第六話
「――昨日通報を受けて、当直の駐在員が現場検証した所、中央の国で発生している連続誘拐事件と状況が酷似していた」
定刻に始まった朝礼は、普段よりも緊張感があった。
ロウェルは、静まっている駐在員を見渡す。
「……但し、模倣犯の可能性もあるからな。俺が編成した調査班で調査。他の駐在兵は、通常業務に加えて見回りを強化してもらう。職員は一般人を不安にさせないよう努めるように――以上だ」
***
朝礼を終え、通常業務に戻る職員たちの中。
同じく見回りに向かうエリオットの肩に、後ろから手が置かれた。
「エリオット、お前は調査班だ」
エリオットが振り返ると、そこにいたのはロウェル。
告げられた内容にエリオットは瞬き、戸惑いを見せる。
「え? でも見回りが」
「隣の区分けの奴のルートを変更して貰った。ほら、会議室に来い」
促されるままロウェルの後について行く。
エリオットが会議室に入ると、ロウェルは周りの様子を確認してから、部屋の鍵を閉めた。
「……隊長?」
「急に悪いな、お前に初動捜査の経験を積ませたいのもあるが……気になる噂があってな」
「噂?」
ロウェルは「あぁ。」と頷く。
「誘拐を、魔族がやってるって噂がな」
その言葉にエリオットの体が、揺れた。
「……知らねぇぞ、俺は」
「もちろん根拠はない。ただ中央の方でそういう噂があるってだけだ」
「つまり、お前は俺ごとエリオットを使うつもりってことか?」
「誤解すんな、噂は噂。エリオットに経験を積ませたいのも本当のことだし、仮に魔族が一枚噛んでるなら、事情を知ってる奴がいるなら、御の字ってことだよ」
「魔族ならその場で殺すだろ……それに前も言ったが、これはあくまで人間の事情。俺には関係――」
ない。と紡ごうとした言葉が途切れる。
「なくはないんだよ、フェンリル」
『お前、途中で切りやがって。関係なくないってどういうことだよ』
苛立ちの声が頭に響く。
エリオットは一度息を吐くと、静かに言った。
「駐在員向けの新聞には、この間見せた、フィオナたちに届く新聞より、事件の詳細が載っているんだ。誘拐された人たちの特徴とかね」
そこでエリオットは、一度ロウェルに確認するために目を向けた。
「どっちみち、お前の体にいるんなら、遅かれ早かれ聴かれるだろ」
エリオットは「ありがとうございます。」と軽く頭を下げると、口を開く。
「誘拐された人の特徴は、多少の色の違いはあるけど、金髪碧眼の人が狙われている」
フェンリルは、すぐにその意味を理解した。
その動揺は、エリオットにも伝わる。
けれど、敢えて口に出す。
自分に言い聞かせるようにして。
「つまり……誘拐の対象に、もしかしたら、フィオナも入るかもしれないってことだよ」
***
「……まず言っとくが、魔族だったら確実にその場で殺す。その噂の根拠はなんなんだ?」
会議室の椅子を踏ん反り返るように座ったフェンリルが言った。
ロウェルと話してもらうために、主導権を一時的に譲ってはいるが、エリオットは気が気でない。
ロウェルはその様子を苦笑いしながら、腕を組む。
「誘拐現場の目撃者は何人かいたし、兵士が追いかけた事例もあったんだが、すぐに見失うって話らしい」
「それだけで魔族っていうのは無理があるだろ」
「まぁ聞けよ。まず追いかけた兵士の能力を疑うだろうが、その事例は中央の国だ。王都の警備兵は精鋭の中の精鋭が揃っている。ヘマはないと思っていい」
ロウェルは人差し指を立てた。
「あとは……魔術師が魔法で姿を消してる線もあるが、それこそ可能性はない」
二本目の指を立てようとしたロウェルに、フェンリルは怪訝な顔を向けた。
「何故? それが一番分かりやすいだろ」
「魔術師は心や精神に干渉する魔法は世界樹との誓約で使えないことになっている。目眩しもその辺りに引っ掛かるらしいからな」
「確証はできないだろ」
「……その辺りはエリオットの方が詳しいな。エリオット、説明してくれ」
エリオットの体がぴくりと動くと、「は、はい。」と上擦った声で返事をした。
「昔魔術師は、普通の人たちから恐れられていて、迫害の対象だったんだ。だから世界樹にお願いして、魔術師が普通の人たちに対して、行使できる魔法に制限をかけたんだ」
回復魔法まで制限されたら大変だからね。とエリオットは苦笑した。
フェンリルは『待て』と口を挟む。
『それはどうやって制限をかけているんだ? 確か魔術師は家柄が良いやつくらいしか、魔法の教育を受けてないと聞いたぞ?』
魔術師と一般人の違いは、体内に魔力の貯蔵庫を担う機関の有無だ。
血統で継承しやすいが、稀に血を継いでも貯蔵庫自体ない者も、エリオットのように上等な貯蔵庫を持っていても、魔法の出力ができない者もいる。
逆に一般の家庭から、とても優秀な魔術師が生まれることもなくはない。
魔術師とは、一筋縄ではいかない人種だった。




