接触
明け方、桂は六尾村山中を歩いていた。
自分が動くと共に動くかすかな気配。
こういう時この力は役に立つな、と桂は苦笑した。
さて、どう捲くか。はたまた、泳がせるか。
だが捲くのは面倒だ。しかしタイムリミットは残り3日。あまり時間がない。
桂は舌打ちをすると、自然な動作でふらり、とゆらゆら歩き始めた。
そして、丁度監視の死角に入った瞬間。
人間離れした跳躍力で木の上へと跳ねた。
どうやらうまくいったらしく、監視の人間は数百メートル後ろから桂が跳んだ場所へと、忍び足で移動している最中だった。
長居は無用。そう判断した桂は、素早く音を立て無いように移動した。
茜は今頃、どうしているだろうか。
恐らく、学校の時間まで待ちきれずに来るハズだ。和美は今日も今日とて、男の家だ。
実行するなら今日。茜が来る前までに、なんとしても終わらせなければ。
桂の脳内の少女は、悲しそうに笑っている。
仕方ないだろ、ごめん。
桂は目当ての場所へ辿り着くと、土を掘り返す。漂う死臭に、思わず顔を歪めた。
だが時間がない。必死に持参のスコップで土を掘る。やがてがつん、とした手応えに、桂はスコップを放り、手で木の蓋を開けた。
そこに、少女は存、在、し、た、
今でも眠るような彼女。背が少し伸び、髪も腰まで伸びて居た。
相変わらずなのは肌が青白く、目を開ける気配のない事くらいだ。
まるで、あの日から昏睡状態のようなーー。
桂は神にでも触れるかのような気持ちで少女に触れる。たが、気分は穏やかだ。
「・・・・久しぶり。ごめん、申し訳ないんだけどーーーーーーー
目を、貰うね。」
無表情でそう呟くと桂は、彼女の瞼に指を載せ、一気に力を入れる。
生々しい感触と、血の臭い。
躊躇わず、桂は彼女から片眼を引き千切った。
血が勢いよく飛び散る。
あーあ。着替え持ってきて良かったな。
ぼんやりと、桂はそんな事を考えながら眼を薬瓶へと仕舞う。
それから少女の身体から血を拭き、木の蓋をして元通りに土を被せた。
服を着替えると元着ていた服は地面へと埋めた。血を拭いたタオルもだ。
そして、元来た道を辿る。
「・・・随分、早起きなんだな。ガキ。」
その言葉に桂は後ろを振り向く。
其処には、全身黒服を身に纏った白髪の男が、煙草を吹かしながら立っていた。
(・・・見られて居た?)
いや、そんな事よりも。気配の察知に長けている自分が、この男の気配がわからなかったというのか。
そんな事を思いながら、桂は男に背を向ける。
「・・・・お前の想い人は、随分中途半端なんだな。」
男は不敵に笑う。
桂はその言葉に足を止め、男を振りかえった。
「見えるのさ。俺には。全部な。お前の計画を助けてやる。キツくなったらそこに連絡しろ。待ってる。あぁ、それからーーー
俺も、お前と同じ種類の人間だ。俺は、眼。」
男はそれだけ桂の耳元で囁くと、またな、と笑い、消えた。
桂の手元には、連絡先の書かれた紙が風に吹かれ、ぱたぱたと音を立てていた。
桂は、無表情で手元の紙を見つめた。




