先。
そこで。
止まった。
目を。
開く。
「……全部」
老人の。
目が。
細くなる。
「途切れてねえか」
「はい」
「細くなってるところは」
「……あります」
「でも」
もう一度。
根元から。
切っ先を見る。
「全部」
「繋がってます」
「そうか」
老人が。
刃を。
受け取る。
しばらく。
眺める。
そして。
台へ。
置く。
槌を。
握る。
最後に。
一度。
大きく。
振り上げる。
――カン。
高い。
澄んだ。
音。
黒い。
刃。
その中。
根元から。
切っ先へ。
青白い。
細い光が。
一瞬だけ。
走った。
「……!」
セリアが。
前へ。
出そうになる。
老人が。
刃を見る。
長い。
沈黙。
そして。
小さく。
頷いた。
「……よし」
「できた!?」
セリアが。
我慢できず。
声を出す。
老人が。
振り返る。
「まだだ」
「え!?」
「今」
「よしって」
「言ったじゃん!」
「剣の形に」
「なっただけだ」
「……」
セリアが。
黒い刃を見る。
もう。
剣にしか。
見えない。
でも。
老人にとっては。
まだ。
完成じゃない。
「仕上げが」
「残ってる」
老人が。
刃を。
持ち上げる。
「それに」
一瞬。
セリアを見る。
「こいつが」
「本当に」
「お前の剣に」
「なるかどうかは」
「まだ」
「分からねえ」
「……え?」
老人は。
それ以上。
何も。
言わなかった。
ただ。
黒い刃を。
もう一度。
見つめる。
その奥。
青白い。
細い道が。
僅かに。
残っていた。




