深層への入口
翌日。
俺たちは。
再び。
ダンジョンへ。
入った。
第一層域。
第二層域。
そして。
第三層域。
ここまで来ることにも。
もう。
前ほどの。
時間は。
かからなくなっていた。
道を。
覚えた。
魔物が。
出やすい場所も。
休める場所も。
どこまで進めば。
どれくらい。
体力を使うのかも。
少しずつ。
分かるように。
なってきた。
「この先だね」
セリアが。
前を見る。
「ああ」
昨日。
俺たちが。
引き返した場所。
その先。
まだ。
地図にも。
ほとんど。
何も書かれていない場所。
――ゴウン。
「…………」
今日も。
聞こえる。
低い音。
そして。
僅かに。
足元が。
震える。
「やっぱり」
「聞こえますね」
リーナが。
壁へ。
目を向ける。
昨日と。
同じだ。
魔物が。
出している音には。
聞こえない。
一定の。
間隔。
まるで。
何かが。
動いているような。
「行くぞ」
「うん」
「はい」
俺たちは。
先へ。
進んだ。
昨日。
引き返した場所を。
越える。
最初は。
これまでと。
それほど。
変わらなかった。
人工的な。
石の壁。
その隙間から。
突き出した。
自然の岩。
崩れた。
柱。
けれど。
進むほど。
少しずつ。
岩が。
減っていった。
「……レン」
「ああ」
セリアも。
気づいたらしい。
壁。
床。
天井。
どれも。
形が。
整いすぎている。
床は。
どこまでも。
平ら。
壁は。
左右。
ほとんど。
同じ高さ。
一定の。
間隔で。
巨大な柱が。
並んでいる。
洞窟じゃない。
少なくとも。
自然に。
できた場所じゃない。
「やっぱり」
「誰かが」
「作った場所だよね」
「だろうな」
でも。
誰が。
何のために。
こんな。
地下深くに。
これほど。
巨大な場所を。
作ったのか。
分からない。
壁には。
見たことのない。
模様が。
刻まれている。
文字。
なのか?
それすら。
分からない。
「これ」
リーナが。
立ち止まった。
壁を。
見ている。
細い。
溝のようなものが。
何本も。
壁の奥へ。
続いている。
「昨日の場所にも」
「ありました」
「これが?」
「はい」
リーナが。
手を伸ばす。
でも。
触れる。
その直前。
――ゴウン。
「っ」
足元が。
僅かに。
震えた。
その時。
――スゥ……。
「……え?」
セリアが。
声を漏らした。
壁に。
刻まれていた。
細い溝。
その一部を。
青白い光が。
走った。
ほんの。
一瞬。
すぐに。
消える。
「今の……」
「見た」
俺も。
確かに。
見た。
「光ったよね?」
「ああ」
三人で。
壁を見る。
でも。
もう。
何もない。
ただの。
古い石壁。
「…………」
リーナが。
今度こそ。
壁へ。
手を触れた。
目を。
閉じる。
「どうだ?」
「…………」
返事は。
ない。
しばらくして。
リーナが。
目を開いた。
「……分かりません」
「何も?」
「いえ」
リーナが。
首を。
横に振る。
「少しだけ」
もう一度。
壁を見る。
「魔力……」
「魔力?」
「たぶん」
リーナの。
指先が。
壁の溝を。
ゆっくり。
なぞる。
「流れてます」
「この壁を?」
「壁というより……」
リーナが。
言葉を。
探している。
「この」
「奥を……」
「…………」
俺も。
壁へ。
手を当ててみる。
何も。
分からない。
ただの。
冷たい石だ。
セリアも。
同じらしい。
「私には」
「分からないな」
「私も」
「はっきりとは」
「分かりません」
リーナが。
溝の先を見る。
「でも」
「こっちから」
指を。
動かす。
そして。
通路の奥を。
指した。
「向こうへ」
「流れてる気がします」
向こう。
俺たちが。
進もうとしていた方向。
「行ってみるか」
「うん」
リーナも。
頷いた。
俺たちは。
再び。
歩き出した。
――ゴウン。
また。
音。
今度は。
さっきより。
少しだけ。
大きく聞こえた。
気のせいかも。
しれない。
それでも。
壁を。
見ていると。
――スゥ……。
やっぱり。
青白い光が。
奥へ向かって。
走っていく。
「……動いてる」
セリアが。
呟いた。
「何が?」
「分からないけど」
セリアが。
周りを見る。
「この場所」
「本当に」
「まだ動いてるんじゃない?」
昨日。
老人が。
言っていた。
――アルトの底は。
――死んでねえ。
その言葉が。
頭に。
浮かんだ。
何百年。
いや。
もしかしたら。
それ以上。
ここが。
どれくらい。
古い場所なのか。
俺には。
分からない。
でも。
もし。
本当に。
今も。
何かが。
動いているのなら。
「……何なんだ」
「ここ」
誰も。
答えられなかった。
そのまま。
さらに。
進む。
途中。
広い場所へ。
出た。
天井が。
高い。
壁際には。
崩れた。
石の塊。
その中に。
何か。
黒いものが。
混じっている。
金属。
なのか?
形も。
用途も。
分からない。
大きな。
台座のようなものも。
いくつか。
残っていた。
でも。
その上には。
何もない。
「何かを」
「置いてたのかな?」
セリアが。
近づく。
「分からない」
俺も。
見てみる。
大きすぎる。
人が。
椅子みたいに。
使うものじゃない。
荷物を。
置くため?
何かを。
作るため?
それとも。
全く。
別のもの。
分からない。
ただ。
一つだけ。
はっきりしている。
ここは。
ただの。
地下迷宮じゃない。
誰かが。
何かのために。
使っていた場所だ。
「レンさん」
リーナが。
呼ぶ。
「どうした?」
「こっちです」
広間の。
反対側。
そこにも。
通路がある。
壁の溝は。
そちらへ。
続いていた。
「魔力も?」
「はい」
俺たちは。
その通路へ。
入った。
少し。
歩いたところで。
――グルルッ。
「っ!」
前から。
魔物。
岩のような。
皮膚を持つ。
第三層域で。
何度も。
戦った。
あの。
熊のような魔物。
「一体」
セリアが。
剣を抜く。
昨日。
老人から。
借りた剣。
「俺が前に出る」
「うん」
魔物が。
こちらへ。
走る。
俺も。
剣を抜く。
倒そうと。
しなくていい。
こいつの。
動きを。
止める。
「こい!」
魔物の。
腕が。
振り下ろされる。
一歩。
横へ。
避ける。
そのまま。
剣を。
腕へ。
――ガキンッ!
硬い。
でも。
それでいい。
魔物の。
意識が。
俺へ。
向く。
「セリア!」
「うん!」
横から。
セリアが。
踏み込む。
借りた剣が。
振られる。
――ザンッ!
「っ!」
深い。
今までの。
剣より。
明らかに。
深く。
刃が。
入った。
魔物が。
大きく。
体勢を。
崩す。
セリア自身も。
一瞬。
驚いたように。
剣を見る。
でも。
止まらない。
もう一歩。
踏み込む。
狙うのは。
首。
硬い皮膚の。
僅かな。
隙間。
――ザシュッ!
魔物が。
倒れた。
「…………」
静かに。
なる。
セリアが。
剣を見る。
「すごい……」
刃には。
欠け一つ。
ない。
「そんなに違うのか?」
「うん」
セリアが。
軽く。
剣を握り直す。
「前の剣より」
「ずっと」
「ついてきてくれる」
それから。
少しだけ。
笑う。
「借り物だけどね」
「返せって」
「言われてたしな」
「壊さないように」
「頑張らないと」
「努力じゃねえって」
「言われるぞ」
「……それもそうだね」
セリアが。
苦笑した。
その横で。
リーナが。
剣を。
見ている。
昨日。
ほんの少しだけ。
何かを。
感じた剣。
でも。
今は。
何も。
言わなかった。
俺たちは。
先へ。
進んだ。
それから。
何度か。
休憩を。
挟んだ。
水を。
飲む。
残りを。
確認する。
帰りに。
必要な分も。
考える。
以前なら。
まだ行ける。
そう思ったかもしれない。
でも。
今は。
違う。
行けることと。
帰れることは。
別だ。
それを。
俺たちは。
知っている。
そして。
さらに。
奥へ。
進んだ時だった。
「……何だ」
道が。
変わった。
目の前に。
広がっているのは。
階段。
ではない。
巨大な。
下り坂。
石で。
作られた。
長い。
傾斜。
その幅は。
何人もの人間が。
横に並んでも。
まだ。
余る。
天井も。
高い。
人間が。
使うには。
大きすぎる。
そして。
その先は。
暗い。
光が。
届かない。
「……地図」
セリアに。
言われて。
俺は。
地図を。
広げた。
今いる場所を。
確認する。
第三層域。
ここまでは。
僅かに。
線が。
残っている。
でも。
その先。
目の前の。
下り道から。
先は。
「……ない」
「何が?」
「地図が」
そこから。
先には。
何も。
書かれていない。
ただ。
空白。
「…………」
三人で。
暗闇を見る。
その時。
リーナが。
何かを。
見つけた。
「あれ」
入口の。
壁。
古代の。
模様とは。
違う。
新しい。
傷。
誰かが。
後から。
刻んだもの。
俺たちにも。
分かる。
冒険者ギルドで。
地図と一緒に。
教えられた。
印。
危険な。
区域を。
示す。
印。
そして。
その下に。
短く。
刻まれている。
【深層域】
「…………」
セリアが。
息を。
吐いた。
「ここから……」
「ああ」
ついに。
見つけた。
深層域。
第三層域の。
その先。
俺たちが。
まだ。
一度も。
足を。
踏み入れていない場所。
セリアが。
暗闇を見る。
リーナも。
同じだ。
俺も。
見た。
行ってみたい。
何があるのか。
確かめたい。
でも。
水。
食料。
ここまで。
来るために。
使った時間。
帰るために。
必要な体力。
全部。
考える。
「今日は」
俺は。
言った。
「入らない」
「うん」
セリアは。
すぐに。
頷いた。
「深層に入るなら」
「ちゃんと」
「準備してから」
「私も」
「そう思います」
リーナも。
頷く。
それでいい。
今日は。
ここを。
見つけた。
それだけでも。
十分だ。
「戻るぞ」
そう言って。
俺たちは。
背を向ける。
その時。
――ゴウン。
「…………」
足が。
止まった。
今までより。
はっきり。
聞こえた。
下から。
深層域の。
暗闇の。
さらに。
奥から。
響いてくる。
ような。
気がした。
「……レンさん」
リーナが。
入口の。
壁に。
触れている。
「どうした?」
目を。
閉じる。
少しして。
開いた。
そして。
暗闇を。
見る。
「魔力が」
「……ああ」
「この下から」
リーナが。
小さく。
息を。
呑んだ。
「来てます」
「…………」
深層域。
その先に。
何が。
あるのか。
まだ。
分からない。
でも。
あの音も。
壁を。
流れる。
魔力も。
この下へ。
続いている。
俺は。
地図の。
何も。
書かれていない。
空白を見る。
次に。
進む場所が。
決まった。
深層域。
次は。
あそこへ。
俺たちは。
足を。
踏み入れる。




