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境界の灯  作者: えるま
第三章

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第九話

 エリオットは外套(がいとう)の中に収まっている剣の鍔を親指で持ち上げる。


 摘んだ薬草を指で転がしながら、軽く左へ顔を向けた。


「……一人?」


 エリオットは声をひそめて尋ねる。

 

『あぁ、恐らくな。しばらく前から気配があったが、お前の話が正しけりゃ、一般人じゃなさそうだ』

「正直、今日は調査隊としての初動捜査だったんだけどな……」


 ため息を吐くエリオットをハッとフェンリルは鼻で笑う。


『さっさと()した方が、フィオナも安心して眠れるだろ。近づいてきたら遠慮すんなよ?』

「わかっ——……!!」


 会話途中、エリオットは微かな風切り音が聞こえた瞬間、剣を抜いて身を翻す。


 持っていた葉は指から離れ、図板は地面に転がった。

 

 自身の体を庇う様に構えた剣に、何かが弾かれた感触。

 広がった外套が不自然なたわみを見せた。

 それを目だけで確認したエリオットは口を開く。


「魔力の球?!」

『だろうな!』


 エリオットは地面を強く蹴り、攻撃元へ走り出した。


「殺傷能力は低そうだった」

『生捕りにする為だろうよ!』


 左脚で雪を蹴り、斜めへ踏み込む。

 体勢を切り替えた瞬間、木の影に潜む人影を捉えた。


「見つけた」


 視界にとらえたのは——長髪の男。


 雪を蹴り上げ、距離を詰めた。

 よりその姿が、鮮明に映る。


 茶色と橙色の混ざる髪、見開かれた目は金色。

 古めかしい見た目の外套の下は、この季節にしては薄着の様だ。


「やっ、ばっ!」


 男から漏れ出した言葉と同時に、エリオットは牽制に剣を振る。

 仰け反るかと思われた相手の反応は予想を裏切った。

 剣の軌道上、男は腕を前に出したのだ。

 

「!?」


 キンッ!


 軽い剣戟音(けんげきおん)が響き、エリオットの体が弾かれる。

 

『フェンリル、これは以前、君が隊長と戦った時の……』

『同じもんだろうな、魔力の防御壁だ』

 

 剣を構えて、男を見据える。


「……さっきの攻撃は貴方ですか?」

 

「そう言うアンタは、駐在兵の人?」


 男は軽口で両手を上げた。


「いやぁ、この辺りで不審者が出るって聞いたもんだから、つい先走ってしまいました」

 

 男は申し訳なさそうに笑った。

 

「……貴方はこのあたりの人じゃなさそうだ」

 

「それはどう言う意味です?」

 

 エリオットは、男を見る。


「近隣住民には調査する告知は昨日済んでいるし、この林道の麓には規制線が貼ってある。一般人は普通入らない」


 男は変わらない笑顔を向けていた。


「それは……すいません。脇道から入ったから、規制線に気づきませんでした」

 

「それから」


 エリオットは相手の発言を遮る様に、言葉を発した。


「貴方が先ほど使った防御壁——詠唱、していませんよね? いくら高位の魔術師でも、略式はあっても無詠唱はあり得ない」


 エリオットは喉を鳴らす。


「貴方は……魔族、ですか?」

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