弾
俺は。
神器の中にある。
円筒状の空洞を。
じっと見つめていた。
何かが。
入る。
そうとしか。
思えない。
「……銃」
「え?」
リーナが。
俺を見る。
「いや」
「この武器の形なんだけど」
俺は。
神器を見下ろす。
前の世界にあった。
銃という武器。
もちろん。
俺は。
本物を撃ったことなんてない。
触ったことすらない。
知っているのは。
映画や。
テレビ。
ゲームで見た程度。
詳しい仕組みなんて。
分からない。
だけど。
一つだけ。
知っていることがある。
「……弾」
「たま?」
リーナが。
首を傾げる。
「うん」
「前に」
「似たような武器を見たことがあるんだ」
前の世界で。
とは。
言えない。
「その武器は」
「弾っていうものを使って」
「それを撃ち出すんだ」
「……弾」
リーナが。
もう一度。
空洞を見る。
「どんなものなんですか?」
「えっと……」
困った。
知ってる。
知ってるけど。
詳しくは知らない。
「小さくて」
「金属でできてて」
「こんな感じの……」
指で。
大体の形を作ってみる。
「……それだけですか?」
「それだけ」
「……」
「そんな目で見るなよ」
「見てません」
「見てるだろ」
でも。
他に。
思いつかない。
この神器は。
銃に似ている。
そして。
その中に。
何かを入れるためのような。
空洞がある。
なら。
そこに入るものは。
「弾……なのか?」
リーナが。
神器の側面へ。
そっと触れる。
青白い光が。
わずかに揺れた。
「……分かりません」
「だよな」
「でも」
リーナが。
開いた側面を見る。
「わざわざ」
「ここが開くなら」
「何かを入れるっていうのは」
「ありそうです」
「……だよな」
確証は。
ない。
でも。
初めて。
試せそうなものが。
見つかった。
だったら。
やることは。
一つだ。
「作ってみよう」
「弾を?」
「うん」
「どうやって?」
「……鍛冶屋に頼む」
そう言って。
一瞬。
ガルドの顔が。
頭に浮かんだ。
あの人なら。
何か分かるかもしれない。
だけど。
故郷までは。
ここから。
三日ほどかかる。
今から。
戻るには。
遠すぎる。
それに。
作りたいものは。
小さな。
金属の塊だ。
「この街で」
「作ってくれる鍛冶屋を探そう」
「……はい」
俺たちは。
神器を消して。
街へ戻った。
◇
何軒か。
鍛冶屋を回った。
だけど。
当然。
話は。
簡単じゃなかった。
「弾?」
「はい」
「なんだそりゃ」
「俺も」
「詳しくは……」
「お前が分からねえもんを」
「俺に作れってのか?」
「……すみません」
職人が。
呆れた顔をする。
当然だ。
俺だって。
逆の立場なら。
そう思う。
「ただ」
「大きさと」
「形は」
「大体分かります」
俺は。
神器の空洞を。
思い出しながら。
紙に描く。
細長い。
金属の塊。
前の世界で見た。
弾丸の記憶を。
必死に。
引っ張り出す。
「こんな感じです」
「……変なもん作るな」
「ですよね」
「まあ」
職人が。
紙を持ち上げる。
「これだけなら」
「難しくはねえ」
「本当ですか?」
「ただの金属の塊ならな」
「お願いします!」
「用途は?」
「……武器です」
「やっぱり変なもんじゃねえか」
それ以上。
詳しく説明するのは。
やめておいた。
神器なんて見せたら。
余計に。
話がややこしくなる。
◇
しばらくして。
俺の手のひらに。
小さな金属の塊が。
乗っていた。
「……これが」
「弾」
リーナが。
横から覗き込む。
「小さいですね」
「たぶん」
「こんな感じだったと思う」
「たぶん?」
「たぶん」
「……」
「だから」
「そんな目で見るなって」
「見てません」
絶対。
見てる。
俺たちは。
再び。
街の外へ向かった。
人のいない場所まで。
歩く。
「ここなら」
「大丈夫かな」
「たぶん」
「リーナまで言うようになったな」
「レンさんが」
「ずっと言ってるので」
「……ごめん」
右手を。
前へ出す。
神器を呼ぶ。
青白い光。
空間が。
歪む。
――ズンッ。
巨大な神器が。
俺の手に収まる。
昨日見つけた。
側面。
そこへ。
魔力を流す。
――カチッ。
青白い線。
――ガコン。
装甲が。
浮き上がる。
ゆっくり。
側面を開く。
その奥。
円筒状の。
空洞。
俺は。
金属の弾を見る。
「……入れるぞ」
「はい」
少し。
緊張する。
もし。
これが。
正解なら。
一年以上。
何度やっても。
撃てなかった神器が。
ついに。
俺は。
弾を。
空洞へ入れた。
――コトッ。
「……」
「……」
入った。
空洞の中に。
金属の弾が。
収まっている。
空洞の大きさに。
合わせて作ったんだから。
入るのは。
当たり前だ。
それでも。
期待してしまった。
「これ……」
「もしかして」
リーナも。
同じことを。
考えている。
俺は。
側面を閉じた。
――カシュッ。
装甲が。
元へ戻る。
継ぎ目が消える。
神器を。
両手で持つ。
銃口を。
誰もいない方向へ。
向ける。
心臓が。
速い。
「レンさん」
「うん」
「気をつけてください」
「分かってる」
指を。
引き金へ。
何度。
これを。
やっただろう。
何百回。
引いたか。
分からない。
だけど。
今日は。
違う。
中に。
弾がある。
撃てる。
かもしれない。
「……いくぞ」
「はい」
息を。
吸う。
そして。
引き金を。
引いた。
――カチッ。
「……」
「……」
風が。
吹いた。
草が。
揺れる。
それだけだった。
「……嘘だろ」
俺は。
もう一度。
引く。
――カチッ。
「……」
もう一度。
――カチッ。
何も。
起きない。
「なんで……」
弾は。
入っている。
空洞にも。
収まっている。
なのに。
撃てない。
「違った……?」
力が。
抜ける。
一年以上。
聞き続けてきた。
この音。
やっと。
答えを。
見つけたと思ったのに。
また。
同じ。
――カチッ。
それだけ。
「レンさん」
リーナの声。
「もう一度」
「見せてください」
「……うん」
俺は。
神器を下ろした。
側面へ。
魔力を流す。
――カチッ。
装甲が開く。
中には。
さっき入れた。
金属の弾。
そのまま。
残っている。
「触ります」
「うん」
俺が。
神器を支える。
リーナが。
そっと。
手を置く。
――キィン。
青白い光が。
神器を走った。
リーナが。
目を閉じる。
「……」
「どう?」
返事はない。
指先が。
ゆっくり。
神器の表面を。
なぞっていく。
「……変です」
「何が?」
「この弾」
リーナが。
目を開ける。
「入ってるのに」
「神器が」
「何もしてません」
「……どういうこと?」
「分かりません」
「でも」
もう一度。
目を閉じる。
「ここ」
リーナの指が。
円筒状の空洞の。
周囲をなぞる。
「昨日は」
「空っぽだから」
「何かを入れる場所だと思いました」
「うん」
「でも……」
少し。
沈黙。
「それだけじゃ」
「ない気がします」
「それだけじゃない?」
「はい」
リーナの指が。
止まる。
「この場所に」
「道が」
「いっぱい集まってます」
「道……」
昨日。
リーナが言っていた。
魔力が通るための。
道。
「それって」
「魔力の?」
「……たぶん」
俺も。
神器の中を見る。
当然。
俺には。
何も分からない。
でも。
リーナには。
何かが。
見えている。
いや。
感じている。
「金属の弾を」
「入れるだけなら」
リーナが。
ゆっくり。
言葉を選ぶ。
「こんなに」
「魔力の道が」
「集まる必要って」
「あるんでしょうか」
「……」
確かに。
俺が知っている。
前の世界の銃なら。
金属の弾を。
撃ち出す。
でも。
これは。
銃じゃない。
銃に似た。
神器だ。
魔法が存在する。
この世界の。
伝説級の武器。
俺は。
中に入れた。
金属の弾を見る。
「……これじゃない」
「え?」
「弾は」
「必要なのかもしれない」
でも。
俺たちが作った。
この弾じゃない。
じゃあ。
何を。
撃つ?
何を。
ここへ入れる?
その時。
リーナが。
小さく呟いた。
「……作る?」
「え?」
「ここ」
「何かを入れるだけじゃなくて」
リーナが。
空洞へ。
指を向ける。
「中で」
「何かを作る場所でも」
「あるんじゃ……」
「作る……」
弾を。
入れるんじゃない。
ここで。
弾を。
作る?
「でも」
「何から?」
「……」
リーナが。
神器を見る。
青白い光が。
微かに。
脈打っている。
その周囲には。
リーナにしか分からない。
魔力の道が。
集まっている。
そして。
リーナが。
俺を見る。
「たぶん……」
「レンさんの」
「魔力です」
「……俺の?」
「はい」
確証なんて。
ない。
リーナだって。
きっと。
分かっていない。
それでも。
俺は。
神器の中にある。
空っぽの場所を。
見つめた。
金属の弾じゃない。
俺の。
魔力。
それを。
弾にする。
もし。
それが。
正しいなら。
俺たちは。
ようやく。
本当の答えに。
近づいているのかもしれない。
俺は。
神器を。
強く握った。
まだ。
撃てない。
でも。
初めて。
次に。
試すべきことが。
はっきりと。
見えた。




