表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の灯  作者: えるま
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/44

第十二話

「おい、これは……どういう状況だ?」


 ロウェルは眉を顰めた。

 

 陽が落ちて数時間、駐在所の一般窓口はとうに閉まっている。

 珍しく鳴った裏口の呼び鈴に応じてみれば、今日は直帰のはずだったエリオットが、汗まみれになって立っていたのだ。

 

 背には本人より身長の高い人物が背負われている。

 フェンリルは肩を上下させながら、乱暴に額の汗を拭った。


「とりあえず、中に、入れろ」

 

 ***


 一瞬呼吸が止まった。


 魔族の男が崩れ落ち、エリオットの肩口に寄りかかる。

 フェンリルの心臓が熱くなり、息が上がった。


 一体何が起こったのか。

 頭だけは冷静に理解していた。


 【魔王】の特権を使ってしまった、と。


 それは【魔王】という称号を手に入れた魔族だけが使用できる特別な魔法。

 相手がこちらに恐れを抱くことが発動条件で、半強制的に従わせられる。

 武を持って武を制する、実に魔族らしい特権だった。


「……おい」


 フェンリルは魔族の男の背中を叩いた。

 呼吸音はする。

 その事にひとまず息を吐くが、同時に頭が冷えていった。


 (……最悪だ。)


 フェンリルは、歯を食いしばる。


 彼はこの特権が嫌いだった。

 

 幼少期に連れてこられたフギンが、この特権のせいで、無理やり元【魔王】の為に魔法の研究をさせられていたからだ。

 

 そんな忌み嫌っていたものを自分も使ってしまった。

 その事を寄りかかる男の重さと一緒に、少しずつ実感してしまう。

 しかし、やってしまった後悔を、夜の闇と寒さが許さなかった。

 

「とにかく、ここから降りねぇと……」


 白い息を漏らし、フェンリルが呟く。


 手段はともかく、何か知っていそうな者は確保できた。

 あとはロウェルに任せればいいだろうと、フェンリルは男を背に乗せる。

 駐在兵として働くエリオットの身体でも、自分の身長より高い男は重い。

 フェンリルは思わず、舌打ちをした。

 

「クソッ、重いわ……足元も悪いわ」


 ブツブツ文句を言いながら、せめて何か明かりが欲しいと思った直後、男の服に指が擦れた。

 先ほど破片を擦った傷が開いてしまう。

 

 ……破片。

 何の?


 思い出したフェンリルは、顔を歪めた。

 頼りの魔灯は、先ほど既に木っ端微塵になっていた事を思い出す。

 

 フェンリルは長い長いため息を吐くと、男を背負い直し、雪道を駆けて行く。


 駐在所に辿り着く頃には、フェンリルは汗まみれ。

 腰も足も腕も限界だった。


 ***

 

 ここに来るまでの流れを粗方ロウェルに説明したフェンリルは、力尽きた様に医務室のソファーに身体を倒した。


「……それでコイツは誰なんだ?」


 一先ず医務室のベッドに魔族の男を寝かせたロウェルが尋ねる。

 

「知らねぇ」

 

 ソファーに沈んだまま、フェンリルは答えた。

 

「知らないってお前……さっきもコイツ、フェンリル様って言ってたぞ」

「フギンとの役割分担で、俺は土地の周辺環境整備、あいつは国に賛同する奴らを集めていた。だが、恐らく……」

 

 フェンリルは体を少しだけ起こし、男を見つめる。

 

「鳥系魔族だったから、待機組かもしれない」

「待機組?」

 

 ロウェルは首を傾げる。


「あぁ、賛同者には力が弱いのが多くてな。国の予定地は雪山だったから、整備が整うまで麓で待機するようにフギンが伝えていたみたいだ」

「……迎えは来なかった、か」

 

 ロウェルがこぼした、その言葉にフェンリルは唇を噛んだ。


「そうだよ」


 微かな布団の擦れ音。

 掠れた声が部屋に響く。

 

 起き上がった魔族の男が、長い髪の間から金色の瞳をフェンリルに向けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ