もう一人の鍵
『第二接続研究記録へ』
第二接続。
俺は。
その文字を。
もう一度見る。
何度見ても。
意味は分からない。
でも。
第二。
そう書かれている以上。
一つ目が。
あるはずだ。
「……第一接続って」
俺は。
自分の手を見る。
「俺なのか?」
「レンさんが?」
「分からない」
神器を。
使っているのは。
俺だ。
召喚するのも。
狙うのも。
撃つのも。
俺。
神器に。
魔力を流せるのも。
俺だ。
だったら。
俺と神器の繋がりが。
一つ目。
そう考えれば。
意味は通る。
でも。
それなら。
第二接続は。
何だ?
俺は。
もう一度。
古い紙を見る。
『詳細は――』
『第二接続研究記録へ』
「これを探そう」
「はい」
俺たちは。
係の人を呼んだ。
紙を見せ。
そこに書かれている。
資料について尋ねる。
「第二接続研究記録……」
係の人が。
紙に目を落とす。
「少々お待ちください」
そう言って。
奥へ消えていった。
しばらくして。
何冊かの目録を抱え。
戻ってくる。
一冊。
二冊。
古い目録を。
順番に確認していく。
やがて。
係の人は。
首を横に振った。
「ありません」
「……え?」
「少なくとも」
「現在の保管目録には」
「その名称の記録はありません」
「でも」
俺は。
手元の紙を見せる。
「ここには」
「確かに書いてあります」
『第二接続研究記録へ』
「はい」
係の人も。
その文字を見る。
「この記録が作られた当時」
「その名称の資料が存在していた可能性はあります」
「ただ」
係の人が。
目録を閉じる。
「現在」
「この記録院には」
「確認できません」
失われた?
それとも。
どこか。
別の場所にある?
分からない。
でも。
一つだけ。
確かなことがある。
『第二接続研究記録』
その名前は。
確かに。
残っている。
「関連する資料は」
「ありませんか?」
俺が聞くと。
係の人は。
少し考えた。
「接続に関する記録であれば」
「いくつか」
「可能性のあるものがあります」
「お願いします」
再び。
待つ。
運ばれてきたのは。
さらに古い。
紙の束だった。
神器について。
調べられた記録。
俺とリーナは。
一枚ずつ。
確認していく。
そして。
一枚の紙に。
目が止まった。
『神器接続に関する調査記録』
「接続……」
俺は。
その先を読む。
『通常神器――』
『所有者単独にて完全接続』
『所有者以外からの魔力干渉を拒絶』
「……所有者単独」
リーナが。
呟く。
俺も。
その文字を見る。
そうだ。
これが。
普通なんだ。
神器は。
持ち主が。
使う。
持ち主だけで。
扱える。
誰かに。
繋いでもらう必要なんてない。
神器を持つ者が。
その神器を扱う。
それが。
この世界の常識。
前の神銃士だって。
そうだった。
神器に。
選ばれた。
その日のうちに。
大型魔獣を。
三体倒している。
誰かに。
繋いでもらったなんて。
記録はない。
俺は。
その下へ。
目を移す。
『神銃士神器――』
手が。
止まった。
「リーナ」
「はい」
二人で。
続きを追う。
『通常神器との構造差異を確認』
その下。
いくつかの文字が。
消えている。
さらに。
読み進める。
『――最深部――』
「最深部……?」
リーナが。
呟く。
その先は。
大きく。
欠けている。
残っているのは。
わずかな文字だけ。
『――外部より――』
『――適合――』
そして。
『――第二――』
「また……」
「第二」
二度目。
偶然じゃない。
神銃士の神器には。
普通の神器とは違う。
何かがある。
でも。
分からない。
何のために。
存在しているのか。
どう使うのか。
肝心なところだけが。
残っていない。
俺は。
さらに。
紙をめくる。
一枚。
二枚。
三枚。
そして。
別の調査記録。
『所有者以外――反応なし』
『魔術師――反応なし』
その次。
「……え」
リーナが。
声を漏らした。
俺も。
同じ文字を。
見ていた。
『調律系統――』
そこで。
文章は。
途切れている。
その先は。
黒く。
焼けたように。
読めなくなっていた。
「……調律」
リーナが。
その言葉を。
口にする。
俺たちが。
ずっと。
使ってきた言葉。
武器と。
使い手を。
繋ぐ。
調律。
それと。
同じ言葉が。
昔の。
神銃士の神器を調べた。
記録の中に。
残っている。
「私が……」
リーナが。
紙を見つめる。
「私が」
「やっていたことって……」
少し。
間を置いて。
「昔にも」
「あったんでしょうか」
「……分からない」
でも。
無関係だとは。
思えなかった。
俺は。
残っている文字を。
さらに追う。
下の方に。
まだ。
読める部分がある。
『適合者を確認した場合――』
その先。
また。
消えている。
そして。
最後。
『神器はこれを――』
『――第二――』
そこまでだった。
最深部。
外部。
適合。
調律。
第二。
バラバラの。
言葉。
意味は。
まだ。
分からない。
なのに。
頭の中では。
一人の少女へ。
繋がっていく。
俺は。
隣を見る。
「リーナ」
「はい」
「最初に」
「俺の神器に触った時」
リーナが。
少し。
目を見開く。
「何を感じた?」
「……最初ですか?」
「うん」
俺が。
初めて。
リーナと出会った日。
神器を。
見せた。
リーナが。
触れた。
その瞬間。
ずっと。
何の反応もなかった神器が。
初めて。
反応した。
「……道です」
リーナが。
答えた。
「道?」
「はい」
「神器の中に」
「魔力が通る」
「道みたいなものが」
「たくさんあって」
リーナは。
自分の手を見る。
「でも」
「途中で」
「切れているところがあって」
「それが」
「なんとなく」
「分かったんです」
「それで」
「繋げられそうだって?」
「……はい」
俺は。
目を閉じる。
思い出す。
ガルドさんと。
何度も。
神器を調べた。
外から。
中から。
分かる範囲で。
何度も。
それでも。
分からなかった。
俺自身だって。
同じだ。
自分の神器なのに。
中にある。
魔力の道なんて。
分からなかった。
でも。
リーナだけは。
違った。
初めて。
触れた時から。
感じていた。
その後も。
そうだ。
俺が。
魔力を流す。
リーナが。
その流れを感じる。
切れている道を。
探す。
俺は。
言われた通りに。
魔力を。
強くしたり。
弱くしたりする。
リーナが。
道を。
繋いでいく。
そして。
繋がった後は。
リーナが。
神器から。
手を離す。
俺が。
魔力を流す。
弾を作る。
俺が。
狙う。
俺が。
撃つ。
使っているのは。
俺だ。
それは。
間違いない。
でも。
俺一人では。
そこまで。
辿り着けなかった。
「……もしかして」
声が。
出た。
「第二接続って」
リーナが。
俺を見る。
「リーナが」
「触れられる場所のことなのか?」
「……私が?」
リーナが。
自分の手を見る。
「でも」
「私なんかが……」
「分からない」
俺は。
すぐに言った。
「まだ」
「そうだって」
「決まったわけじゃない」
俺は。
古い記録を見る。
『――最深部――』
『――外部より――』
『――適合――』
『調律系統――』
『――第二――』
そして。
リーナを見る。
「それに」
「一つ」
「おかしいことがある」
「おかしいこと?」
「前の神銃士は」
「最初から」
「神器を使えてる」
リーナが。
目を見開く。
「……あ」
そうだ。
もし。
第二接続が。
普通に神器を使うために。
必要なものなら。
前の神銃士にも。
誰かが。
必要だったはずだ。
でも。
そんな記録は。
今のところ。
どこにもない。
それどころか。
神器に選ばれた。
その日のうちに。
大型魔獣を。
三体倒している。
「本来なら」
俺は。
呟く。
「俺一人で」
「使えるはずなんだ」
神器を。
使うために。
第二接続が必要。
そう考えると。
前任者の記録と。
噛み合わない。
「じゃあ……」
リーナが。
俺を見る。
「私は」
「何をしてるんでしょう」
「……それを」
「知りたい」
俺は。
自分の手を見る。
俺は。
前任者とは。
違う。
狩人でも。
弓使いでも。
天弓士でもなかった。
Lv.MAXまで。
何かを極めたわけでもない。
十五歳で。
いきなり。
【神銃士】だった。
そして。
神器は。
撃てなかった。
前任者は。
一人で。
最初から使えた。
俺は。
一人では。
一発も撃てなかった。
でも。
リーナと出会って。
変わった。
「もしかしたら」
「今の俺に」
リーナが。
俺を見る。
「足りない何かを」
「リーナが」
俺は。
古い記録に残された。
文字を見る。
『――外部より――』
「別のところから」
「繋いでくれてるのかもしれない」
「別のところから……」
「うん」
正しいかどうかは。
分からない。
第二接続が。
本当は。
何のためにあるのかも。
分からない。
ただ。
俺とリーナが。
やってきたことを。
考えると。
そう思えた。
正面から。
繋がらない。
俺の神器。
その中に。
リーナだけが。
別の道を。
見つけた。
だから。
一発だけ。
撃てるようになった。
もし。
そうなら。
リーナは。
俺の代わりに。
神器を使っているわけじゃない。
俺が。
神器を使うための。
足りない何かを。
別の場所から。
補っている。
「……レンさん」
リーナが。
小さく。
俺の名前を呼ぶ。
「怖い?」
そう聞くと。
少しだけ。
迷ってから。
リーナは。
頷いた。
「……少し」
「自分が」
「何をしてるのか」
「分からないので」
「俺も」
「分からない」
「……レンさんも?」
「うん」
俺は。
少し笑った。
「自分の神器なのに」
「分からないことだらけだ」
リーナが。
一瞬。
きょとんとして。
それから。
ほんの少し。
笑った。
「……同じですね」
「同じだな」
分からないなら。
調べればいい。
今までだって。
そうしてきた。
◇
王立記録院を出た後。
俺たちは。
人の少ない場所まで。
移動した。
王都の外れ。
周囲に。
人がいないことを。
何度も確認する。
神器には。
今。
一発。
入っている。
撃つつもりはない。
ただ。
確かめたい。
「リーナ」
「もう一度」
「触ってみてくれる?」
リーナは。
少しだけ。
緊張した顔で。
頷いた。
「……はい」
俺は。
右手を。
前へ出す。
「――来い」
青白い光が。
集まる。
空間が。
歪む。
そして。
――ズンッ。
重い感触。
巨大な神器が。
俺の手に。
収まった。
【神器情報】
【使用者:レン】
【接続状態:極低】
【使用可能弾種:魔力弾】
【装填数:1】
【残弾数:1/1】
変わらない。
いつもの表示。
接続状態。
極低。
その文字が。
今までより。
気になった。
前任者も。
同じだったのか。
それとも。
俺だけなのか。
今は。
分からない。
「触ります」
「うん」
リーナが。
ゆっくり。
手を伸ばす。
指先が。
神器へ。
触れた。
その瞬間。
――キィン。
「……っ」
神器が。
微かに。
震えた。
「レンさん」
「うん」
俺にも。
分かった。
今。
反応した。
リーナは。
手を離さない。
そのまま。
目を閉じる。
俺は。
何もせず。
待った。
少しして。
リーナの眉が。
僅かに動いた。
「……違う」
「何が?」
「前より」
「分かります」
「道が?」
「はい」
リーナの指が。
神器の表面を。
ゆっくり。
なぞる。
「前より」
「ずっと」
「はっきり」
「分かります」
最初に。
神器へ触れた時より。
最初の一発を。
繋いだ時より。
リーナは。
神器の中を。
深く。
感じられるようになっている。
「でも……」
リーナが。
小さく呟く。
「どうした?」
「道だけじゃ」
「ないです」
「え?」
リーナが。
目を開く。
それでも。
手は。
神器に触れたまま。
「今まで」
「私が繋いでいたところ」
「そこより」
「もっと奥に……」
言葉を探すように。
リーナが。
目を細める。
「何か」
「あります」
「奥?」
「はい」
俺は。
記録院で。
最初に見つけた。
あの記録を。
思い出す。
『神銃士神器・接続調査記録』
そこに。
残されていた文字。
『通常神器との構造差異を確認』
そして。
今。
新たに見つけた。
断片。
『――最深部――』
俺の視線が。
神器へ落ちる。
「そこに」
「繋げられる?」
リーナは。
すぐには。
答えなかった。
目を閉じる。
しばらくして。
ゆっくり。
首を横に振った。
「……分かりません」
「今は」
「ただ」
リーナが。
神器に触れている。
自分の手を見る。
「あるって」
「分かるだけです」
「そっか」
でも。
それで。
十分だった。
今まで。
存在すら。
知らなかった場所。
俺には。
感じることすら。
できない場所。
それを。
リーナは。
感じている。
第二接続が。
本当は。
何のためにあるのか。
まだ。
分からない。
リーナが。
本当に。
それと関係しているのかも。
まだ。
分からない。
ただ。
一つだけ。
確かなことがある。
俺一人では。
一発も。
撃てなかった。
リーナが。
繋いでくれたから。
俺は。
初めて。
撃てた。
本来なら。
俺一人で。
使えるはずの神器。
なのに。
今の俺には。
何かが。
足りない。
そして。
その足りないものへ。
別の場所から。
手を伸ばせる人間が。
いる。
神器を。
使うのは。
俺だ。
それは。
変わらない。
でも。
今の俺が。
この神器の力へ。
辿り着くための。
もう一つの鍵。
それは。
ずっと。
俺の隣にいた。




