第十一話
人攫いの妖怪の目撃情報を受けた宮代家の退魔師たちは陰からこっそり見ていた俺が驚くほど迅速に移動を開始し、十分後には誰一人としてその場には残っていなかった。
人っ子一人いない公園で、俺はその場に残った妖力に犯人につながりそうな手掛かりが残っていないかを探ってみる。しかし、
『あいつらの連れてた式たちのせいで全然分からなくなってるな。』
そもそも俺と若菜が妖怪に遭遇したのは昼間であり、この場に痕跡が残っているとは考えづらかったことではあり、一縷の望みにかけてみたのだがそう簡単に手掛かりは見つからないようだ。
なら、あいつが狙われた時俺はどこにいた?白いものはどこから飛んできた?それをもとに敵がどこから攻撃してきたのかを割り出せるはず。そうすればどこにいる敵なのかが分かってくる。そう考えた俺は若菜が襲われた時に自分のいた場所に戻ってみた。
『俺がいた場所はここ。そして……攻撃はこっちから来てた。』
俺がいるのは昼の間、人間や犬たちが思い思いに遊んでいた広場。公園の入り口近くの場所で若菜が立っていた場所と俺の立っていた場所を思い出し、俺のいた場所から敵の攻撃を受けた方向を見た。
『ん?何もないな……。』
その方向には広い芝生が広がっているだけで、あるものと言えば一本のヤマザクラの木だけだ。しかも既に花は散り、葉もあまり生えていないので隠れるのに適しているとは言えなさそうだ。
『むむ……収穫は無しか……。』
このまま探していてもらちが明かなそうなので、俺は気は進まないが退魔師たちが向かった街の方へも行ってみることにした。
がさがさ……
俺の声に反応するように茂みから物音が聞こえてきた。俺は公園を一っ飛びで飛び出す体勢から、方向を変えてその音の方にある茂みの中に踊り込む。そして何者かを前脚で押さえつけた。
『誰だ。』
『ひぃ!お助けください~!』
俺が前脚で押さえつけていたのは鼠の姿をした妖怪。妖力も小さい低級の妖怪だった。どうやら俺の妖力に引かれてどこからか湧いて出たのだろう。
『分かったから喚くな。まったく……俺がお前のような低級の妖怪を襲うわけないだろう。』
『はぇ?でも昼間の妖怪は人間だけじゃなくて私も食おうとしてましたが……』
『待て。昼間の妖怪?どんな奴だ?』
鼠の言葉に引っ掛かりを覚えて、俺は話を遮って聞いた。人間だけじゃないというのはどういうことだ。
『えっと、私の体が陰になるほど体が大きくて真っ黒な奴です。最近よくここらで見かけて、仲間たちが何人も食われて私たち低級妖怪は怯えているのです。』
『最近?今日だけではないのか?』
『はい。最近は昼間になるとよくここに帰ってきて私たちのような妖怪や人間を食らっているのです。普段日の出ている間はこうした茂みに隠れているのですが今日は見つかってしまい死を覚悟しました。でも途中で他の獲物を見つけたのか奴はあの木に登って糸を吐き出して……』
『糸?そいつが飛ばすのは糸なのか?』
『ええ。たぶんそうだと思います。あの妖怪が自分でそう言っていましたので。』
『嘘は……ついてないみたいだな。なるほど。』
手がかりは思ってもみなかったところから出てきた。相手は昼間ここに帰ってくるらしい。若菜には悪いが、敵を退治するまで今しばらく外出できないのは我慢してもらおう。そうと決めた俺はわざわざ退魔師の後を追うことはせず、低級妖怪に別れを告げておとなしく宮代の屋敷へと戻った。
『ふう、ただいま帰ったっと……』
「あ、白!お帰りなさい!」
『うわっ、若菜お前まだ戻ってなかったのか。』
倉の地下室にはまだ小箱を前に若菜が修行していた。小箱に手をかざしているところを見ると、思ったように修行は進んでいないようだが。
「はい。思ったようにはいかなくて、もうちょっと頑張ろうと思っていたらいつの間にかこんな時間になっちゃっていました。」
『そうか。じゃあ今日はここまでにしておけ。……そうだな、明日もまた来い。もうしばらくは外出できないから学校とやらにも行かなくていいんだろう?』
「明日は日曜日なので学校には行かない日なんです。だから明日も朝から修行しに来てもいいですか?」
『いや、修行は夜からだ。朝はまた俺に用事があるんでな。』
「……分かりました。」
少し残念そうな若菜に俺は修行に使っている小箱を渡した。
『この程度なら自分の部屋でもできるだろう。これを渡しておくから一人で練習しておけ。』
安心しろ。帰ってきたらお前の外出禁止は解かれているはずだからな。




