一発の使い方
あの戦いから。
三日が。
経った。
巨大な。
黒灰色の魔物。
俺たちが。
倒した。
あの魔物について。
ギルドの。
調査結果が。
出たらしい。
その知らせを。
受けて。
俺と。
リーナは。
ギルドへ。
向かっていた。
「討伐報酬……」
隣を歩く。
リーナが。
呟く。
「出るみたいだな」
「私たちも」
「もらっていいんでしょうか」
「いいんじゃない?」
「でも」
「戦ってたのは」
「ダリオさんたちで……」
「俺たちも」
「戦っただろ」
「……はい」
「それに」
俺は。
少しだけ。
笑う。
「倒したのは」
「一応」
「俺たちだし」
リーナが。
少し考える。
「一応……」
「自分でも」
「まだ実感ないんだよ」
あの一発。
思い出すだけで。
今でも。
信じられない。
魔物の胸を。
貫いて。
その先の。
森まで。
一直線に。
吹き飛ばした。
俺の。
神器。
ずっと。
撃てなかった。
神器。
それが。
本当に。
撃てた。
そんなことを。
考えながら。
ギルドの扉を。
開いた。
その瞬間。
何人かの。
冒険者が。
こちらを見た。
「……」
気のせいかと。
思った。
でも。
違う。
一人。
二人。
それだけじゃない。
俺を見て。
何かを。
話している。
「……あいつじゃないか?」
小さな声が。
聞こえた。
「何が?」
「ほら」
「例の」
「神銃士」
足が。
少しだけ。
止まった。
神銃士。
その言葉を。
聞くこと自体は。
珍しくない。
王都で。
神器を。
撃てなかった。
伝説級なのに。
使えない。
神銃士。
そんな。
話なら。
何度も。
聞いた。
でも。
「撃ったんだろ?」
続いた言葉は。
今までとは。
違った。
「本当に?」
「ああ」
「巨大な魔物を」
「一発で倒したって」
「一発?」
「森まで」
「吹き飛んだらしいぞ」
「嘘だろ」
「討伐に行った連中が」
「見たらしい」
ざわざわと。
声が。
広がっていく。
俺は。
何も言えなかった。
今まで。
俺について。
広がる噂は。
いつも。
同じだった。
撃てない。
使えない。
伝説級の。
役立たず。
それが。
変わっている。
「……レンさん」
リーナが。
小さな声で。
俺を呼ぶ。
「うん」
「噂に」
「なってますね」
「……みたいだな」
なんだか。
落ち着かない。
嬉しいのか。
恥ずかしいのか。
自分でも。
よく分からなかった。
ただ。
一つだけ。
確かなことがある。
撃てない神銃士。
その言葉は。
もう。
昨日までと。
同じ意味では。
使われていなかった。
「おう」
聞き覚えのある。
声がした。
見ると。
受付の近くに。
四人がいた。
ダリオ。
エリク。
ノルド。
ミア。
「来たか」
ダリオが。
片手を上げる。
「ちょうどいい」
「話があるらしいぞ」
俺たちは。
四人のところへ。
向かった。
受付の職員が。
書類を。
確認する。
「あの魔物についてですが」
「調査の結果」
「当初の依頼に記載されていた個体とは」
「別の個体であることが確認されました」
「やっぱり」
ダリオが。
腕を組む。
「あんなのが」
「普通に出てきたら」
「たまったもんじゃねえ」
「はい」
受付の職員が。
頷く。
「現在」
「出現した原因については」
「引き続き調査中です」
そして。
机の上に。
袋を置いた。
硬貨が。
触れ合う音。
「こちらが」
「追加の討伐報酬になります」
「追加……」
思っていたより。
大きな袋だった。
「こんなに?」
俺が。
聞くと。
職員が。
頷く。
「危険度が」
「当初の想定を」
「大きく上回っていましたので」
「また」
「被害が拡大する前に」
「討伐されたことも」
「考慮されています」
「……」
金額を。
聞く。
思わず。
リーナと。
顔を見合わせた。
しばらく。
宿代には。
困らない。
それくらいの。
金額だった。
「で」
ダリオが。
袋を見る。
「どう分ける?」
「六人で」
「分けるんじゃないんですか?」
俺が言うと。
ダリオが。
首を振った。
「最後に倒したのは」
「お前らだ」
「俺たちは」
「時間を稼いだだけだからな」
「いや」
俺は。
すぐに。
首を振る。
「その時間がなかったら」
「撃てませんでした」
「……」
「俺たちだけだったら」
「あの魔物を」
「倒せたかどうかも」
「分かりません」
実際。
そうだった。
リーナが。
最後の回路を。
繋いでいる間。
ダリオたちが。
魔物を。
引きつけてくれた。
あの時間が。
なかったら。
最初の一発は。
なかった。
「だから」
「みんなで」
「分けましょう」
ダリオが。
俺を見る。
少しして。
笑った。
「分かった」
「じゃあ」
「そうするか」
「俺は」
エリクが。
横から。
口を挟む。
「もう少し」
「もらってもいいぞ」
「お前は黙ってろ」
ダリオが。
即答する。
「冗談だよ」
ミアが。
呆れたように。
笑った。
ノルドは。
何も言わず。
小さく。
肩をすくめていた。
◇
それから。
さらに。
二日。
俺たちは。
神器の。
調律を。
続けた。
一度撃ったことで。
リーナが。
繋いでくれた回路は。
途切れていた。
俺に。
できることは。
魔力を。
神器へ送ること。
そして。
リーナの指示に合わせて。
その量を。
強くしたり。
弱くしたり。
止めたりすること。
神器の中の。
道を。
探すのは。
リーナ。
俺の魔力を。
導くのも。
リーナ。
途切れた回路を。
繋ぐのも。
リーナだった。
「……少し」
「弱くしてください」
「分かった」
俺は。
神器へ送る。
魔力を。
弱める。
リーナの手が。
神器の側面に。
触れている。
目を閉じたまま。
内部の。
流れを。
探っている。
「……ここ」
「昨日より」
「分かります」
「本当?」
「はい」
「前に」
「通したところなので」
リーナの指が。
ゆっくりと。
動く。
俺には。
何も。
分からない。
ただ。
言われた通りに。
魔力を。
送り続ける。
「……次」
「少し強く」
「これくらい?」
「もう少し」
「……これで?」
「はい」
青白い光が。
神器の表面を。
走った。
――キィン。
小さな。
音。
リーナが。
目を開く。
「……繋がりました」
「本当?」
「はい」
リーナが。
神器から。
手を離す。
俺は。
表示を見る。
【接続状態:極低】
変わっていない。
でも。
俺には。
分かる。
魔力を。
流してみる。
今度は。
止まらない。
神器の奥へ。
入っていく。
昨日まで。
届かなかった。
あの場所まで。
届く。
側面が。
開く。
青白い光。
円筒状の。
空間。
その中へ。
青白い光が。
圧縮されるように。
集まっていく。
やがて。
一つの。
弾のようなものが。
形を作った。
【魔力弾・生成完了】
【残弾数:1/1】
「……できた」
「はい」
リーナが。
嬉しそうに。
笑う。
最初は。
何日も。
かかった。
今回も。
簡単では。
なかった。
それでも。
前より。
少しだけ。
早い。
「リーナ」
「はい?」
「早くなってるな」
「……そうでしょうか」
「なってるよ」
リーナが。
神器を見る。
少しだけ。
嬉しそうだった。
そして。
俺は。
ふと思った。
「……これ」
「どうしました?」
「神器を消したら」
「どうなるんだ?」
「え?」
俺たちは。
顔を見合わせる。
今。
神器の中には。
一発。
魔力弾が。
入っている。
でも。
この神器は。
俺が消せば。
光になって。
消える。
だったら。
中の弾は。
どうなる?
「……消えたり」
「しませんよね?」
「分からない」
「……」
「……」
しばらく。
二人で。
神器を見る。
「やってみるか」
「せっかく」
「作ったのに?」
「……それ言われると」
「怖いな」
リーナが。
少しだけ。
笑った。
でも。
これは。
確かめておきたい。
俺は。
神器を消す。
青白い光が。
ほどける。
巨大な銃が。
消えた。
「……」
何も。
起きない。
当然だ。
問題は。
次。
俺は。
右手を。
前へ。
伸ばす。
青白い光が。
集まる。
空間が。
歪む。
――ズンッ。
神器が。
現れた。
すぐに。
表示を見る。
【残弾数:1/1】
「……残ってる」
「残ってます」
もう一度。
側面を。
確認する。
そこには。
さっき。
作った。
青白い。
弾。
「……消しても」
「弾は」
「なくならない」
「はい」
俺は。
神器を。
見つめる。
だったら。
戦う直前に。
何日も。
調律する必要は。
ない。
先に。
一発。
作っておけばいい。
そして。
必要になるまで。
神器を。
消しておける。
「これなら」
「持っていける」
「一発を?」
「うん」
一発。
それしか。
ない。
でも。
その一発を。
準備してから。
戦いに。
行ける。
昨日までとは。
大きく違う。
◇
翌日。
俺たちは。
新しい依頼を。
受けた。
街から。
隣の村まで。
荷物を運ぶ。
商人の。
護衛。
報酬は。
それほど。
高くない。
危険度も。
低い。
俺と。
リーナでも。
受けられる。
依頼だった。
街道を。
馬車が。
進む。
俺は。
腰に。
ガルドから借りた。
剣。
リーナは。
いつもの。
古びた短剣。
そして。
俺には。
もう一つ。
ある。
今は。
見えない。
神器。
その中には。
一発。
魔力弾が。
残っている。
【残弾数:1/1】
いつでも。
呼び出せる。
いつでも。
撃てる。
そう思うだけで。
少し。
心強かった。
でも。
同時に。
怖くもあった。
あの。
威力。
一度。
見ている。
何も。
考えずに。
撃っていいものじゃない。
馬車には。
商人がいる。
道の先に。
誰かがいるかもしれない。
外せば。
その先に。
何があるか。
分からない。
そんなことを。
考えていた。
その時だった。
「レンさん」
リーナが。
足を止める。
俺も。
止まる。
茂みの。
奥。
低い。
唸り声。
一体。
二体。
三体。
小型の。
魔物が。
姿を現した。
狼に似た。
魔物。
でも。
あの。
巨大な魔物とは。
比べものにならない。
それでも。
三体。
商人が。
息を呑む。
俺は。
右手を。
前へ。
出しかけた。
神器。
呼べる。
もう。
撃てる。
この三体なら。
一発で。
終わる。
あの威力なら。
間違いなく。
でも。
その瞬間。
頭に。
浮かんだ。
折れた。
木々。
抉れた。
地面。
森を。
一直線に。
貫いた。
あの跡。
俺は。
右手を。
止めた。
「レンさん?」
「……撃たない」
「え?」
俺は。
腰の。
剣を抜いた。
「こいつらなら」
「剣でいける」
リーナが。
俺を見る。
それから。
短剣を。
抜いた。
「……はい」
一体が。
飛び込んでくる。
俺は。
剣を。
構える。
速い。
でも。
前に。
戦った。
巨大な魔物ほどじゃない。
横へ。
避ける。
剣を。
振る。
浅い。
「くっ」
魔物が。
振り返る。
その横から。
リーナが。
入る。
短剣が。
脚を。
切りつける。
魔物の。
体勢が。
崩れる。
「レンさん!」
「分かった!」
踏み込む。
剣を。
振り下ろす。
一体。
二体目が。
リーナへ。
飛びかかる。
リーナが。
身体を。
捻る。
避ける。
短剣を。
突き出す。
魔物が。
下がる。
三体目。
馬車へ。
走る。
「まずい!」
俺は。
追う。
間に合う。
でも。
頭の中に。
一瞬。
神器が。
浮かんだ。
呼べば。
撃てる。
一発で。
終わる。
でも。
馬車が。
その先にある。
撃てない。
いや。
違う。
撃たない。
俺は。
走る。
魔物と。
馬車の間へ。
入る。
剣を。
構える。
牙が。
迫る。
「っ!」
剣で。
受ける。
腕が。
痺れる。
押される。
でも。
離さない。
「レンさん!」
横から。
リーナ。
短剣が。
魔物の。
脇腹を。
切る。
魔物が。
怯む。
その瞬間。
俺は。
剣を。
振り抜いた。
魔物が。
倒れる。
残り。
一体。
二人で。
向き直る。
神器は。
使わない。
剣と。
短剣。
それだけで。
戦う。
やがて。
最後の一体が。
倒れた。
「……はぁ」
息が。
上がっていた。
楽では。
なかった。
剣だけなら。
俺は。
まだ。
強くない。
リーナだって。
同じだ。
それでも。
倒せた。
商人も。
馬車も。
無事だった。
「……終わった」
「はい」
リーナが。
短剣についた。
汚れを。
拭う。
それから。
俺を見る。
「レンさん」
「ん?」
「撃たなかったんですね」
「……うん」
俺は。
右手を。
前へ出す。
青白い光。
――ズンッ。
神器が。
現れる。
表示を見る。
【残弾数:1/1】
一発。
残っている。
「……まだ」
「ありますね」
「ああ」
俺は。
その数字を。
見つめる。
一発しか。
ない。
だから。
撃つ。
そうじゃない。
一発しか。
ないからこそ。
撃たなくていい時には。
撃たない。
「リーナ」
「はい?」
「俺」
「ずっと」
「どうやったら」
「撃てるのか」
「そればっかり」
「考えてた」
「……はい」
「でも」
神器を見る。
「撃てるようになったら」
「それだけじゃ」
「駄目なんだな」
「……?」
「この一発を」
「いつ撃つのか」
リーナが。
俺を見る。
「それを」
「俺が」
「決めないといけない」
一発しか。
撃てない。
だからこそ。
その一発には。
意味がある。
撃てば。
勝てるかもしれない。
でも。
撃った後は。
なくなる。
そして。
撃つ場所を。
間違えれば。
誰かを。
巻き込むかもしれない。
だったら。
考える。
敵を見る。
周りを見る。
その先を見る。
そして。
決める。
撃つのか。
撃たないのか。
「……難しいですね」
リーナが。
言った。
「うん」
俺は。
笑う。
「でも」
「それが」
「神銃士なんだと思う」
神器を。
消す。
青白い光が。
消えていく。
一発は。
まだ。
残っている。
ずっと。
俺は。
撃つ方法を。
探していた。
でも。
撃てるようになった。
今。
考えなきゃ。
いけないことは。
それだけじゃない。
この一発を。
いつ。
撃つのか。
そして。
いつ。
撃たないのか。
それを。
決める。
それが。
今の俺の。
一発の。
使い方だった。




