EP68 人の気質
「絶景だ、、、なのにどうして、心が晴れぬ」
彼は一からそのすべてを手にしている、受験戦争を勝ち抜いて大企業に入社した、財産も女性も手に入れた。
都内一等地に豪邸を建てた、施設を完備し、映画館よりデカいシアタールームも有る、60億もした色鮮やかな希少ダイヤモンドを全面に散りばめたハイジュエリーウォッチも着けている。
強い大型犬も、良いワインも、手に入れた、、、なのに何故だ。
「何故こんなに満たされない?」
自分に持ち合わせないものを持とうとする、それは欲求。
「いや、満たされている、違うな、コップから溢れてるんだ、水が」
欲しかったものを手に入れた時が最高潮なのだ、高級な時計?強い犬?違うだろ、何もかも、生理的、経済的、社会的、心理的、健康的、肉体的、性的、、、俺は何がやりたかった?
「ただ成り上がりたいってだけじゃなかった、本質は幸福になりたいことだけだった筈だ、時間を費やし、財産を築き上げて、膜電位やら浸透圧やら神経伝達やらまだ何も知らなかった時とは違い電解質を気にするようにもなって片手の小指だけで直立腕立て伏せするトレーニングを24時間できるくらい肉体も強くなった」
気質、幼少から築き上げられるものだ、自分は小さな事にも喜べる小さな器しかなかった筈なんだ。
「子供の頃の夢、現実だけを見て破れたはずのシャボン玉、今もまた吹けるかな?」
こうして彼は救済活動を始めた、まずはマッハで動ける服を手に入れた。
「オラァ!」
「うべぇ!?」
そこらへんのチンピラならまだ通用した、だがしかし。
「雑魚が、俺様に逆らってんじゃねぇ!」
「グハ!?(嘘だろ!?これが人間の力なのか!?)」
少し強い小悪党にすら負けてしまった、調べた、強く成る為に、鍛えた、鍛え続けたある日。
「なんだ、彼は」
化け物だった、眼前に居たのは余りにも強過ぎるフィジカルだった。
「このような戦いを所望で?あくまでも耐久値を上げる訓練しかしてませんが」
「あんな空中での戦い、見たことがない!」
「いやぁ、被害を最小限に抑える工夫でしかありませんよ」
マグマに浸かりなんとやつはこう言い放つ。
「1195°から1200°くらいか?う〜んいまいち、もうちょい湯加減あっても、ええんよ?」
なんとマグマの湯加減を指摘しやがる、それどころかチャポチャポ重苦しい音を鳴らし遊泳。
「こんくらいならプール気分やね」
平気な顔してやがらぁ、しまいには。
「何してんだよ?」
溶岩つまり地表に続くまで潜水、出てマグマにパンチして拳を鍛えるやつに溶岩を水鉄砲の要領でぶっ掛けてしまった。
「アギャァァァ!」
「あ、すまんすまん」
「何しやがる!」
バゴーン!そいつは近くに固まる黒曜石をぶん殴り破壊して大小飛沫が飛び散らせる、だが皮膚に一切の怪我が付かない。
「ひぃ!?ってか拳がぁ!」
「言わんこっちゃない、まだ何も言ってないけど、悪いことしたな、手当するよ」
拳に黒曜石が刺さる男も鍛えてるだけあって軽い火傷くらいで命に別状はなく平気そうだ。
「我々は皆、日々強く成る為、被害を抑えながら戦って居ます、貴方にそれが出来ますか?」
シャラカル構成員ですらないその下っ端の傘下、肉体を改造もしなくてここまで強い、強いものがいるだけで周囲も引っ張られているのだ。
速く動いた際に肉体に掛かる抵抗による負荷や温度上昇、主観的な話だけではなく衝撃波による周辺被害、客観的な工夫もして考慮しながら戦う、それが今の普通だ。
「シャラァ!」
350tにも至るキック力を出すが。
「まだまだ甘いですね」
「はい、、、」
趣味から始まる慈善活動。
「気押されるな!戦うんだ!負けると分かっても引けない戦いが存在すると知れ!」
「うぉらぁ!」
本来なら街が火の海になり家や街が吹き飛ぶマッハ10!だがしかし衝撃が届かない領空圏内でジャンプで飛んで、二段ジャンプ、足バタで飛行を保ち、殴り合う!
「あは!あはははは!なんか楽しくなって来た!」
「(ランナーズハイになりやがった!)うぼぁ!?」
本来は勝てないような力の差を覆す!
「俺は!ヒーローになりたいんだぁぁぁ!!!」
「ウギャァァァ!?」
バゴーン!空気が揺れる!相手は遥か後方に吹き飛び地面を貫通、何百mと地中に埋まった。
「よくやった、合格だ、入団を認めよう」
今までは認識はするが認知はしない、そんな状況だった、認められた彼は歓喜した。
「やったぁぁぁ!」
「やったな相棒」
「おうよ!」
こうして良い権力者もまた戦う者達の輪の中に入って行くのだ、、、。
真正面から槍と突き合い槍を唐竹割りの如く縦から穿ち裂く貫手も、真正面から剣や刀と斬り合い剣な刀を切り刻む手刀も、真正面から金槌と叩き合い金槌を叩き割る鉄槌打ちも、どれもこれも拳が勝ち続ける、そんな腕を武器化から兵器化し、銃火器も、何もかも五体に劣るようになるほど肉体を極め続けて、空手家とは、否、あらゆる武術家達が、自ずと至る。
「(俺が蹴りを鍛えて、殴りを鍛えて、組みを鍛えて、何に成る?恐竜か?巨大な動物か?どれも居ない幻想だ)」
幻滅の渦、この現象を克服した先にあるのがアマチュアではあるが武術家と名乗るに値するに至り始める。
「う、うぅ」
強く成り立ての彼もまた理合と幻滅の渦の中に居た。
「頑張るぞ、頑張るんだ、俺!」
こうして彼はまた、振り出しに戻ったのだった。




