残り1日
茜は思考していた。
どうしたら、桂を助けられるだろうか。
そう、考えていた。
気怠い体を引きずり、窓の外を見る。
(目障り)
ただ、そう思う。
もう、終わらせてしまおうか。
全てから、桂が解放されるなら。なんだってする。
だから、もう、こんなくだらない世界も、
自分自身も、終わらせてしまおうか。
「なーんて、ね。」
そう呟いて、茜はベッドから立ち上がる。
そんなことをしたら、きっと、桂はもう自分を見てくれないだろう。
茜は、空を見上げた。
時刻は早朝。憎らしい程小鳥が鳴いている。
残り、1日の事だった。
* * * *
「ねえ、三蔵。あれから、桂君と接触した?」
仁の言葉に、漬物を切っていた三蔵の手が止まる。
キョウは墓参りだとかで、早朝から出かけていた。
「・・いや。だが、まあ予想通りだ。あの手のタイプは、自分以外全員敵だと思ってる。めんどくせえな。一瞬でも背を向けたら寝首かかれるとでも思ってんだろ。」
三蔵は漬物を切るのを再開し、仁は窯の中の火に風を送った。
「そっかあ・・・でも、どうするの?あれからなんにも分かってないじゃないか。」
「いや・・・・分かった。大体な。あの餓鬼が掘り起こしてたモンが中途半端な理由も、この土地の紙もーーー。この村は、直に俺たちが居なくても滅びる。長いもんには巻かれろというが、長いもんに長く巻かれすぎだ。
時代は変わるんだ。この村は5村の中で一番戒律が厳しく、長く神に統治され続けられている。」
三蔵の言葉に、仁はそっか、とだけ呟いた。
「三蔵、気を付けてね。三蔵が居なければ、僕もーー」
「ああ。分かってるよ。俺は九条を呼んでくる。仁、今日はお前は茜の方を頼む。」
「うん。分かった。」
* * * *
桂は部屋に籠り、机の上の眼球を眺めていた。
こうしてみるととても自分の中に入っている物だとは思えない。
桂はふっと笑った。
もう、疲れた。
高校卒業まで、とは思っていたが、どうやらそれは叶わないらしい。
桂と茜、それから旭はどういう訳か、人並みに人間に好かれる事はなかった。
特に同級生は必要以上に桂たちに近寄ろうとしなかった。
(むかつく)
自分達の知らないところで、自分達はなにかに巻き込まれているーーー
幼心にそう感じていた桂は、旭が御子となった日から全てを信じるのをやめた。
笑顔ですり寄る大人も、老人も。
早く、この村から出て、一人前の幸せを掴みたかった。
だが、残念だが明日、自分は殺される。
おそらく次は茜が。
和美は眼だけと言っていた。
だがそれだけにしちゃ多すぎるのだ。
監視の、数が。
現在自分の監視をしている人数、三名。
気配はすこしずつ違うから、交代制で、五名。
茜の家に近付いたときの感じた監視は、二名。
桂が調べた限りでは、この村で一般人が気付かない程に監視出来る人間は、十名に満たない。
だから、残りの部分に裂ける人数が居ない。
ふと、黒服の男に渡された紙を見る。
あの男は、いったいどういう目的なのだろうか。
まあいい。観客になってもらおう。
今更あの男があの行為を見ていたとして、村人は外の人間の言う事など聞きはしないのだから。
やがて桂は作業箱を取り出し、ゆっくりと薬瓶から眼をだした。
眼は、生きている人間そのもののように生々しく、そして綺麗だった。




