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光の草原

来ていただいてありがとうございます。





死者の船から下を見ると今の状況か良く分かった。クオーツ王国の王都からあの邪気の森の間には、草原が広がってる。最初に私がいた草原だ。邪霊と魔物の群れは真っ直ぐに王都へ向けて進んでいる。幸いなのは間に町や村が無いことだ。


某遊園地のフロートみたいな乗り物が、王都を取り囲む壁にある大きな門から出て来ていた。邪霊の行進に向かっていってるみたいだ。このまま行けば草原の中央辺りでぶつかりそう。


「茉莉花とフローラが舞台みたいな場所に立ってる」

上空にいた私達にはクオーツ王国の聖神官達や兵士達が、二人の乗ってる乗り物の後について来ているのが見えた。

「行くよ……」

クリスが私を抱きかかえて飛び降りた。私はクリスの首に抱きついた。

「きゃあああああっ……?」

柔らかな浮遊感。

「安心して。風の魔術の応用だよ」


私達は無事に地上へ降り立つことができた。

「クリスってすごい……!なんでもできるんだね」

クリスって魔力自体も強いけど、すっごく器用なんだよね。きっとたくさん勉強したんだろうな……。そういうとこ尊敬しちゃう。

「惚れ直した?」

「うん!」

「…………やっぱりあの時、手を出しておけばよかった……」

「え?」

「何でもない。さっさとこの騒ぎを終わらせよう」

クリスは大きなため息をついた。




「天音!クリストフェルさん!無事だったんですね!良かった!!」

フローラが涙目で抱きついてきた。私達が邪霊の闇に飲まれてから、ほぼ一日が経過していた。私達は死者の船にいた事とそこで聞いた事をその場にいたみんなに説明した。


「クリストフェル様御無事で……」

「ああ、すまない。心配をかけた。トール」

「……!はいっ!」

トールさんも涙ぐんでる。


「おいおい、随分派手な登場だな。今度の舞台演出で使えそうだ」

アルスター座長がにかっと笑って私の頭を撫でた。

「心配かけちゃってごめんなさい……」

「おう、二人とも説教は後でゆっくりな!今はそうも言ってられねぇからな」

アルスター座長は彼方を見据える。うごめく黒い大きな影が近づいてきている。




舞台の一番上には茉莉花とフローラ、そして私が立つ。私は下でいいって言ったんだけど聞き入れられなかった。


「そら!」

アルスター座長は私にメルバを渡してきた。バンド時代を思い出しちゃうな。時代って言ってもつい最近までやってたんだけどね。茉莉花のソプラノ、フローラのメゾソプラノ、私のアルトとメルバの演奏で精霊の癒し歌を歌う。三人の歌が合わさって強力な浄化の力を放つ。先頭にいた邪霊達を浄化する。


一段下にはクオーツ王国の浄化の魔術師達が何人も並んでいる。クリスやアルスター座長、トールさんや、クオーツ王国の聖神官達は、大聖神官クレールと王太子様の指示の下、近づいて来る邪霊や魔物達を倒していく。後で復活してしまうって分かっていてもとりあえずは数を減らさなければどうにもならない。


そういえば、出発前に茉莉花が旦那様である王太子様を激励する姿は聖神官や兵士さん達をとても感動させて、鼓舞させたそうだ。士気がとても上がったんだって、フローラが教えてくれた。茉莉花は王太子様のルートを選んだんだ。ほかの攻略対象者はどうなったんだろう?この場にいるんだろうか?








気が付けばもう午後の遅い時間になっていた。もうすぐ日が暮れてしまう。交代で食事や休憩をとりながら浄化や戦いを繰り返していくけれど、浄化しても浄化してもきりが無かった。次第に私達は疲労が溜まっていった。


「このままじゃ、ジリ貧だぞ……」

アルスター座長の顔にも焦りが見える。

「ひとまず、俺がこの辺り一帯を魔術で散らすっ」

クリスが爆発するような魔術を放つ。


「すごいっ……」

周囲の人達から驚愕の声が上がる。クリスが味方で良かった……。

「ああ、クリストフェルさんが天音さんにメロメロで良かったー!!」

「フローラっ言い方!!」

「これで少しは時間稼ぎができますね」

安堵のため息のトールさん。


「ケイン……」

少し離れたところで邪霊の群れを見つめる茉莉花。最後尾には今では大きな異形の魔物になってしまっているケインだったものがゆっくりと近づいてきている。ケインは聖神官だった人だ。知ってる人があんなことになって茉莉花も辛いんだろうな……。


どうしてあのケインはクオーツ王国へ向かってくるんだろう?ゲームでクリスがラスボスになったのは、クオーツ王国の人々を憎んでたから。クオーツ王国を滅ぼそうとするんだよね?でも、ケインは……?ゲームの強制力で身代わりになった?それとも彼が前に言ってたように他の聖女の存在が許せない?それなら、フローラとか、私を目指して来てる?だったら私がケインの闇に飲まれた時に、私を殺しに来なかったのはどうしてだろう?疑問が浮かぶけれど、答えは出なかった。






夕闇が近づいた頃、近づいて来ていた小さな邪霊を浄化した。光を放つ小さな女の子の姿になった。ケインが集めた邪霊達とは別で草原を彷徨っていたらしかった。その子を邪霊にしていたのは寂しい気持ちみたいだった。


精霊鳥と一緒に死者の船へ昇っていくように言うと泣き出してしまった。お父さんとお母さんがいないって。後ろから一体の邪霊が近づいて来た。

「おとうさん!おかあさん!」

止める間もなく邪霊に抱き着く小さな女の子。また、邪霊に戻ってしまう!そう思ったその時、大きな邪霊は二つに分かれ、農夫のような姿の男性と女性の姿になった。伝わって来たのは愛しい子と再会できた喜び。それが光となって三人を包んでいる。


「元に戻った……。…………そうか、これだ!みんなに手伝ってもらえばいいんだ」

悪いものが伝染するのなら……良いものも伝わっていかないとおかしいよね……。私は精霊の癒し歌をほんの少し歌詞を変えて歌った。浄化した魂達にお願いした。みんなのことも助けてあげて欲しいって。


家族の元へ友達の元へ、恩人の元へ。浄化された魂達が次々と他の魂達を浄化していく。ポツンポツンと闇の中に光が灯り始める。


「何が起こってるの?」

茉莉花が呟く。でも、説明してる暇はない。

「茉莉花、フローラ!もう一度全力で歌って!」

「っ!わかりましたわ!」

フローラは何かを感じ取ってくれたみたいだ。

二人は歌い始める。


そして私は神の祝い唄を二人の癒しの歌に添うように、重ねて歌う。メルバで癒し歌を奏でながら。やっぱりこの唄は癒し歌に合わせるように、そして強めるように出来ている。ううん反対かもしれないけど、どちらでもいいや。


遠く遠く、歌が彼方まで響き渡るように歌詞をアレンジしながら、歌い続けた。


邪霊達が浄化され、あるものは精霊鳥に導かれて死者の船へ。そしてあるものは親や子を友人を祖父や祖母を、縁ある者を見つけて引き寄せられるようにその魂の元へ。闇を癒して光に変えていった。




次第に光が闇を圧倒していった。草原に無数の光が生まれ、まるで星空のようだった。


光の奔流が死者の船へ昇っていく。付き添うのは精霊鳥達。



そして最後に残ったのは……


「セイジョマリカサマ……オレノユイイツノヒカリ……」


邪気をそがれ、黒い闇のかかった姿のケイン。

「大丈夫よ。あなたはわたしが浄化して差し上げますわ」

茉莉花がケインを抱きしめた。

「あなたを選んであげられなくてごめんなさい……」


「マリカさま……」

ケインが茉莉花の力で清らかな魂となって、穏やかな微笑みを浮かべて、死者の船に昇っていった。


ケインは攻略対象者だったの……?



静まり返った暗い草原に茉莉花の静かな泣き声が聞こえていた。








ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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