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転生したら最強ジョブだが最凶だった件 ~伝説の【神銃士】になったのに、一発も撃てない~  作者: 蝶野摩矢
最凶の神器編

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3/68

武器と使い手を繋ぐ者

武器を。


一から知る。


そう決めた翌日。


俺は。


街の鍛冶屋を訪れた。


「いらっしゃ――」


店の奥から。


低い声が聞こえた。


そして。


俺の顔を見るなり。


声の主は止まった。


「……なんだ。お前か」


「なんだって何ですか」


「神銃士様が、うちみたいな普通の鍛冶屋に何の用だ?」


「その呼び方やめてください」


「じゃあ、役立たずの神銃士」


「もっと悪くなってます」


男は。


ガハハと笑った。


ガルド。


この街で。


長く鍛冶屋をやっている男だ。


父さんと同じくらいの年齢らしいが。


太い腕。


大きな身体。


伸びた髭。


どう見ても。


父さんより十歳くらい上に見える。


子供の頃から。


何度も会ったことがある。


昔。


木の剣を折って。


泣きながら持ってきた時。


「木は鍛冶屋じゃ直せねえ」


と言いながら。


結局。


新しいものを作ってくれた。


そんな人だ。


「それで?」


ガルドは。


手に持っていた金槌を置いた。


「何の用だ」


「武器を教えてください」


「……は?」


「だから」


俺は。


もう一度言った。


「武器のことを、教えてほしいんです」


ガルドは。


しばらく。


俺の顔を見ていた。


「剣でも買うのか?」


「違います」


「槍?」


「違います」


「弓?」


「それも違います」


「じゃあ何だ」


「全部です」


「帰れ」


「なんで!?」


◇


結局。


追い出されはしなかった。


「いいか」


ガルドが。


一本の剣を。


作業台の上に置いた。


「武器ってのはな」


「はい」


「何でも同じじゃねえ」


剣を持ち上げる。


「こいつは斬る」


次に。


槍。


「こいつは突く」


そして。


壁に掛かっていた弓。


「こいつは矢を飛ばす」


「それくらいは分かります」


「なら帰れ」


「最後まで聞きます」


「……面倒くせえ奴になったな、お前」


そう言いながら。


ガルドは。


少しだけ笑っていた。


「じゃあ聞くぞ」


剣を。


俺の前に置く。


「なんで剣は斬れる?」


「え?」


「答えろ」


「刃があるから」


「それだけか?」


「……力を込めるから?」


「それもある」


ガルドは。


剣の刃を指でなぞった。


「刃の形」


「重さ」


「重心」


「硬さ」


「使ってる素材」


「握る奴の力」


「振り方」


一つずつ。


指を折る。


「全部合わさって、初めて武器になる」


「……」


「槍も同じだ」


槍を持つ。


「長さが変われば」


「間合いが変わる」


「重心が変われば」


「扱い方も変わる」


今度は。


弓を手に取った。


「弓なら」


弦を軽く引く。


「弓そのものだけじゃ」


「敵は倒せねえ」


「……矢」


「そうだ」


弦を離す。


ビンッ。


乾いた音が。


店の中に響いた。


「武器には」


「それぞれ仕組みがある」


「どうやって力を生んで」


「どうやって相手に届かせるのか」


「それが分からなきゃ」


ガルドは。


俺を見た。


「使いこなせるわけがねえ」


「……」


その言葉が。


妙に。


胸に残った。


俺は。


今まで。


何をしていた?


神器を出して。


構えて。


引き金を引いて。


撃て。


撃て。


撃て。


そればかり。


「……ガルドさん」


「ん?」


「俺の神器」


「見てもらえますか?」


ガルドの顔から。


笑みが消えた。


◇


店の裏。


広めの作業場へ移動した。


「ここならいい」


「分かりました」


右手を前に出す。


「……来い」


青白い光が集まる。


空間が。


わずかに歪む。


――ズンッ。


神器が現れた。


「……」


ガルドが。


黙った。


黒い本体。


金色の装飾。


青白く光る紋様。


大きく開いた先端。


何度見ても。


普通の武器とは。


明らかに違う。


「これが……」


ガルドが。


ゆっくり近づく。


「お前の神器か」


「はい」


「近くで見るのは初めてだ」


手を伸ばしかけて。


止める。


「触っていいのか?」


「たぶん」


「たぶんで言うな」


「俺も分からないんですよ」


「……本当に何も知らねえんだな」


「だから来たんです」


「なるほどな」


ガルドは。


慎重に。


神器の外側に触れた。


何も起きない。


青白い光も。


変化しない。


「……普通に触れはするのか」


「みたいですね」


ガルドは。


神器を。


いろいろな角度から観察した。


先端の穴。


持ち手。


指をかける部分。


装飾。


本体の継ぎ目らしき場所。


「分からん」


早かった。


「もうちょっと見てくださいよ」


「見ても分からんもんは分からん」


「鍛冶屋でしょ?」


「神器を作った覚えはねえ」


「それはそうですけど」


ガルドは。


先端の穴を覗こうとして。


俺が慌てて。


神器の向きを変えた。


「危ないですよ」


「撃てねえんだろ?」


「それでも銃口の前に立たないでください」


「じゅうこう?」


「あ」


「なんだそれ」


「……この穴のことです」


先端を指す。


「前の世界では、そう呼んでました」


「前の世界?」


「……いや」


そうだった。


俺は。


この世界では。


転生者だと。


誰にも話していない。


「なんでもないです」


「変な奴だな」


ガルドは。


怪訝そうな顔をしたが。


それ以上は聞かなかった。


俺は。


神器を見る。


やっぱり。


似ている。


いや。


似ているどころじゃない。


形だけを考えれば。


明らかに。


銃だ。


前の人生で。


実物を触ったことはない。


詳しい構造も知らない。


でも。


映画。


テレビ。


ゲーム。


何度も見た。


人が構え。


狙い。


引き金を引く。


そして。


何かを。


撃ち出す。


「……ガルドさん」


「なんだ」


「弓って」


「矢がなかったら、どうなります?」


「は?」


「弦を引いて、離すだけ」


「何も飛ばねえよ」


「ですよね」


当たり前だ。


弓は。


矢を飛ばす。


なら。


こいつは?


俺は。


神器を見る。


前の世界で。


何度も見た。


銃という武器。


でも。


俺が知っているのは。


映画。


テレビ。


ゲーム。


その程度だ。


本物の銃を。


触ったことすらない。


まして。


これは。


前の世界の武器じゃない。


神器だ。


同じ仕組みだと。


決めつけることは。


できない。


それでも。


一つだけ。


分かることがある。


「……何かを撃ち出す武器」


「何?」


「たぶん」


俺は。


先端の穴を見る。


「こいつは」


「ここから」


「何かを撃ち出す神器なんだと思います」


「そんなことは」


「俺でも知ってるぞ」


「……ですよね」


神銃士。


遠くの敵を。


一撃で穿つ。


そのくらいの伝承は。


この世界にも残っている。


問題は。


その先だ。


「何を」


「どうやって撃ち出すのか」


「それが」


「分からないんです」


ガルドは。


少し考えてから。


神器を見た。


「だったら」


「はい」


「中を見ればいい」


「……中?」


「普通の武器ならな」


ガルドが。


作業台の上にある剣を指した。


「壊れりゃ直す」


「歪めば戻す」


「必要なら一度バラして」


「原因を探す」


俺は。


神器を見る。


「これも……?」


「やめとけ」


即答だった。


「どっちですか」


「普通の武器ならって言っただろ」


ガルドは。


神器の青白い紋様を見た。


「こいつは神器だ」


「下手に触って壊したら」


「俺は責任取れん」


「……ですよね」


そもそも。


分解できるのかすら。


分からない。


「でも」


ガルドが言った。


「考え方は間違ってねえ」


「え?」


「撃てねえなら」


「撃てねえ理由がある」


「魔力なのか」


「使い方なのか」


「それとも」


神器を見る。


「こいつの中に」


「何か足りねえのか」


何か。


足りない。


その言葉が。


引っかかった。


◇


それから。


俺は。


何日も鍛冶屋へ通った。


剣の手入れ。


槍の構造。


弓の仕組み。


武器が。


どうやって作られるのか。


どうして壊れるのか。


どうして。


同じ剣でも。


使いやすいものと。


使いにくいものがあるのか。


知らないことばかりだった。


ある日。


ガルドが。


一本の剣を。


俺の前に置いた。


「レン」


「はい」


「もし」


「自分のレベルより」


「遥かに強い武器を手に入れたら」


「どうする?」


「使います」


「使えなかったら?」


「……レベルを上げる?」


「普通はそうだ」


ガルドは。


剣を持ち上げた。


「だが」


「もう一つ方法がある」


「もう一つ?」


「調律だ」


「……調律?」


聞いたことのない言葉だった。


「チューニングとも呼ばれてる」


ガルドは。


剣を俺に渡した。


「強すぎる武器ってのは」


「使い手のレベルが足りなきゃ」


「まともに力を引き出せねえことがある」


「そういう武器を」


「今の使い手に合わせる」


「つまり……」


「今のレベルでも使えるようにするってことですか?」


「そうだ」


ガルドは。


頷いた。


「武器そのものを」


「弱くするわけじゃねえ」


「使い手が扱える範囲で」


「その武器の力を引き出せるようにする」


「それだけじゃない」


「使い手の力が」


「武器へちゃんと伝わるようにも整える」


ガルドは。


俺が持つ剣を指した。


「武器と使い手」


「その二つを」


「繋ぐんだ」


「……繋ぐ」


「ああ」


「それが調律」


ガルドは。


続けた。


「それができるのが」


「調律師ってジョブだ」


調律師。


チューニングによって。


武器と使い手を繋ぐジョブ。


俺は。


その言葉を。


頭の中で繰り返した。


調律師。


武器の力を。


使い手に合わせる。


武器と。


使い手を繋ぐ。


そして。


俺は。


自分の右手を見た。


「……ガルドさん」


「なんだ」


「俺の神器は?」


「何?」


「神器も」


「調律できるんですか?」


ガルドは。


黙った。


そして。


俺を見る。


「……知らん」


「知らない?」


「少なくとも」


「神器を調律したなんて話は」


「俺は聞いたことがねえ」


「普通の調律師が扱うのは」


「剣や槍」


「魔力を使う武器なんかだ」


「神器は?」


「別物だ」


ガルドは。


そう言い切った。


「神器は」


「持ち主を選んで現れる」


「そして」


「その存在が明らかになった時から」


「持ち主が扱える」


「本来なら」


「調律なんざ必要ない」


「……」


王都で。


聞いた言葉が。


頭に浮かんだ。


――神器は。


――その存在が明らかになった時から。


――持ち主が扱える。


それが。


この世界の常識。


でも。


俺の神器は。


撃てない。


「……もし」


「ん?」


「もし」


「神器を調律できる人がいたら?」


ガルドは。


少し考えた。


「そんな奴が」


「本当にいるなら」


俺を見る。


「会ってみる価値は」


「あるだろうな」


「どこにいるんですか?」


「知らん」


「……え?」


「神器を調律できる奴なんざ」


「聞いたこともねえって言っただろ」


「じゃあどうやって探せば……」


「だから」


ガルドは。


肩をすくめた。


「もっと広い世界を見ろ」


「王都」


「大きな街」


「冒険者が集まる場所」


「この街にない知識だって」


「外にはいくらでもある」


「……外」


その言葉が。


妙に。


胸に残った。


「この街は小さい」


「神器なんぞ」


「一生に一度見るかどうかだ」


「調べるなら」


「もっと大きな街に行け」


「大きな街……」


「王都なら」


「教会にも」


「魔導師にも」


「神器について研究してる連中がいるだろう」


王都。


その言葉を聞いた瞬間。


胸の奥が。


少しだけ重くなった。


思い出す。


大勢の人間。


期待。


視線。


そして。


――カチッ。


あの沈黙。


「……」


「嫌か?」


「……ちょっと」


「なら別の場所を探せ」


「え?」


「世界は広い」


ガルドは。


それだけ言って。


剣の修理に戻った。


◇


その日の夕方。


俺は。


湖のほとりにいた。


右手を前に出す。


青白い光が集まる。


空間が歪む。


――ズンッ。


神器が現れた。


「……」


構える。


引き金に。


指をかける。


――カチッ。


何も。


出ない。


いつもと同じ。


でも。


俺は。


神器を下ろさなかった。


もう一度。


ゆっくり。


引き金を引く。


――カチッ。


「……」


この音。


今までは。


嫌いだった。


俺が。


役立たずだと。


言われている気がした。


でも。


今は。


少しだけ。


違って聞こえる。


「何が動いてるんだ……?」


引き金を引けば。


確かに。


内部で。


何かが動く。


なら。


この音には。


意味がある。


神銃士の神器は。


何かを。


撃ち出す。


それは。


分かっている。


でも。


何を。


どうやって。


撃ち出す?


魔力なのか。


それとも。


俺の知らない。


何かなのか。


まだ。


分からない。


でも。


「……絶対にある」


撃てない理由が。


どこかに。


俺は。


神器を見つめた。


「見つけてやる」


「お前が何なのか」


「俺が」


「絶対に」


湖の向こうへ。


銃口を向ける。


夕日が。


水面に反射していた。


その時だった。


「……?」


森の方で。


何かが。


動いた気がした。


振り返る。


「……」


木々。


草。


風に揺れる枝。


何もいない。


「気のせいか」


神器を消す。


青白い光が。


夕暮れの中へ消えていった。


そして。


俺は。


街へ戻った。


だから。


気づかなかった。


俺が去ったあと。


森の奥。


木々の隙間に。


二つの赤い光が。


静かに。


浮かんでいたことを。

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