嵐 9
──────夜会前の女性陣の心意気は戦と同じだ。
こんな言葉をどこかで聞いたことがある。記憶が確かならば父の言葉だったかもしれない。…幼かったレミニアリスに聞かせる言葉としてはどうかと思うが。
しかし今となっては、その言葉の意味をそれはそれはよく理解できる。
「よろしいですか、姫様」
キリッと表情を引き締めたノエルがそう呼びかけると、レミニアリスは重々しく頷く。
「……では、いざ」
決意を秘めた声色でそう掛け声を掛けると、侍女たちがレミニアリスの普段着のドレスを脱がしにかかる。女官たちは用意されたイブニングドレスを手順通りに並べていく。
今日のドレスは以前着てみせたようなものではない。夜会ということもあり、刺繍や宝石、髪飾りに至るまで控えめなものを選んでいる。とは言ってもレミニアリスらが主役、というコンセプトの為いつものイブニングドレスよりかは派手目……かもしれない。
ほとんど白に近いような空色で、散りばめられた小粒のダイヤモンドが光を受けて煌めいている。
「皇女殿下、御髪は夜会用よろしいですか?」
「ん……。そうね、お願いするわ」
普段、レミニアリスは無造作に高い位置で結わえているだけである。よもや、そんな髪型で出席するわけにはいかない。髪結いの侍女が2人程寄ってきて、丁寧にレミニアリスの髪を櫛で梳かしていく。
そして大人しく髪をいじられること数分。
手入れの行きとどいた黒髪の一部をねじり、左にながしたサイドテールが完成した。首にかかった黒髪が白い肌に映えて、妖艶にみえる。
「ノエル様、御髪が整いました」
今度はノエルがドレスを抱えて鏡の前にやってくる。ほぼ下着姿のレミニアリスを女官たちに見られるのは今更ながらに気恥ずかしい。
「……なんだかデザインが変わったのね」
そう呟くと、ノエルが笑みを零した。
「そうですね。姫様も…ご婚約なさって大人の仲間入りをされましたから」
「婚約したら大人なの?」
「……どうでしょうか」
ノエルはなんと答えてよいのやら、と真面目に考えている。その姿にくすくすと笑っていると、着付けが終了した。そして、最後に皇家の紋章が彫り込まれた指輪と腕飾りをつける。この2つは生まれたと同時に皇族の証として贈られるもので、名前と誕生日や両親のイニシャルまで彫り込まれているのだ。
「……ありがとう、皆のおかげで準備が出来ました」
感謝の念を伝えるべく、微笑むと全員が嬉しそうに頷く。
「ノエル。王太子殿下と共に入場すればよいのかしら?」
それについては少しばかり、明言したくない。…ルベルトの隣に並んでもおかしくないだろうか、といつもは考えないことを頭の中が占める。
「はい。フラヴィス侯爵からはそのようにしていただきたい、と」
「王太子殿下がこちらに来ることはないわよね。……ノエルの準備が終わったら、こちらから伺いましょうか」
今回の夜会では付き人を一人のみ連れて来ても良いことになってる。伯爵令嬢のノエルならば所作も完璧なため、全員の推薦でノエルに決定した。
「姫様、それには及びません」
女官の輪からノエルが進み出る。その姿にレミニアリスは目を見張った。薄い紅色の女官の正装をしたノエルは凛としていて…。
「素敵だわ、ノエル!」
心からの本心だった。ノエルは照れたように俯くと、はにかむようにして笑ってみせる。
「ありがとうございます……。姫様も、本当にお似合いです」
ノエルは似合っているけれど……。私はどうだかわからない。これもまたあの天鵞絨のドレスのように着られている感が出ていなければいいけれど…。だが、これを選んで、着付けてくれた彼女たちのためにも。
レミニアリスは、ちゃんと頑張らないと、と小さく深呼吸をした。
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