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ラヴァーズ  作者: 水瀬 ハル
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14/20

逃げる。


どこへいくの、と問うと、彼女は悲しそうに笑った。

彼女の宝を、腕にかかえさせて、


彼女はここから去っていった。

ただ、純粋に笑う彼女をきれいだな、と思った。




* * * *


真夜中。桂は黒いパーカーを羽織り、最低限の荷物をリュックに詰めていた。

学校で伝えた暗号は、上手く彼女に伝わっただろうか。

家の中が静まり返っている事を確認し、桂はそっと自分の部屋を出た。

最終日まで大人しくしていたせいか、今日は監視の気配が感じられなかった。

変わりに和美が帰ってきたから、一応の監視のつもりだろう。


一歩ずつ、慎重に歩く。

気配を殺し、裏口へとたどり着き、靴を履こうとした瞬間だった。


桂の手を、誰かが掴んだ。

全身から血の気が引いていく。

高鳴る鼓動を落ち着かせ、無表情を装い、桂はゆっくりと掴んだ人物へと向けた。



ーーーーそこには。




和美が、いた。


しくじった。計画のやりなおしだ。

いや、まず和美をーーーー


大声を上げると思っていた和美が、何も言わない。

不審に思い、ゆっくりと、顔を上げた。


和美は、ゆっくりと首を振り、囁いた。


「こっちはダメよ。罠が張られてる。---茜ちゃんは?」


桂は呆気にとられた。

和美に預けられたその日から、和美は幾度と暴力や暴言を振るってきた。

その和美が、自分を助けた。

敵か、味方かーーーー


和美は少し笑い、桂を抱きしめた。


「---私の、姉さんはーーーあんたの、母さんは、御子降ろしに当てられた。

なのに、子供のあんたまでーーー


ーーついておいで。終わらせなきゃ。何の罪のない人々を生贄にするこのバカな風習を、やめなきゃ。

どこの世界に自分の大切な姉の宝物を憎む鬼畜生が居るのよ。姉さんの宝ーーーあんたの事は私が守る。私はこの日の為に、村人の信頼を得る為にあんたに辛く当たってきた。ごめんねーー。」


そういうと、和美は桂の手を握り、引っ張った。


「あんたは気付いてなかったかもしれないけどね、今日はお隣さんがあんたの事監視してる。姉さんが御子降ろしに決まったあの日、あんたが御子降ろしに当てられる事は分かってた。だからこの家を借りたのよ。」

和美は座敷で止まり、畳を一枚はがし、板を外した。

そこは綱で階段が作られており、ひゅう、と風が吹いていた。

先は暗くてよく見えない。


「ここを出れば、何本か道が続いていてね。右へ行けば、六尾山中に出るわ。左へ行けば、学校の地下に続いてる。道中危ないから、これを持っていきなさい。」


和美はそう言い、充電式の懐中電灯を渡した。


「・・・これは・・・」

「この村は、文明の発達が遅れてるの。まあ、この5村は、と言った方が正しいかしら。外へ行けばきっと、あんたの病気も治るわ。」

「・・・・!」


気付いてたのか、と言おうとして、飲み込む。


「茜ちゃんとは?」

「・・待ち合わせてある。」


その言葉に和美は頷く。


「餞別よ。あんたの両親の遺産と、私の僅かな蓄え。二人で外に出て、幸せになりなさい。」



桂は思案し、笑った。


「・・・世話になった。」


和美もまた、笑顔で頷いた。


「下に着いたら、この縄を切るわ。懐中電灯を、上に二回向けて。行きなさい。


幸せに、生きて!!」




桂は急いで縄を降りる。

味方はどうやら居たらしい。


急いで茜と合流して、二人で。






生きなければ。






時刻は午前2時。丑三つ時。



少年は、人生最初で最後の逃亡劇へと出た。

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