届かない場所
暗闇から。
それが。
姿を現す。
大きい。
さっきまで。
戦っていた。
熊型の魔物より。
さらに。
二回りは。
大きい。
太い。
四本の足。
地面に。
つきそうなほど。
長い腕。
身体を覆う。
黒い。
硬そうな皮膚。
そして。
二本の。
大きな牙。
――グルルルルル。
低い声が。
石の通路に。
響く。
「……でかすぎない?」
セリアが。
剣を構える。
「戦わない」
俺は。
すぐに。
答えた。
「逃げるぞ」
「うん」
リーナを。
先に。
俺とセリアが。
その後ろへ。
ゆっくり。
距離を取る。
魔物が。
俺たちを。
見る。
来るな。
そのまま。
そこに。
いろ。
――ズンッ!
地面が。
揺れた。
「来る!」
魔物が。
走り出した。
速い。
「リーナ!」
「走れ!」
「はい!」
三人で。
来た道を。
走る。
――ズンッ!
――ズンッ!
後ろから。
地面を。
叩く音。
近い。
速すぎる。
「このままじゃ」
「追いつかれる!」
セリアが。
振り返る。
「止める!」
「待て!」
「少しだけ!」
セリアが。
地面を。
蹴った。
魔物へ。
向かう。
振り下ろされる。
巨大な腕。
セリアが。
横へ。
かわす。
そのまま。
踏み込む。
――ガキィンッ!!
剣が。
弾かれた。
「っ……!」
セリアの。
身体が。
後ろへ。
飛ぶ。
「セリア!」
地面を。
転がる。
それでも。
すぐに。
立ち上がる。
「大丈夫!」
魔物を見る。
傷。
入っている。
でも。
浅い。
さっきまでの。
魔物とは。
違う。
「リーナ!」
「下がってろ!」
俺も。
前へ。
出る。
セリアだけに。
任せられない。
魔物の。
腕が。
横から。
飛んでくる。
避ける。
――ブンッ!
風が。
顔を。
叩く。
近い。
俺は。
懐へ。
入る。
剣を。
振る。
――ガッ!
「っ!」
手が。
痺れる。
刃が。
ほとんど。
入らない。
魔物が。
俺を見る。
まずい。
「レン!」
セリアの。
声。
横へ。
飛ぶ。
直後。
――ズドンッ!
さっきまで。
俺がいた。
床が。
砕けた。
石が。
腕に。
当たる。
「ぐっ……!」
痛い。
見る。
腕が。
切れている。
血が。
流れる。
でも。
動く。
「レンさん!」
「大丈夫!」
俺は。
魔物を見る。
硬い。
速い。
力も。
強い。
剣じゃ。
無理だ。
だったら。
頭に。
一つの。
武器が。
浮かんだ。
神器。
あれなら。
こいつを。
倒せるかもしれない。
俺は。
手を。
伸ばす。
呼ぶ。
――キィン。
光が。
集まる。
巨大な。
黒い神器。
金色の。
装飾。
表面を。
青白い光が。
走る。
神銃を。
肩に。
担ぐ。
魔物へ。
向ける。
そして。
表示された。
【神器情報】
【使用者:レン】
【接続状態:低】
【使用可能弾種:魔力弾】
【装填数:1】
【残弾数:0/1】
分かっていた。
分かって。
いたのに。
「……くそ」
撃てない。
こいつを。
倒せるかもしれない。
力を。
持っているのに。
今の俺には。
撃てない。
――グオオオオオッ!
魔物が。
吠える。
「レン!」
セリアが。
横から。
斬りつける。
――ガキンッ!
また。
弾かれる。
「リーナ!」
俺は。
叫ぶ。
振り返る。
リーナが。
神銃を。
見ている。
「……」
その顔で。
分かった。
それでも。
リーナが。
走ってくる。
「触ります!」
「リーナ?」
「もしかしたら……!」
神器へ。
両手を。
触れる。
目を。
閉じる。
「……」
一秒。
二秒。
「……聞こえない」
リーナの。
指が。
震える。
「何も……」
もう一度。
神器へ。
触れる。
「お願い……」
目を。
閉じる。
「少しだけでも……」
「リーナ!」
魔物が。
こっちを。
向いた。
俺は。
神器を。
消す。
「えっ……」
「下がってろ!」
剣を。
抜く。
「でも!」
「いいから!」
魔物が。
走る。
俺は。
前へ。
出る。
「レンさん!」
違う。
今は。
撃つことじゃない。
こいつを。
倒すことでもない。
帰る。
三人で。
生きて。
帰る。
「セリア!」
「分かってる!」
セリアが。
反対側へ。
走る。
魔物の。
視線が。
動く。
「こっち!」
セリアが。
壁際へ。
誘う。
魔物が。
追う。
腕を。
振り上げる。
「今!」
セリアが。
飛び退く。
――ズドォンッ!!
巨大な腕が。
石の壁へ。
叩き込まれた。
壁が。
砕ける。
石が。
崩れる。
魔物が。
一瞬。
止まった。
「走れ!」
俺たちは。
走った。
リーナを。
真ん中に。
俺と。
セリアが。
後ろを。
確認しながら。
走る。
――グオオオオオッ!
後ろから。
咆哮。
来る。
まだ。
追ってくる。
「しつこい!」
セリアが。
振り返る。
「止まるな!」
「でも!」
「走れ!」
角を。
曲がる。
通路。
さっき。
通った。
道。
その先。
狭い。
「セリア!」
「あそこ!」
「分かってる!」
三人で。
狭い通路へ。
飛び込む。
――ズドンッ!!
背後で。
大きな。
音。
振り返る。
魔物の。
巨大な身体が。
入口に。
ぶつかっている。
入れない。
――グオオオオッ!
腕だけが。
こちらへ。
伸びる。
届かない。
「……走るぞ」
まだ。
止まらない。
安全だなんて。
分からない。
俺たちは。
走った。
◇
どれくらい。
走ったのか。
分からない。
気づけば。
あの。
咆哮も。
地面を。
叩く音も。
聞こえなくなっていた。
「……ここまで」
「来れば……」
セリアが。
壁に。
手をつく。
「大丈夫……かな」
「多分……」
俺も。
息が。
切れている。
腕から。
まだ。
血が。
流れている。
「レンさん」
リーナが。
俺の腕を。
見る。
「血が……」
「これくらい」
「大丈夫」
「でも……」
「本当に」
「大丈夫だから」
セリアも。
その場に。
座り込む。
剣を見る。
刃。
また。
欠けている。
さっきより。
大きい。
「……また」
「やっちゃったな」
セリアが。
苦笑する。
「ごめん」
俺が言う。
「なんで」
「レンが謝るの?」
「いや」
「なんとなく」
「変なの」
セリアが。
笑う。
その横で。
リーナが。
黙っている。
「リーナ?」
「……」
返事が。
ない。
リーナは。
俺の。
傷を。
見ている。
それから。
セリアの。
剣。
傷だらけの。
剣。
自分の。
手。
順番に。
見ている。
「……私」
小さな。
声。
「どうした?」
「……何でも」
「ないです」
リーナが。
首を振る。
「戻りましょう」
笑おうと。
している。
でも。
笑えて。
いなかった。
俺は。
それ以上。
聞けなかった。
◇
その日は。
もう。
奥へは。
進まなかった。
来た道を。
戻る。
第三層域。
第二層域。
第一層域。
帰り道でも。
魔物は。
出た。
疲れた。
身体で。
剣を。
振る。
行きより。
ずっと。
辛かった。
ギルドの。
受付で。
言われた。
言葉。
一体の魔物を。
倒せることと。
そこまで潜って。
また。
生きて帰ってくることは。
全く違う。
今なら。
分かる。
俺たちは。
何とか。
石門を。
出た。
外は。
まだ。
明るかった。
街の。
音。
鍛冶場から。
聞こえる。
金属を。
叩く音。
人の。
声。
全部が。
少しだけ。
遠く。
感じた。
俺は。
振り返る。
山の中へ。
続く。
巨大な。
石門。
あの先に。
まだ。
第三層域が。
続いている。
その先に。
深層域。
俺たちは。
そこへ。
行くつもりだった。
でも。
今日。
分かった。
今の。
俺たちじゃ。
深層どころか。
その手前にすら。
届かない。




