黒い鱗の主
――ゴウン。
地の底から。
響く。
低い。
音。
そのたびに。
床を。
青白い光が。
走る。
その先。
暗闇へ。
消えていく。
俺たちは。
しばらく。
動かなかった。
床に。
残された。
巨大な。
足跡。
壁を。
抉った。
爪痕。
そして。
黒い。
鱗のような。
欠片。
「……どうする?」
セリアが。
小さな声で。
聞く。
俺は。
荷物を。
確認する。
水。
食料。
時間。
体力。
帰るための。
余力。
まだ。
ある。
でも。
この先に。
何かが。
いる。
それも。
今まで。
出会った。
魔物とは。
違う。
何かが。
「……少しだけ」
「先を見る」
「姿を」
「確認したら」
「一度」
「戻ろう」
セリアが。
頷く。
「うん」
リーナも。
「はい」
俺たちは。
再び。
歩き出した。
*
進むほど。
痕跡は。
増えていった。
床に。
残された。
巨大な。
足跡。
柱の。
低い位置に。
こびりついた。
黒い。
鱗。
壁には。
何本もの。
爪痕。
どれも。
同じ。
方向へ。
続いている。
そして。
もう一つ。
「……魔物」
セリアが。
周囲を見る。
「いないね」
「ああ」
深層へ。
入った直後には。
いた。
あの。
黒い外皮の。
魔物。
でも。
ここへ。
近づいてから。
一体も。
見ていない。
静か。
だった。
静かすぎる。
少し。
進んだ。
その時。
「……あれ」
リーナが。
止まった。
床。
何かが。
散らばっている。
近づく。
白い。
もの。
「骨……?」
セリアが。
しゃがむ。
大きい。
俺の。
腕より。
太い。
骨。
その周りには。
黒い。
破片。
見覚えが。
あった。
「これ……」
俺は。
一つ。
拾う。
硬い。
黒い。
外皮。
さっき。
俺たちが。
倒した。
深層の。
魔物。
その。
外皮に。
似ている。
ただ。
これは。
砕けている。
剣で。
斬った。
そんな。
割れ方じゃない。
何かに。
強く。
噛み砕かれたような。
跡。
「…………」
セリアも。
気づいた。
「さっきの」
「魔物かな」
「多分」
俺たちが。
三人で。
何度も。
同じ場所を。
攻撃して。
やっと。
外皮を。
抜いた。
あの魔物。
それが。
ここでは。
食われている。
「……行く?」
セリアが。
もう一度。
聞く。
さっきより。
声が。
低い。
俺は。
奥を見る。
「姿だけ」
「確認する」
「何かいたら」
「戦わない」
「すぐ戻る」
「分かった」
「はい」
進む。
足音が。
妙に。
大きく。
聞こえた。
*
やがて。
通路が。
終わった。
その先。
また。
広い。
空間。
でも。
さっきの。
広間とは。
違う。
円形に近い。
巨大な。
空間。
何本もの。
太い柱。
一部は。
途中から。
折れている。
壁も。
崩れて。
土や岩が。
入り込んでいる。
それでも。
床には。
あの。
細い溝が。
何本も。
走っていた。
奥へ。
中央へ。
そして。
さらに。
下へ。
繋がっている。
「…………」
俺たちは。
入口で。
止まった。
何も。
いない。
そう。
思った。
でも。
違う。
中央。
少し。
奥。
巨大な。
黒い。
塊。
「……岩?」
セリアが。
呟く。
大きい。
あまりにも。
大きい。
崩れた。
天井の。
一部。
そう。
見えた。
その時。
――ゴウン。
床が。
僅かに。
震えた。
青白い。
光が。
溝を。
走る。
俺たちの。
足元から。
広間へ。
そして。
その。
黒い塊を。
照らした。
「…………!」
光が。
浮かぶ。
黒い塊の。
表面に。
細い。
青白い。
筋。
見覚えが。
ある。
さっきの。
欠片。
黒い。
鱗。
その中に。
あった。
光と。
同じ。
「レン……」
「ああ」
岩じゃない。
あれは。
生き物だ。
次の瞬間。
――ズズッ。
黒い塊が。
動いた。
「……っ」
地面を。
擦る。
重い。
音。
四本の。
太い脚。
床へ。
食い込む。
巨大な。
爪。
身体を。
覆う。
黒い。
鱗。
いや。
鱗というより。
鉱石を。
何枚も。
重ねたような。
分厚い。
甲殻。
長い。
尾が。
床を。
引きずる。
首が。
ゆっくり。
持ち上がる。
俺たちより。
遥かに。
高い。
そして。
閉じていた。
目が。
開いた。
「…………」
黄色い。
瞳。
それが。
俺たちを。
捉える。
セリアが。
息を。
呑む。
「……竜」
「知ってるのか?」
「見たことは」
「ない」
「でも」
セリアが。
剣へ。
手を。
かける。
「多分」
「あれ」
「地竜……」
地竜。
聞いたことは。
ある。
地を。
這う。
竜。
空を。
飛ぶ竜とは。
違う。
それでも。
竜種。
強力な。
魔物。
その。
名前だけで。
十分だった。
「戻るぞ」
俺は。
すぐに。
言った。
戦うために。
来たんじゃない。
姿を。
確認したら。
戻る。
そう。
決めた。
目的は。
果たした。
セリアも。
リーナも。
すぐに。
頷く。
ゆっくり。
後ろへ。
下がる。
一歩。
二歩。
地竜は。
動かない。
このまま。
行ける。
そう。
思った。
その時。
地竜の。
頭が。
僅かに。
下がった。
「……走れ!」
――ドンッ!!
床が。
爆ぜた。
「っ!!」
巨体が。
一気に。
迫る。
速い。
大きさからは。
考えられない。
速度。
「散れ!!」
俺は。
右へ。
セリアは。
左へ。
リーナが。
後ろへ。
次の瞬間。
地竜の。
前脚が。
振り下ろされた。
――バギィィン!!
「……っ!」
床が。
砕ける。
石片が。
飛ぶ。
腕で。
顔を。
庇う。
「リーナ!」
「大丈夫です!」
無事。
俺も。
セリアも。
当たっていない。
でも。
一発。
もし。
あれを。
まともに。
受けたら。
終わる。
地竜が。
俺へ。
顔を。
向けた。
「こっちだ!」
剣を。
抜く。
地竜が。
前脚を。
振る。
受けない。
受けられない。
後ろへ。
飛ぶ。
爪が。
目の前を。
通り過ぎる。
その。
瞬間。
「セリア!」
「分かってる!」
地竜の。
側面。
セリアが。
踏み込む。
老人から。
借りた。
剣。
リーナが。
調律した。
剣。
両手で。
握り。
全力で。
振る。
――ギィィンッ!!
「……っ!!」
セリアの。
身体が。
弾かれた。
「セリア!」
着地。
二歩。
三歩。
下がる。
でも。
倒れない。
「大丈夫!」
剣も。
折れていない。
地竜の。
甲殻。
そこに。
白い。
傷。
一本。
それだけ。
「嘘……」
セリアが。
呟く。
昨日。
調律して。
深層の。
魔物の。
外皮を。
斬った。
あの剣。
それでも。
これだけ。
「硬すぎる……!」
地竜が。
セリアへ。
振り向く。
「させるか!」
俺が。
横から。
斬る。
――ガキンッ!!
手が。
痺れる。
「……っ!」
浅い。
いや。
傷にすら。
なっていない。
それでも。
地竜の。
目が。
俺へ。
向く。
「レン!」
「いい!」
「今のうちに!」
セリアが。
動く。
もう一度。
さっきの。
場所。
白い。
傷。
そこへ。
――ギィンッ!!
「くっ……!」
今度も。
弾かれる。
でも。
「……入った」
ほんの。
僅か。
白い傷が。
深くなっている。
地竜が。
吠える。
「グォォォォォッ!!」
空気が。
震える。
「下がれ!」
地竜が。
身体を。
捻る。
長い。
尾。
「セリア!」
「っ!」
――ドンッ!!
セリアが。
飛ぶ。
ぎりぎり。
尾が。
床を。
薙いだ。
石の。
床が。
削れる。
これを。
何度も。
避けながら。
あの。
小さな傷を。
狙い続ける。
できるのか。
俺は。
地竜を見る。
黒い。
甲殻。
全身。
どこを。
見ても。
硬い。
その時。
頭に。
浮かんだ。
一発。
俺には。
ある。
これとは。
違う。
力が。
「…………」
俺は。
左手を。
開いた。
魔力を。
流す。
青白い。
光。
それが。
集まり。
形を。
作る。
巨大な。
黒い。
神器。
金の。
装飾。
表面を。
走る。
古い。
文字。
内部から。
漏れる。
青白い。
光。
ずしりと。
肩へ。
重さが。
乗る。
目の前に。
文字が。
浮かぶ。
【神器情報】
【使用者:レン】
【接続状態:低】
【使用可能弾種:魔力弾】
【装填数:1】
【残弾数:1/1】
一発。
ある。
撃てる。
今なら。
撃てる。
神器を。
地竜へ。
向ける。
照準。
頭。
胸。
脚。
どこだ。
どこを。
撃てば。
倒せる。
「…………」
分からない。
あの。
甲殻。
魔力弾なら。
抜けるのか。
分からない。
頭を。
撃てば。
死ぬのか。
胸を。
撃てば。
届くのか。
何も。
分からない。
それでも。
撃つことは。
できる。
今。
撃てば。
もしかしたら。
終わる。
でも。
もし。
終わらなかったら。
【残弾数:1/1】
これが。
ゼロになる。
ここは。
深層。
地竜を。
倒せなければ。
その後。
どうやって。
帰る。
地竜が。
動いた。
「っ!」
照準が。
外れる。
俺は。
指を。
止めた。
「……まだだ」
神器を。
下げる。
撃たない。
まだ。
撃てないんじゃない。
今は。
撃つべきじゃない。
「レン!」
セリアの。
声。
地竜が。
迫る。
神器を。
消す。
剣へ。
持ち替える。
「分かってる!」
地竜の。
突進。
横へ。
飛ぶ。
巨体が。
通り過ぎる。
「セリア!」
「うん!」
また。
同じ場所。
――ギィン!!
白い傷が。
少し。
広がる。
「残ってる!」
セリアが。
叫ぶ。
「傷!」
「消えてない!」
「ああ!」
硬い。
でも。
壊れないわけじゃない。
なら。
やることは。
ある。
俺が。
引きつける。
セリアが。
同じ場所を。
狙う。
もう一度。
もう一度。
――ギィン!!
――ガキン!!
――ギィン!!
少しずつ。
本当に。
少しずつ。
傷が。
深くなる。
でも。
地竜も。
気づいた。
セリアが。
同じ場所を。
狙っている。
身体を。
捻る。
甲殻の。
傷を。
俺たちから。
遠ざける。
前脚が。
セリアを。
遮る。
「くっ……!」
セリアが。
入れない。
「こっちだ!」
俺が。
前へ。
出る。
地竜の。
目を。
俺へ。
向ける。
剣で。
甲殻を。
叩く。
効かない。
それで。
いい。
「グルルル……!」
来る。
前脚。
避ける。
次。
噛みつき。
下がる。
尾。
「っ!」
屈む。
頭上を。
風が。
抜ける。
「今!」
セリアが。
傷へ。
走る。
だが。
地竜が。
それを。
見る。
「セリア!」
前脚が。
振り上がる。
間に合わない。
俺の。
手が。
動く。
神器。
今なら。
撃てる。
一発。
使えば。
セリアを。
助けられる。
「――っ!」
その時。
「撃つな!!」
「……!」
セリアが。
叫んだ。
地竜の。
前脚が。
落ちる。
セリアが。
地面を。
蹴る。
――バギィン!!
ほんの。
僅か。
爪が。
外れる。
セリアが。
転がる。
「セリア!」
「大丈夫!」
すぐに。
立つ。
息は。
荒い。
それでも。
剣を。
構える。
「その一発!」
「ここで」
「使わないで!」
「でも――」
「まだ!」
セリアが。
地竜を。
見る。
「どこを」
「撃てばいいか」
「分かってないでしょ!」
「…………」
その通りだ。
一発。
だからこそ。
外せない。
いや。
当てるだけじゃ。
駄目だ。
倒さなきゃ。
意味がない。
「……分かった」
俺は。
もう一度。
剣を。
握った。
その時。
――ゴウン。
「……っ」
足元を。
青白い。
光が。
走った。
地竜の。
足元へ。
そして。
その瞬間。
地竜の。
黒い甲殻。
その。
隙間を。
走る。
青白い筋が。
強く。
光った。
「…………!」
リーナが。
目を。
見開いた。
「リーナ?」
返事が。
ない。
地竜を。
見ている。
いや。
違う。
その。
身体の。
中を。
見ようと。
している。
「今……」
リーナが。
小さく。
呟く。
「何だ?」
「あの子の」
「中を……」
「魔力が」
リーナの。
目が。
地竜を。
追う。
「流れました」
「分かるのか?」
「……少しだけ」
地竜が。
動く。
青白い。
光が。
消える。
リーナが。
眉を。
寄せる。
「駄目です」
「もう」
「分かりません」
「でも」
リーナは。
地竜から。
目を。
逸らさない。
「確かに」
「見えました」
次の瞬間。
「グォォォォォォォッ!!」
地竜が。
吠えた。
広い。
空間が。
震える。
俺は。
剣を。
構える。
セリアも。
借りた剣を。
握り直す。
リーナも。
短剣へ。
手を。
かける。
俺には。
まだ。
一発。
残っている。
【残弾数:1/1】
撃てる。
それでも。
まだ。
撃たない。




