持ち帰ったもの
帰り道は。
静かだった。
いや。
静かに。
進んだ。
地竜を。
倒した。
だからって。
俺たちが。
深層域で。
無敵になった。
わけじゃない。
俺の神器には。
もう。
弾がない。
【残弾数:0/1】
セリアの剣には。
亀裂。
俺も。
セリアも。
傷だらけ。
リーナだけは。
大きな怪我を。
していない。
それでも。
疲れている。
だから。
戦わない。
見つけても。
避ける。
遠回りに。
なっても。
安全な道を。
選ぶ。
今。
必要なのは。
もう一体。
倒すことじゃない。
帰ること。
三人で。
地上へ。
帰ることだ。
◇
第三層域。
第二層域。
第一層域。
少しずつ。
見慣れた景色へ。
戻っていく。
そして。
長い通路の。
向こう。
光。
「……」
セリアが。
足を止めた。
「……帰ってきた」
「うん」
俺も。
少しだけ。
息を吐く。
後ろから。
リーナが。
ついてくる。
その腰には。
いつもの短剣。
そして。
背負った袋の中には。
黒い甲殻。
爪。
牙。
俺たちが。
持ち帰れるだけ。
持ってきた。
地竜の。
素材。
でも。
ほとんどは。
まだ。
深層域に。
残っている。
巨大な。
あの身体を。
三人で。
運べるわけが。
なかった。
「行こう」
「うん」
「……はい」
俺たちは。
ダンジョンを。
出た。
◇
ギルドへ。
入る。
いつもと。
変わらない。
冒険者たち。
受付。
依頼書。
でも。
俺たちを見ると。
受付の女性が。
少しだけ。
目を見開いた。
「お帰りなさい」
「深層域へ」
「行かれていたんですよね?」
「はい」
「三人とも」
「ご無事で……」
視線が。
セリアの。
左肩へ。
移る。
それから。
亀裂の入った。
剣。
俺の。
傷。
「……では」
「なさそうですね」
「まあ」
「色々」
「ありました」
「何か」
「異常が?」
俺は。
少し。
考える。
どこから。
話せばいい。
古い。
遺跡。
壁を流れる。
魔力。
深い場所から。
響く。
――ゴウン。
そして。
地竜。
「深層域で」
「地竜と」
「遭遇しました」
「……」
受付の女性の。
動きが。
止まった。
「地竜……ですか?」
「はい」
「黒い」
「甲殻の」
「……」
表情が。
変わる。
「逃げ切ったんですか?」
「いえ」
「……え?」
俺は。
後ろを見る。
リーナが。
背負っていた袋を。
降ろす。
――ゴトッ。
重い。
音。
袋を。
開く。
黒い。
甲殻。
欠けた。
牙。
太い。
爪。
受付の女性が。
それを見る。
「これ……」
「倒しました」
「……」
「三人で」
しばらく。
何も。
返ってこなかった。
「少々」
「お待ちください」
受付の女性が。
奥へ。
消えていった。
◇
待つこと。
少し。
何人かの。
職員が。
出てきた。
年配の。
職員もいる。
黒い甲殻を。
手に取る。
「……硬いな」
爪。
牙。
一つずつ。
確認していく。
「場所は?」
地図を。
広げる。
俺は。
指を置く。
深層域。
巨大な。
人工物の。
奥。
「あの辺りです」
「死体は?」
「残ってます」
「持って帰れる分だけ」
「持ってきました」
職員が。
頷く。
そして。
別の職員が。
古い記録を。
持ってきた。
何枚もの。
紙。
その中から。
一枚。
机へ。
置かれる。
【深層域にて黒色の地竜を確認】
【交戦を避け撤退】
「……」
もう一枚。
【攻撃が外皮を通らず】
【負傷者一名】
【撤退】
黒い。
地竜。
同じ。
個体なのか。
断定は。
できない。
でも。
「以前から」
「いたんですか?」
「目撃記録は」
「あります」
職員が。
答える。
「地竜自体」
「深層域では」
「危険度の高い魔物です」
「熟練の冒険者でも」
「見つければ」
「基本的には」
「交戦を避けます」
「……」
「特に」
職員が。
黒い甲殻へ。
触れる。
「黒い個体については」
「外皮が異常に硬いという」
「記録が」
「いくつか残っています」
セリアが。
小さく。
呟く。
「……やっぱり」
「硬かったもんね」
硬かった。
なんて。
言葉で。
済ませていいのか。
分からないくらいには。
硬かったけど。
「討伐した記録は?」
俺が聞く。
職員は。
少し。
黙った。
それから。
首を横へ。
振る。
「少なくとも」
「アルトのギルドに」
「残っている記録では」
「ありません」
「……」
セリアが。
俺を見る。
俺も。
セリアを見る。
リーナは。
黒い甲殻を。
見ていた。
「ただ」
職員が。
続ける。
「深層域は」
「未探索の場所も」
「多い」
「過去の記録も」
「完全ではありません」
「ですから」
「これが」
「初めて討伐された地竜だと」
「いう意味では」
「ありません」
「はい」
それで。
十分だった。
世界で。
初めてとか。
そんなことは。
どうでもいい。
俺たちは。
あいつと。
戦った。
そして。
三人で。
倒した。
それだけで。
十分だ。
「死体についてですが」
職員が。
地図を見る。
「ギルドから」
「回収隊を」
「出します」
「回収?」
「はい」
「この量の素材を」
「深層域に」
「残しておくのは」
「惜しいですから」
確かに。
甲殻。
爪。
牙。
それだけでも。
かなりの。
素材になる。
「ただ」
「深層域です」
「解体のできる者だけでは」
「向かえません」
「護衛と」
「運搬要員を」
「集める必要があります」
「少し」
「時間をください」
「分かりました」
「それと」
職員が。
俺たちを見る。
「回収できた素材については」
「討伐者である」
「皆さんに」
「優先権があります」
「俺たちに?」
「はい」
「必要な素材があれば」
「優先して」
「確保できます」
「残りについても」
「希望されるのであれば」
「ギルドで」
「買い取ります」
思ったより。
大きな話に。
なってきた。
でも。
必要な素材。
その言葉で。
俺と。
リーナの視線が。
同時に。
一人へ。
向いた。
「……何?」
セリアが。
俺たちを見る。
「いや」
「ちょうど」
「素材を探してる奴が」
「いたなって」
「……」
セリアが。
自分の剣を見る。
亀裂。
入っている。
「…………」
「行く?」
リーナが。
聞く。
セリアは。
少し。
黙った。
「……行く」
「うん」
「でも」
「その前に」
「何?」
セリアが。
亀裂の入った。
剣を見る。
「……怒られるかな」
「多分」
「怒られると思う」
「レン」
「そこは」
「大丈夫って」
「言ってよ」
「壊すなって」
「言われてたし」
「……折れてない」
「亀裂入ってるけど」
「折れてない」
「うん」
「それ」
「本人に言ってみたら?」
「……」
セリアが。
黙った。
◇
工房。
いつもの。
金属を。
叩く音。
――カン。
――カン。
――カン。
俺たちが。
中へ入る。
老人が。
顔を上げた。
最初に。
俺。
次に。
リーナ。
そして。
セリア。
その腰。
いや。
剣へ。
目が止まる。
「……」
セリアの。
背筋が。
伸びた。
「……ただいま」
「……」
老人が。
手を出す。
「貸せ」
「……はい」
セリアが。
恐る恐る。
剣を。
渡す。
老人が。
鞘から。
抜く。
刃を見る。
亀裂。
指で。
なぞる。
「……」
「……」
「壊すなと」
「言ったよな」
「……はい」
「言ったよな?」
「……はい」
「……」
セリアが。
小さく。
付け足す。
「折れては」
「ないです」
老人が。
顔を上げる。
「そういう問題じゃ」
「ねえ」
「……はい」
俺は。
少しだけ。
顔を。
逸らした。
笑ったら。
多分。
怒られる。
リーナも。
口元を。
少しだけ。
押さえている。
「で」
老人が。
剣を。
机へ置く。
「何と」
「やり合った」
俺は。
持ってきた。
袋を。
机へ。
置いた。
中から。
黒い甲殻を。
取り出す。
――ゴトッ。
老人の目が。
変わった。
「……」
甲殻。
触る。
持ち上げる。
裏返す。
次に。
爪。
牙。
何も。
言わない。
しばらく。
見続ける。
やがて。
「……地竜か」
「はい」
「深層域で」
「戦いました」
老人が。
甲殻を。
もう一度。
見る。
「…………いや」
指が。
止まる。
「こいつ」
「普通の」
「地竜じゃねえな」
「分かるんですか?」
「外側は」
指で。
叩く。
――コン。
硬い。
高い。
音。
「馬鹿みてえに」
「硬い」
「でも」
老人が。
割れた。
甲殻の。
内側を見る。
地竜を。
倒した時。
砕けた部分。
そこには。
僅かに。
青白い。
筋のようなものが。
残っている。
「こっちは」
「違う」
リーナが。
近づいた。
「……触っても」
「いいですか?」
老人が。
甲殻を。
差し出す。
リーナの。
指先が。
触れる。
「……」
目を。
閉じる。
少しして。
「……ここ」
指が。
動く。
青白い。
筋。
その上を。
ゆっくり。
なぞる。
「まだ」
「少しだけ」
「分かります」
老人が。
リーナを見る。
「何がだ」
「戦ってた時に」
「流れてたところです」
「魔力が?」
「……はい」
「地竜の中を」
「ここから」
「流れてました」
老人が。
黙る。
甲殻を見る。
リーナを見る。
もう一度。
甲殻。
「……なるほどな」
「何か」
「分かったんですか?」
俺が聞く。
老人は。
答えず。
別の破片を。
手に取る。
表。
裏。
断面。
一つずつ。
確認していく。
「長いこと」
「濃い魔力に」
「晒されてやがる」
「長いこと……」
「どれくらいですか?」
「知らん」
即答。
「場所も」
「時間も」
「俺には」
「分からん」
老人が。
甲殻を。
机へ置く。
「ただ」
「普通の地竜が」
「普通に育って」
「こうなった」
「ようには」
「見えねえ」
深層域。
あの。
異常に。
濃い魔力。
そして。
――ゴウン。
頭に。
浮かぶ。
でも。
まだ。
何も。
分からない。
老人が。
セリアを見る。
「お前」
「言ったな」
「……?」
「もっと」
「強くなるって」
セリアの。
表情が。
変わる。
あの日。
この工房で。
老人に。
言った言葉。
「……はい」
今度は。
迷わなかった。
「強くなります」
老人が。
小さく。
鼻を鳴らす。
「なら」
「今のお前に」
「合わせるだけじゃ」
「足りねえな」
「え?」
老人が。
黒い甲殻を。
持ち上げる。
「硬いだけの」
「素材なら」
「剣には」
「ならねえ」
その指が。
内側の。
青白い筋へ。
触れる。
「だが」
「こいつには」
「魔力が」
「通った跡がある」
リーナが。
甲殻を見る。
老人が。
続ける。
「硬くて」
「魔力を通す」
「全部」
「見ねえと」
「分からんが」
甲殻を。
机へ。
置く。
「使える」
セリアが。
一歩。
前へ出る。
「じゃあ……」
「ああ」
老人が。
セリアを見る。
「約束は」
「守ったみてえだな」
「……」
「持ってこいと」
「言っただろ」
「お前が」
「自分で」
「持ち帰れるものをな」
セリアが。
黒い甲殻を見る。
あの。
地竜。
何度。
斬っても。
通らなかった。
剣に。
亀裂が。
入っても。
何度も。
同じ場所を。
斬った。
そして。
最後に。
破壊した。
その。
甲殻。
「……はい」
老人が。
その素材へ。
手を置く。
そして。
言った。
「お前の剣を」
「打つぞ」




