第四話
ロウェルは食べ終わった弁当に蓋をして一息つく。
しばらくして、軽く膝を叩くと彼はフェンリルの方に体を向けた。
「それで……どうだったんだ。墓参りは」
ハンバーグを噛みつこうと、丁度口を開いていたフェンリルの動きが止まった。
「……今聞くのかよ」
眉を顰めてフェンリルは唸る。
「悪いな、食ってからで良いぞ」
そのロウェルの言葉に、フェンリルは「待て」から「いいぞ」と言われた犬のように、箸に突き刺したハンバーグに食らいついた。
頬を膨らませて、もしゃもしゃ咀嚼する姿を眺めながら、ロウェルは肘をつく。
満更でもなさそうなフェンリルの食事風景に、ロウェルは目を細めると独り言のように話し出した。
「ここ最近は、どうにも忙しくてな。明日……いや、今日か。さっそく雪かきの依頼が来ている」
額をポリポリ掻くと、仕方がないと肩を竦めた。
「俺は立場上そっちに行かなきゃならない。お前らには申し訳ないんだが、今日話せて良かったよ」
フェンリルは口にソースを付けながら、出来上がった紙の山に目を向ける。
そして、先程までの面倒臭い作業を思い出して苦い顔を浮かべた。
(なんとなく顔色が悪いのは、これだけじゃなかったのか)
思い出したのは、僅かな期間とはいえ集落の長として過ごした日々。
「それは……骨が折れるな」
その言葉は、彼なりの同情だった。
***
「……地図の事は感謝する。良い墓参りが出来た――と思う」
箸を下ろしたフェンリルは、視線を下げるとポツリと言った。
ロウェルは、三年前に見た遺物の魔石を思い出す。
遠吠えをする狼を模した、あの大きな魔石はようやく主に会えたのだ。
「そうか、そりゃあ良かったな」
ロウェルは安堵の声を漏らす。
そして一息置くと、顔を上げた。
「それで出発前に言っていた、スクロールだったか? あれはどうだったんだよ」
ようやく食べ進めようと、ハンバーグへ向かったフェンリルの箸がぴたりと止まった。
大きくため息を吐くと、箸を置く。
「……墓参りに行った夜、あいつが夢に出てきた」
「—―あいつが言うには、元々共生の魔法は不完全で、俺が宿主のエリオットを助けようとすれば、正しい術式に直す手引きが出る仕組みだったらしい」
「夢、ねぇ……」
確認の方法が夢と言う不確定なものに、ロウェルは指で顎を擦る。
そうなるのも仕方ないと、フェンリルは口を開いた。
「夢で言葉を伝えるってのは古い魔法というより、まじないの範疇だからな。信用ならないのも分かる。だが、あいつは魔女と交流があった。やり方を教わっていても不思議じゃない」
(まさか俺も、そんな古い魔法をお目にかかれるとは思わなかったが)
やけに鮮明だった、あの夢の光景を思い出す。
賑やかな街並み。
舞い踊る花びら。
ふわりと浮かぶ、虹色のシャボン玉。
そして、夕暮れに陰る街の人々。
――本当に、魔法だったのだろうか。
実はどこか違う世界で生きているのではないのだろうか。
そんな錯覚してしまいそうになるフギンの魔法に、フェンリルは口元のソースも拭わず、夢の中での出来事を噛みしめるように、小さく笑みを浮かべた。
「つまり、フギンはお前とエリオットが共生の魔法をかけられる関係になれると信じていたんだな」
「……結果的に見れば、そういう事だな」
それならば――これ以上何か言うのも野暮だろう。
ロウェルは最後に、確かめる為に口を開く。
「それで解決したってんなら俺からは何もいう事はない。その共生の魔法とやらに関して、エリオットと話はしたんだよな?」
一つ釘を刺すように、フェンリルをじっと見る。
「当たり前だ」
間髪を入れず答えるフェンリルに、ロウェルは口端を上げた。
「なら、それで良い。この件はとりあえず解決って事だ」
引っかかっていた問題が一つ片付いたことに、ロウェルは肩の力が少しだけ抜ける。
少なくとも今日は、エリオットが目覚めないことを心配しなくてもよさそうだ。




