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境界の灯  作者: えるま
第三章

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第十三話

「まずは……ありがとう、運んでくれて」


 魔族の男は髪を整えながら言った。


「流石にオレでもあのままだったら、凍死してたかもだし」


 ロウェルは頭を掻くと、ベッド脇の椅子に座った。

 切り出しづらそうに口を開く。


「あー名前は?」


 男はチラリとロウェルを一瞥すると、フェンリルに顔を向けた。


「安心しろ、こいつは事情を知っている」


 ふぅん、と男は訝しげな顔をする。

 ロウェルから視線を逸らし、「……イユンクス。」と、小さく答えた。


「イユンクス、お前どうして」

「それよりも!」


 フェンリルの言葉に被せて、イユンクスは声を張り上げた。


「……それよりもオレは、どうして貴方がここにいるかを知りたいんだけど」


 彼はじっと、フェンリルを見据える。

 膝に乗った拳は、強く握られていた。


「そう、なるよな」


 フェンリルは言い淀む。


「そうだな……先に言っとくが、俺は今、この身体で、魔力を回復させてる最中だ」


 イユンクスは目を開く。


「どういうこと?」


 困惑で眉間に皺を寄せる。

 それからフェンリルは、少しずつイユンクスに語り始めた。


 国の場所が決まり、あと少しで。という所で、他の派閥から襲撃を受けたこと。

 そこからフギンに命懸けで逃がされたこと。

 北の国の宿場の人間に子狼として、保護されたこと。


 ひょんな事から、フギンから掛けられていた魔法が発動して、この身体に入ってしまったこと。


 ……あれから一年経ったのか。


 フェンリルは話している内に、改めて実感した。


「なるほどね。今フェンリル様は、その人間に協力してるんだ」


「あぁ、世話になっているからな。——だから誘拐事件に関して、知っていることがあれば教えて欲しい」

「……特権使ってんだから、無理やりいうこと聞かせれば良いのに」


 イユンクスは皮肉げに笑う。


「エリオットが言ってただろう、話を聞くって。こいつの意に沿わないことをなるべくしないと約束している。それに俺自身、特権は」


「オレたちの事は、迎えに来てくれなかったのに?」


 イユンクスが寂しげな表情で言った。


 フェンリルの目が見開く。

 視線を彷徨わせ、「それは……」と言葉に詰る。


「……そっちの事は風の噂でなんとなく知ってたよ。待っていた皆は悲しんでいた」


 イユンクスは視線を下げて、辿々しく言葉を続ける。

 掛けられた布団の皺が深くなっていく。


「途中で元の場所へ帰る奴もいたよ? 待っていても仕方ないって」


 そこで彼は一度深呼吸をすると、ゆっくりと視線をフェンリルに向ける。


「——それでも、オレたちは信じていた」


 噛み締めた唇を震わせた。


「待っていたんだよ」


 イユンクスの悲痛な声に、フェンリルは息を呑んだ。


「協力するのは構わない。けど、代わりにオレたちとも約束してよ」


 胸に込み上げてくる言葉から、イユンクスは伝えたい言葉を必死に探す。


「貴方がこの四年間いたような、安心できる場所を……オレたちにも作ってくれるって……!」


 微かに濡れた金色の瞳が、真っ直ぐにフェンリルに見つめる。

 その瞳にフェンリルは、いつか見た朝日を思い出した。


 ***


「国……?それはどういう……?」


 朝焼けに彼の薄羽色の羽が照らされて、美しい色に輝いていたことは、今でもフェンリルの目に焼き付いている。


 共に軟禁されていた中でも、精神的に挫けなかったのは彼——鳥系魔族のフギンが話す人間と過ごした思い出話のおかげだった。


 生まれた時から、【魔王】の素材として生かされ、岩壁越しの景色知らない。

 そんな彼にとって、フギンの話はもちろん、何より楽しそうに語るその姿に心が惹かれた。


 だからこそ、前【魔王】を倒し、燃え尽きた先。

 その時漏れた、場当たり的な言葉に、目を輝かせたフギンの顔がとても嬉しそうで。


 もう一度、その笑顔が見たくて。


 しばらく考えた後日、フェンリルは朝日に照らされる中、口を開いて言ったのだ。


「——魔族の中でも強さはバラバラだ。弱いやつも強いやつもいる。だがそんな奴らを一つにまとめられれば、食いっぱぐれも少しは減るだろ?」


 子供のような絵空ごとを。

回想のフギン目線は「指示したその先」第二話にあります。

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