嵐 12
兄様視点になります。
とてつもなく更新が滞ってすみません……(тωт。`)
アーノルドは大広間の中央で踊りだした妹を見つめていた。何も知らないレミニアリスはただ楽しそうにターンする。相手を見つめる瞳に、淡い想いが浮かんでいるのは明確だ。
『にーさま、レアはにーさまが好きっ!』
ぎゅっと小さな手で抱きついてきた頃もあったというのに、今は想い人の手をとって踊る。がくりとうなだれたアーノルドに父と母は思い思いに笑う。
「……アーノルド、分かってるよな?」
「もう…。アーノルドに任せる、と仰ったのはあなたでしょう?」
母を侍らせているのにも関わらず、にやりと笑う父はかなり悪者に見えた。それが自分によく似ている容姿となれば、鏡を見ているようで妙な気分になる。
「ええ、滞りなく」
アーノルドも負けじと笑った。
*********
時は遡ること、ほんの少し。まだ夜会の開会宣言がなされておらず、招待客がちらほらと姿を見せ始めた頃。レヴァイノス帝国皇太子、アーノルド・レヴェインはとある人物の訪れをまっていた。
「皇太子殿下。その、ルベルト王太子殿下がいらっしゃっ」
「ようやく来たか…。随分と時間がかかったね」
幼馴染の侍従を遮って、アーノルドは組んでいた足を元に戻す。すると時間を空けずに正装したルベルトが入ってきた。…憎らしいほどに正装が似合う未来の妹婿である。
「やぁ。待っていたよ?ルベルト王太子」
そんな皮肉を込めた第一声をうけたルベルトはわずかにだしろぐ。……こんなこところでへばったら可愛い妹は渡せないな。可愛らしく笑うレミニアリスの顔がふと思い出される。
「……お待たせして申し訳ありません、皇太子殿下」
なんと。ちゃんと皮肉で返したルベルトにアーノルドは笑みを深くする。そこへ、とルベルトに座席を勧めてアーノルドは口を開いた。
「……ここへ来たってことは、気付いたと考えても構わない?」
いつものようにアーノルドは問いかけた。これはフェイクでもあり、相手の隙をつくにはうってつけの方法だった。
「はい」
しっかりとルベルトが頷いたのを見て、アーノルドはクスクスと笑う。話してみようか、と促せばルベルトは少なからず緊張した面持ちになった。
「……第三妃ヴィルナに毒を盛ったのは、第三妃自身ですね?」
そこから突いてくるルベルトにアーノルドは笑みを深める。
「その背後にいるのは、アズヴェルト伯爵………それと、第四皇女エリザベート」
少ない情報の中ここまで導きだせたのなら及第点をあげよう、とアーノルドは瞳を細めた。要約すると、第三妃が倒れたのは第三妃自身の自作自演。だが、それ以外の小火は全て先の二人の仕業であると推測される。
「どうして断言できる?第三妃には何もメリットはないけどね」
「それは─────────。皇后陛下を、葬り去る事……ではないかと」
言いにくそうにルベルトは言う。アーノルドの実母であり、レヴァイノス帝国至高の女性をそのように表現するのはあまりよろしくない。……だが。
「半分は正解で、半分は間違いだ」
皇后アリナディスと、第三妃ヴィルナ。この二人の確執はそう甘いものではない。ルベルトは訝しげに眉をひそめた。
「皇后陛下に、皇族に何かあればリアネス伯爵が動く。……そうではないのですか?」
リアネス伯爵家は、古くから続く由緒正しき家。皇家と命運を共にする、いわば光と影のような存在だ。光には光の、影には影の役目があるように、リアネス伯爵家は皇宮内外の諜報活動やその他後ろ暗い出来事に関わりを持っている。そんな彼らが動けば、必然的に何かあったことが、わかる人にはわかるのだ。
「その通りだ。だけど……それ以上の発言は控えてもらう。大声でリアネス伯爵家の秘密を暴かれては困るからね」
失礼しました、とルベルトは素直に謝る。こういった柔軟さはアーノルド個人としても、皇太子としても好きだ。
「なぜアズヴェルト伯爵と第四皇女が繋がっていると確信した?……血の繋がりは深いことのみでは理由が付けれないはずだけど」
皇太子として全てを知るアーノルドにとっては茶番のような会話だ。だが、第三者から見たレヴァイノス帝国の内情は複雑に絡まっている。様々な人間の思惑や思想、貴族たちの稚拙な権力闘争や、自らの地位を保持する為には手段を選ばない者、はたまた愛憎関係のもつれからくる怨嗟…。
"これから"のレヴァイノス帝国を担うものとして、アーノルドはこの祖国を憂いていた。
「仰る通りです。それだけでは片付けられない話ですから。アズヴェルト伯爵の噂に聞く素行を抜きにしても難しいでしょう」
ルベルトあっさりと首肯する。幾分拍子抜けしたアーノルドはそのあとに続く言葉を待った。
「…ですが、白日のもとに晒せる明確な素行ならどうでしょうか?皇帝陛下がご使用なさる印璽……、近頃はよく取り替えられているようですね」
「!」
そこまで探られているとは思わなかったアーノルドは笑みを貼り付けて心の動揺を抑えこむ。
「……どこでそれを?」
アーノルドは気付いていないが、アーノルドの背後からは恐ろしい程の冷気が漂っている。皇太子は父帝と同じ迫力の片鱗を見せていた。
「…我が国にも、優秀な者がいます」
たったそれだけの言葉の裏に隠された意味にアーノルドは声を上げて笑う。
「いいだろう、ルベルト王太子。レアの婚約者としては不釣り合いだと思ってしまった私を許してくれないか?」
「……はい」
真面目な顔で言ってのけたアーノルドにルベルトは曖昧な返事をした。唐突すぎるのはレヴェイン家の性だろうか。
「だが、信用に足る人物だと認めよう」
気を落としていたルベルトはその言葉に、ぱっと顔を輝かせた。
「…今夜の夜会の本当の目的は敵対する派閥を炙りだすこと、そして彼らの権力を削ぐことだ。するべきこと、わかるよね?」
「……はい。第一皇女殿下を護り抜くこと、です」
「ご明察。…ま、当然だけどね。レアには悪いけど、今回は出る杭になってもらいたいんだ。だから第一皇女には何も伝えていない」
後々、レミニアリスからはこっぴどく罵られるかもしれないが、致し方ない。アーノルドは兄である前に皇太子なのだから。
「何があればいつでも連絡は取れる手筈をととのえてあるから、上手く使えばいい。それと……レアのこと、頼んだよ?」
アーノルド兄様はシスコン……気味ですかね?




