外せない一発
――ゴォォォン。
王城に。
警鐘が。
鳴り響いていた。
「報告します!」
演武場へ駆け込んできた兵士が。
息を切らしながら。
声を上げる。
「王都北方にて!」
「多数の魔物を確認!」
「その数――」
兵士が。
一瞬。
言葉を詰まらせた。
「三千を超えています!」
三千。
その数字に。
演武場の空気が。
一瞬で変わった。
「三千……」
セリアが。
小さく呟く。
「しかも!」
兵士は。
続けた。
「数は今も増えています!」
「北方守備隊が迎撃を開始!」
「冒険者ギルドにも!」
「緊急招集をかけています!」
北方。
その言葉が。
頭に残った。
昨日。
王立記録院で見た。
古い地図。
神銃士が。
戦っていたとされる場所。
そして。
今は。
俺の故郷と。
大きな湖がある場所。
偶然なのか。
それとも。
「レンさん」
リーナの声で。
意識が戻る。
「行きましょう」
「……ああ」
今は。
考えている場合じゃない。
俺は。
手の中の神器を見る。
【残弾数:1/1】
一発。
ほんの少し前。
撃たなかった。
一発。
それが。
まだ残っている。
でも。
三千体。
たった一発で。
どうにかできる数じゃない。
「レン」
セリアが。
俺を見る。
「私も行く」
「俺もだ」
カイルも。
前へ出た。
「……分かった」
それだけ言って。
俺は。
頷いた。
「俺も行く」
レオンが。
そう言って。
歩き出す。
「神器持ちを遊ばせておく数じゃない」
俺は。
神器を見た。
そして。
一度。
消した。
「……使わないのか?」
カイルが。
聞く。
「まだな」
俺は。
腰の剣に。
手をかける。
「撃つ相手が」
「まだ分からない」
ガルドから。
借りた剣。
何度も。
リーナに調律してもらった。
普通の剣。
神銃士の俺が。
今から。
三千を超える魔物と戦うために。
抜く武器。
それは。
神器じゃなかった。
◇
王都北門。
門を抜けた瞬間。
目に入った光景に。
息を呑んだ。
「……多すぎるだろ」
遠く。
平原を埋める。
黒い影。
一体。
二体。
そんな数じゃない。
魔物が。
群れになって。
王都へ向かっている。
兵士たちが。
列を作り。
その前には。
集められた冒険者たち。
怒号。
金属音。
魔法の光。
その全部が。
入り混じっていた。
「来るぞ!」
誰かが。
叫んだ。
次の瞬間。
魔物の群れが。
ぶつかった。
「リーナ!」
「はい!」
剣を。
振る。
一体目。
横から。
二体目。
踏み込んで。
斬る。
調律された剣が。
手に馴染む。
旅を始めた頃とは。
違う。
神器がなくても。
戦える。
「レン!」
セリアの声。
振り向く。
俺へ飛びかかろうとした魔物を。
セリアの剣が。
横から斬り払った。
「ぼーっとしない!」
「してない!」
「してた!」
言い返す前に。
セリアは。
次の魔物へ向かっていた。
「……相変わらずだな」
「余所見するな!」
今度は。
カイル。
大剣を振り下ろし。
魔物を。
正面から叩き伏せる。
上級戦士。
口だけじゃない。
昔とは。
比べ物にならない。
強さだった。
そして。
その少し先。
「――来い」
レオンが。
片手を伸ばす。
光が。
集まる。
次の瞬間。
白銀の槍が。
その手に現れた。
《天穿槍――レグナス》
金と赤の光が。
槍を走る。
「第一術式」
レオンが。
槍を構える。
「《閃牙》」
――ドンッ!
光が。
一直線に。
戦場を駆け抜けた。
魔物の群れが。
まとめて。
吹き飛ぶ。
「……ずるい」
思わず。
声が出た。
同じ。
神器持ち。
なのに。
あっちは。
普通に。
何度も使える。
俺は。
普通の剣。
「レンさん!」
「分かってる!」
考えるのは。
後だ。
俺は。
剣を握り直した。
◇
どれだけ。
戦っただろう。
倒しても。
倒しても。
魔物は。
減らない。
いや。
本当に。
減っているのか。
それすら。
分からなくなる。
腕が。
重い。
息が。
上がる。
それでも。
腰を落として。
剣を構える。
神器は。
まだ。
撃っていない。
一発しかない。
だから。
使うなら。
この戦いを。
変えられる相手に。
「レンさん!」
リーナが。
突然。
叫んだ。
「どうした!」
「あれ……」
リーナが。
指を差す。
倒れた。
魔物の身体。
そこから。
淡い光が。
浮かび上がっていた。
「……なんだ?」
一つ。
だけじゃない。
二つ。
三つ。
戦場の。
あちこち。
倒れた魔物たちから。
同じ光が。
浮かび上がっている。
そして。
ゆっくりと。
流れていく。
「レンさん」
「全部……」
「同じ方向に」
リーナが。
指差した先。
魔物の群れ。
その。
さらに奥。
淡い光が。
吸い込まれるように。
集まっていく。
「……何がある?」
「分かりません」
リーナも。
首を振る。
「でも」
「何か……」
――ズン。
地面が。
揺れた。
「……なんだ?」
――ズン。
もう一度。
魔物の群れの奥。
何かが。
動いている。
「下がれ!」
兵士の声。
「何か来るぞ!」
魔物たちが。
左右へ。
分かれていく。
その間から。
ゆっくりと。
巨大な影が。
姿を現した。
「……嘘だろ」
大きい。
今まで。
戦っていた魔物とは。
比べ物にならない。
兵士より。
冒険者より。
遥かに。
大きな身体。
一歩。
踏み出すだけで。
地面が。
揺れる。
「レン」
レオンが。
俺を見る。
俺も。
同じことを。
考えていた。
「……ああ」
剣を。
鞘へ戻す。
そして。
手を伸ばした。
呼ぶ。
俺の。
神器を。
――ズンッ。
巨大な神器が。
腕の中へ。
現れる。
【神器情報】
【使用者:レン】
【接続状態:極低】
【使用可能弾種:魔力弾】
【装填数:1】
【残弾数:1/1】
一発。
ある。
俺は。
神器を構えた。
巨大な魔物へ。
向ける。
でも。
「……駄目だ」
撃てない。
巨大な魔物が。
動いている。
それだけじゃない。
周囲を。
何十体もの魔物が。
走り回っている。
俺と。
あいつの間を。
何度も。
横切る。
一発しかない。
外せない。
「レン!」
セリアが。
魔物を斬り払いながら。
叫ぶ。
「撃てる!?」
「まだだ!」
「外したら!」
「終わりだ!」
巨大な魔物が。
腕を振り上げる。
兵士たちが。
散る。
俺は。
狙う。
今――。
違う。
魔物が。
前を横切る。
引き金にかけた。
指を。
止めた。
「……くそっ」
また。
動く。
狙いが。
定まらない。
「レン!」
カイルが。
巨大な魔物の横へ。
走り込む。
大剣を。
脚へ叩きつけた。
――ガンッ!
巨体が。
わずかに。
揺れる。
「今だ!」
神器を。
向ける。
でも。
巨大な魔物が。
身体をひねった。
狙っていた場所が。
外れる。
駄目だ。
また。
撃たない。
「何してる!」
遠くで。
誰かが叫んだ。
「神銃士!」
「撃て!」
分かってる。
俺だって。
撃ちたい。
でも。
一発しかない。
外した後に。
次はない。
「撃たせるな!」
声が。
戦場に響いた。
レオン。
「まだだ!」
《天穿槍――レグナス》
光が。
走る。
「こいつの一発を!」
「確実に!」
「当てさせろ!」
レオンが。
巨大な魔物へ。
飛び込んだ。
槍が。
脚を。
横から打つ。
巨体が。
傾く。
「神銃士の射線を作れ!」
その声に。
兵士たちが。
動いた。
「周囲の魔物を押し返せ!」
「射線を空けろ!」
冒険者たちが。
左右へ広がる。
魔法が。
飛ぶ。
剣が。
振るわれる。
俺の前から。
一体。
また。
一体。
魔物が。
消えていく。
「レン!」
セリアが。
巨大な魔物の。
左脚へ。
飛び込む。
「こっちは任せて!」
「セリア!」
剣が。
光る。
巨大な脚へ。
一撃。
魔物が。
体勢を崩す。
「カイル!」
「分かってる!」
反対側。
カイルの大剣が。
右脚へ。
叩き込まれる。
――ズンッ!
巨体が。
沈む。
「レオン!」
「任せろ!」
正面。
レオンが。
槍を構えた。
「第一術式!」
「《閃牙》!」
――ドンッ!
光が。
巨大な魔物の。
胸を打つ。
巨体が。
仰け反る。
止まった。
一瞬。
でも。
それで。
十分だった。
「レンさん」
隣で。
リーナが。
俺を見る。
周囲の魔物は。
押し返されている。
巨大な魔物は。
動きを止めている。
俺と。
あいつの間に。
何もない。
「……はい」
リーナが。
小さく。
頷いた。
「今です」
神器を。
構える。
狙う。
もう。
誰も。
前を横切らない。
巨大な魔物も。
動かない。
見えている。
一本道。
俺と。
あいつを繋ぐ。
一本の。
射線。
【残弾数:1/1】
外せない。
だから。
撃たなかった。
セリアが。
カイルが。
レオンが。
兵士たちが。
冒険者たちが。
俺の。
たった一発のために。
道を。
作ってくれた。
引き金へ。
指をかける。
今なら。
外さない。
あとは。
俺が。
撃つだけだ。




