さあ、推理をご披露
赤い服の少女は、笑う。
二人とも、遅いよ、はやく。
黒い服の少年は、苦笑する。
転ぶぞ、○○○。
きゃっつ。
白い服の少女は、心配する。
大丈夫?○○○ちゃん
赤い服の少女は、笑う。
笑う。
笑う。
* * * *
「急げ、茜。見つかったら事だ。」
地下特有の、籠った空気の中、少年と少女は走る。
土の匂いがする。茜は、桂に手を引かれたまま走っていた。
たまに転びそうになるのをなんとかこらえる。
やがて音が近くなる。
もうすぐ、そこの穴を出れば山だ。
「---っつ!!」
(こんな時に)
桂は悪態をつく。時間をかけている暇は、ないのに。
「っあうっつ、がっっ!!!!」
だが止まらない。この痛みは。
「---桂!?桂!!大丈夫!?」
慌てて茜が近寄る。桂の尋常でない様子に、茜は鞄から水筒を出して飲ませた。
零しながらもなんとか嚥下する。桂の額には脂汗が浮かび、顔は真っ青だった。
「っつ、はあっ、行くぞ、茜!」
やがて少し回復した桂は、茜の手を引き再び走り出した。
もうすこし。もうすこしなんだ。もう少しでーーーー
やっと出れた。満天の夜空の、その先には。
「!!!!!!!」
村人と、村長が居た。
「おや。どこへ行く気かな?」
老人は、笑った。
(やはり、和美はーー)
舌打ちをする。だがそれは違ったらしい。群衆の中から和美が出てきた。
否、正確には投げ飛ばされた。
縄を巻かれ、怪我をした和美が。
「---和美!!」
和美に近寄ろうとした、瞬間。
地響きがしたかと思うと目の前に土砂が降り、桂が最後に見た向こう側の景色は、村人がもっていた提灯の火が丁度消えた所だった。
体に衝撃が走る。危険を察知した本能がうずくまろうとするが、なにかがそうさせなかった。
やがて土砂が完全に崩れ落ちた頃、桂は砂こそかかっているがどこも痛くはない事に気が付く。
「・・・・??」
「・・落ち着け。黒服の男の仲間だ。」
やけに落ち着いた声が空洞に響く。
どうやら桂と茜はこの男が中へと引っ張ってくれたおかげで無事らしい。
男は懐中電灯をつけた。
初めて見た恩人は、シャツ姿で、ひどく冷静そうな男だった。
男は茜を一瞥した後、桂達の手を引いて走り出した。
* * * *
「よっ。坊主。駆け落ちか?」
待ち合わせ場所は村の端の神社だった。
黒服の男ーーー三蔵は木に寄りかかり、手をあげた。
神社の軒には和美が横たわっていた。
「作戦が強行すぎだ。危うく死ぬかと思った。」
桂がそう毒ずく。三蔵は苦笑して、神社を見た。
「仕方ないだろう?どうしても今日である必要があったんだ。」
三蔵の言葉に、桂は少し三蔵を睨んだ。
「---さて、俺はある依頼人から依頼を受けたからこの村に居る。
真実を、知りたいそうだ。そしてその真実を、坊主は知るべきだ。
ーーっつと、その前に。坊主、昼神 旭という名前に聞き覚えは?」
「---いや?知らないけど・・・」
訝し気に桂が答える。
桂の返答に、茜は顔を上げた。
「本当に?忘れてる、なんて事は?」
「ない。俺は、記憶力はいい方だ。」
桂の返答に、三蔵は満足気に頷く。
「じゃあ、そこのお嬢ちゃんに回答願おう。
ーーーーーーお前は、誰だ?」
三蔵の重く響く言葉に、桂は眼を見開く。
「--俺の幼馴染、夕野 茜だ。同じクラス。」
桂はそう答える。だが、桂にも分かってる。
この男の聞き方は、そうじゃない。
この男が欲している答えは、そうじゃない。
ただの、人物紹介じゃない。
この聞き方は。
では、この男はなのを聞いている?
茜は、なにか別の組織に所属しているのか?
桂がしきりに思考を巡らす中、桂の思考を中断するかのように三蔵はより一層声色を低くして続ける。
こころなしか、三蔵は茜を睨んでいた。
「・・・・・お前、
夕野茜を、何処へやった。」




