もう一度、繋ぐ
翌朝。
俺たちは。
すぐには。
ダンジョンへ。
向かわなかった。
昨日。
俺たちは。
第三層の。
さらに奥で。
【深層域】
そこへ続く。
入口を。
見つけた。
でも。
入らなかった。
あの判断は。
間違っていない。
深層域。
第三層より。
さらに。
危険な場所。
何がいるのか。
分からない。
どこまで。
続いているのかも。
分からない。
だから。
行くなら。
今。
できる準備を。
全部。
してからだ。
「水は」
「昨日より」
「多めに」
「持っていこう」
「そうだね」
セリアが。
頷く。
「食料も」
「少し」
「増やした方が」
「いいかも」
「はい」
リーナも。
荷物を。
確認している。
俺も。
腰の剣を。
確かめる。
そして。
ふと。
セリアの腰にある。
剣が。
目に入った。
ドワーフの老人から。
借りた剣。
俺の剣より。
ずっと。
いいものだ。
それでも。
借り物。
セリアのために。
作られた剣じゃない。
「セリア」
「剣は?」
「昨日」
「使ってみて」
「どうだった?」
「うーん」
セリアが。
剣を。
少しだけ。
抜く。
「やっぱり」
「前のより」
「ずっといいよ」
「第三層の魔物にも」
「ちゃんと」
「通ったし」
でも。
少しだけ。
考えて。
「ただ」
「まだ」
「私の剣って」
「感じじゃないかな」
「……そっか」
その時。
「……あの」
リーナが。
口を開いた。
「セリアさん」
「その剣」
「もう一度」
「見せてもらっても」
「いいですか?」
セリアが。
リーナを見る。
それから。
すぐに。
笑った。
「もちろん」
剣を。
鞘ごと。
リーナへ。
渡す。
リーナが。
受け取る。
そして。
ゆっくり。
剣を抜いた。
「…………」
刃に。
指を。
添える。
俺と。
セリアは。
何も言わなかった。
リーナの。
古い短剣。
あれだけは。
少しずつ。
声が。
聞こえるようになっていた。
この剣も。
昨日までとは。
何か。
違うのか。
「…………」
リーナが。
目を閉じる。
しばらく。
何も。
起きない。
それでも。
リーナは。
手を離さない。
そして。
――キィン。
「…………!」
リーナの。
指が。
僅かに。
動いた。
「リーナ?」
「……聞こえました」
小さな。
声。
でも。
はっきりと。
「本当?」
セリアが。
身を乗り出す。
「はい」
リーナが。
剣を見る。
「前より」
「ずっと」
「分かります」
ゆっくり。
指を。
滑らせる。
そして。
ある場所で。
止まった。
「ここ……」
「何かある?」
「はい」
「少しだけ」
「流れが」
「引っかかってます」
その場所。
前に。
ドワーフの老人が。
言っていた。
鍛える時にできた。
小さな。
癖。
あの時のリーナは。
何かがある。
そこまでしか。
分からなかった。
でも。
今は。
「直せそう?」
セリアが。
聞く。
リーナは。
すぐには。
答えなかった。
剣を見る。
自分の手を見る。
それから。
「……やってみます」
もう一度。
剣に。
触れる。
リーナの。
表情が。
変わった。
静かに。
集中する。
「…………」
微かな。
魔力が。
リーナの手から。
剣へ。
流れていく。
俺には。
何をしているのか。
分からない。
でも。
これは。
知っている。
何度も。
見た。
リーナの。
調律。
武器を。
強くする。
力じゃない。
武器と。
使い手。
その二つを。
繋ぐ。
今の使い手が。
扱える範囲で。
その武器の力を。
引き出せるようにする。
そして。
使い手の力が。
武器へ。
ちゃんと。
伝わるようにする。
それが。
調律。
「…………」
長い。
沈黙。
そして。
――キィン。
剣が。
微かに。
鳴った。
リーナが。
目を開ける。
「……できました」
「本当に?」
「多分……」
「多分?」
「久しぶりなので……」
セリアが。
笑う。
「じゃあ」
「試してみる」
剣を。
受け取る。
少し。
離れる。
そして。
振った。
――ヒュン。
一度。
もう一度。
――ヒュッ。
セリアの。
表情が。
変わる。
「……違う」
「どう?」
「軽い……」
「いや」
「違うな」
何度か。
剣を。
振る。
「重さは」
「変わってない」
「はい」
リーナが。
頷く。
「剣そのものが」
「強くなったわけじゃ」
「ないです」
「ただ」
「セリアさんの力が」
「ちゃんと」
「この剣に」
「伝わるように」
「整えました」
セリアが。
剣を見る。
もう一度。
振る。
――ヒュン。
さっきより。
自然に。
刃が。
走る。
「……だから」
「振りやすいんだ」
「はい」
「今の」
「セリアさんが」
「この剣を」
「使いやすいように」
「合わせました」
「……うん」
セリアが。
もう一度。
剣を。
握り直す。
「前より」
「ずっと」
「ついてくる感じがする」
それから。
少しだけ。
笑った。
「でも」
「まだ」
「私の剣って感じでは」
「ないかな」
「…………」
「ごめん」
「悪い意味じゃないよ」
「分かってます」
リーナも。
小さく。
笑う。
「この剣は」
「借り物ですから」
「うん」
セリアが。
剣を。
鞘へ戻す。
そして。
リーナを見る。
「ありがとう」
「…………」
リーナの。
口元が。
ほんの少し。
緩んだ。
「……はい」
でも。
その顔は。
まだ。
何かを。
気にしている。
リーナの。
視線が。
俺へ。
いや。
俺の。
さらに。
奥へ。
俺は。
その意味が。
分かった。
「……神器か」
「…………」
リーナが。
小さく。
頷く。
普通の武器は。
できた。
でも。
あれは。
違う。
今までだって。
ずっと。
違った。
俺は。
何も言わず。
右手を。
前へ。
魔力を。
流した。
青白い。
光。
その中から。
巨大な。
黒い神器が。
姿を現す。
金色の。
装飾。
表面を走る。
見たこともない。
文字。
そして。
【神器情報】
【使用者:レン】
【接続状態:低】
【使用可能弾種:魔力弾】
【装填数:1】
【残弾数:0/1】
ゼロ。
あの日から。
変わっていない。
リーナが。
神器を。
見つめる。
「リーナ」
「無理は」
「しなくていい」
「…………」
「セリアの剣が」
「できただけでも」
「十分――」
「レンさん」
遮られた。
リーナが。
俺を見る。
少し。
怖そうな。
顔。
それでも。
目は。
逸らさなかった。
「神器も」
「やらせてください」
「…………」
「大丈夫か?」
「分かりません」
正直な。
答えだった。
「でも」
リーナが。
自分の手を。
見る。
「やりたいです」
「…………」
「無理は」
「しません」
その言葉に。
俺は。
少しだけ。
驚いた。
前なら。
できるまで。
やります。
そんなことを。
言っていたかもしれない。
自分が。
壊れても。
繋ごうと。
したかもしれない。
でも。
今は。
「分かった」
俺は。
神器を。
構え直した。
「無理だと思ったら」
「すぐやめるぞ」
「はい」
リーナが。
神器へ。
近づく。
そして。
そっと。
手を。
置いた。
「…………」
俺も。
覚えている。
王都で。
この手が。
神器に。
触れていた。
「レンさん」
「はい」
「魔力を」
「流してください」
「分かった」
ゆっくり。
神器へ。
魔力を。
流す。
「…………」
リーナが。
目を閉じる。
少しずつ。
少しずつ。
「……あれ」
「どうした?」
「前と」
「少し」
「違います」
「違う?」
「はい」
リーナが。
神器から。
手を離さないまま。
「レンさんの」
「魔力が」
「前より」
「安定してます」
「俺の?」
「はい」
言われても。
自分じゃ。
分からない。
ただ。
アルトへ来てから。
神器を。
使えない分。
剣を。
振った。
戦った。
魔力だって。
何度も。
使った。
少しは。
俺も。
前へ。
進んでいるのかもしれない。
「そのまま」
「お願いします」
「ああ」
リーナの。
魔力が。
俺の魔力へ。
重なる。
そして。
神器の。
奥へ。
「…………」
長い。
沈黙。
「少し」
「弱くしてください」
「分かった」
魔力を。
落とす。
「もう少し……」
さらに。
少し。
「そこで」
「止めてください」
維持する。
リーナの。
指が。
僅かに。
動いた。
――キィン。
「……一つ」
その声。
聞き覚えが。
あった。
王都で。
何度も。
聞いた。
「繋がったのか?」
「はい」
リーナが。
小さく。
頷く。
「次」
「いきます」
「ああ」
再び。
魔力を。
流す。
一つ。
また。
一つ。
焦らない。
あの時とは。
違う。
敵は。
いない。
誰かが。
時間を。
稼いでいるわけでもない。
リーナの。
鼻から。
血が出ることも。
手が。
震えることも。
ない。
少し疲れれば。
止める。
水を。
飲む。
休む。
そして。
また。
始める。
そうやって。
一つずつ。
――キィン。
「……繋がりました」
また。
一つ。
しばらくして。
「次は」
「少し」
「強くしてください」
俺は。
魔力を。
強める。
「はい」
「そのままです」
――キィン。
さらに。
奥へ。
また。
「レンさん」
「次は――」
その声で。
何となく。
分かった。
さっきと。
同じ。
少し。
強める。
「……これくらいか?」
「…………」
リーナが。
目を。
開いた。
「違ったか?」
「いえ」
少しだけ。
笑った。
「それで」
「合ってます」
「そっか」
俺には。
神器の中なんて。
分からない。
何が。
繋がっているのかも。
どこが。
切れているのかも。
何一つ。
分からない。
でも。
リーナが。
何を求めているのか。
それだけは。
前より。
少し。
分かる。
「続けます」
「ああ」
そして。
さらに。
奥へ。
リーナの。
表情が。
少しずつ。
険しくなる。
「…………」
「どうした?」
「ここからです」
「ここから?」
「前に」
一度。
息を。
吸う。
「私が」
「繋いだ」
「深いところです」
王都で。
リーナが。
限界を。
超えて。
繋いだ場所。
「いけそうか?」
「…………」
リーナは。
すぐには。
答えなかった。
でも。
手を。
離さない。
「やってみます」
魔力を。
重ねる。
ゆっくり。
奥へ。
奥へ。
「…………」
俺には。
何も。
見えない。
ただ。
神器を。
支える。
魔力を。
流す。
それだけ。
「少し」
「弱くしてください」
弱める。
「そのまま……」
リーナが。
探す。
「…………」
長い。
沈黙。
その時。
――キィン。
今までとは。
少し。
違う音。
リーナの。
肩が。
僅かに。
動いた。
「……今」
「どうした?」
「光りました」
「光?」
「はい」
リーナが。
目を閉じたまま。
「ほんの」
「少しだけ」
「奥で」
「神器が」
「光って」
一度。
言葉を。
止める。
「……教えて」
「くれました」
俺には。
何も。
見えなかった。
でも。
リーナには。
見えた。
あの日と。
同じように。
神器が。
道を。
ただ。
「…………」
リーナが。
小さく。
息を。
吐く。
「前とは」
「違います」
「何が?」
「前は」
「もっと」
「はっきり」
「教えてくれました」
「今回は?」
「少しだけです」
それじゃ。
駄目なのか。
そう。
思った。
でも。
リーナは。
神器から。
手を。
離さなかった。
「でも」
その声は。
さっきより。
少しだけ。
強かった。
「大丈夫です」
「分かります」
「今ので」
「十分です」
そして。
リーナの。
魔力が。
動いた。
神器が。
示した。
ほんの。
僅かな。
光。
その先を。
今度は。
リーナ自身が。
探していく。
――キィン。
一つ。
――キィン。
また。
一つ。
「少し」
「強くしてください」
強める。
「はい」
――キィン。
「そのまま」
維持する。
リーナの。
呼吸は。
乱れていない。
手も。
震えていない。
それでも。
額には。
汗が。
滲んでいる。
簡単じゃない。
でも。
前とは。
違う。
「レンさん」
「なんだ?」
「次」
「少しだけ」
「弱く――」
言われる前に。
少し。
落とした。
「…………」
「これくらいか?」
リーナが。
ほんの少し。
笑った。
「はい」
「それで」
「大丈夫です」
そして。
最後。
リーナの。
魔力が。
神器の奥へ。
届く。
「…………」
静かだった。
誰も。
何も。
言わない。
俺も。
セリアも。
ただ。
待った。
やがて。
リーナが。
小さく。
呟いた。
「……見つけた」
次の瞬間。
――キィィィン!!
神器の。
内部を。
青白い。
光が。
一気に。
走った。
「……っ」
俺の腕にも。
その振動が。
伝わる。
そして。
目の前に。
文字が。
浮かんだ。
【外部経路からの接続を確認】
【接続深度――上昇】
【第一術式・魔力弾】
【再装填可能】
「…………」
リーナが。
ゆっくり。
神器から。
手を離した。
倒れない。
膝も。
つかない。
ちゃんと。
そこに。
立っている。
「リーナ」
「…………」
「できたな」
リーナが。
表示を見る。
それから。
自分の手を見る。
「……はい」
小さく。
でも。
はっきりと。
「繋がりました」
その言葉を。
また。
聞けた。
俺は。
神器を見る。
まだ。
終わってない。
【残弾数:0/1】
リーナが。
繋いでくれた。
なら。
ここからは。
俺の仕事だ。
「じゃあ」
神器を。
握り直す。
「今度は」
「俺の番だな」
「はい」
リーナが。
一歩。
下がる。
俺は。
魔力を。
神器へ。
流した。
さっきまでとは。
違う。
今度は。
弾を。
作るために。
魔力を。
集める。
神器の中で。
少しずつ。
形に。
していく。
繋がっている。
リーナが。
繋いだ。
道。
そこを。
俺の魔力が。
通っていく。
そして。
――キィン。
【第一術式・魔力弾】
【魔力弾生成完了】
【残弾数:1/1】
「…………」
一発。
たった。
一発。
でも。
ゼロじゃない。
あの日から。
ずっと。
空だった。
そこに。
もう一度。
一発が。
入った。
「リーナ」
「…………はい」
リーナは。
表示を。
見つめていた。
その目が。
少しだけ。
潤んでいる。
でも。
泣かなかった。
ただ。
自分の手を。
見つめる。
「……私」
小さな。
声。
「また」
「繋げました」
「ああ」
セリアも。
隣で。
笑う。
「ちゃんと」
「戻ってきたね」
「…………」
リーナが。
少し。
黙った。
そして。
首を。
横に振った。
「……違います」
「え?」
「前と」
「同じじゃ」
「ないです」
リーナが。
神器を見る。
「前より」
「少しだけ」
「分かるように」
「なりました」
「…………」
「前は」
「最後まで」
「教えてもらわないと」
「分からなかった」
「でも」
「今日は」
自分の。
手を。
ぎゅっと。
握る。
「少しだけで」
「分かりました」
そう言って。
リーナが。
笑った。
小さな。
笑顔。
でも。
アルトへ来てから。
一番。
自信のある。
笑顔だった。
「私」
「前より」
「少しだけ」
「強くなれました」
「……そっか」
だったら。
言うことは。
一つだ。
「これからも」
「頼りにしてる」
「…………はい!」
その返事は。
今までより。
少しだけ。
大きかった。
セリアの腰には。
調律された。
借り物の剣。
リーナには。
戻ってきた。
調律。
そして。
俺の手には。
一発だけ。
撃てる。
神器。
【残弾数:1/1】
これで。
全部じゃない。
完璧でも。
ない。
それでも。
昨日とは。
違う。
今の俺たちに。
できる準備は。
できた。
なら。
次は。
あの先へ。
【深層域】
俺たちは。
今度こそ。
そこへ。
足を。
踏み入れる。




