死者の船の真実
来ていただいてありがとうございます。
鳥が鳴いた。
その瞬間、私とクリスの周囲を光が包んだ。眩しさに目を閉じた。
次に目を開けた時、そこにもう闇も邪気も無かった。
「ここは……」
クリスと私は自然に手を繋いでいた。
「船?」
大きな帆が見える。それと甲板のような床?帆船に乗ったことは無いけれど、そうなんじゃないかなって感じ。ただ、木でできた船じゃないみたいだ。ツヤツヤした石?大理石?
そして、空!圧倒的に広い空!!綺麗な青空。クリスの目の色。
「空に浮かぶ船……。死者の船の上にいるのか?」
クリスが呟く。
「私達、死んじゃったの?」
「どうだろう?まあ、俺はあまねが一緒ならどこでもいいけど……」
「クリス…………」
ちょっと照れくさくて、私はクリスの手を握る手に力を込めた。クリスの大きな手が同じように返してくれる。
ピリリリリリリィ…………
また鳥が鳴いた。声のする方へ目を向けると、舳先の方に人が座ってた。ううん正確には……
「あまねと同じ……」
大きな透き通った結晶の中に人が座ってた。そうか、私はこんな風に結晶の中に入ってたんだ……。鳥は結晶の上に止まってた。
「精霊鳥……」
「あの綺麗な鳥は精霊鳥っていうんだね」
私達は手を繋いだまま結晶の人に近づいて行った。白っぽい長い服を着た、髪も白くて長い綺麗な人。
『よく来てくれた。力ある者よ、そして我らの眷属の子よ』
声が聞こえた。この人が喋ってるの?結晶が光って溶けるように消えていった。立ち上がったその白い人は優しく笑った。
『天音、神の祝い唄を歌ってくれてありがとう。おかげで少しだけ時間が出来た』
「神の祝い歌……?さっきの歌の事?」
あの闇の中で、突然頭の中に浮かんできた旋律と歌詞。精霊の癒し歌と似てる歌。
『この世界には戦いが溢れている。この地には悲しくそして悪意に満ちた魂が呼び寄せられてくる。私の浄化と送りは間に合わない』
「戦い……戦争?」
「ああ、この辺りは平和だけど、少し離れたところでは戦が絶えない国がいくつもあるって聞くね」
クリスは王族だっただけあって、そういう知識がたくさんあるんだね。
「そうなんだ……あ、フローラが言ってた霊場って……」
『そう……この辺りは魂達が集まりやすい場所となっている。だから、神はこの死者の船をお創りになった。そして私は魂達を夜の国へ送る役目を与えられている。この精霊鳥達も……』
「わあ!」
いつの間にか私達の周りには色とりどりの鳥達が集まって来ていた。
『私は貴女に謝らなければならない。すまない、天音』
「え?どういうことですか?」
『貴女をこの世界へ呼んだのは私だ。私の名はライゼン。精霊界の端に存在するもの』
茉莉花がこの世界に呼ばれた時、世界と世界が繋がった。その時にライゼンさんはとても弱っていて力を欲していたそうだ。そして見つけたのが私。ライゼンさんと同じような力を持っているそうで……。ちょっと信じられないけど……。
「うん。あまねはやっぱりそうだったんだね」
クリスは何だか納得したみたいだった。
ただ、その時は私を茉莉花のついでにこの世界へ呼び寄せるのが精一杯だった。まさかいきなり命の危険にさらされるとは思わず、私の力を使って私を結晶の中に保護した。それが私の突然の結晶化の種明かし。私は何となくなんだけど、ゲームの強制力もあったのかな?って今は思ってる。聖女っぽい存在が二人じゃシナリオがおかしくなってくるから。
十年前には茉莉花が危機を救った。もしも茉莉花が頑張らなかったら、クオーツ王国は今頃邪霊や魔物の闊歩する恐ろしい場所になっていたそうだ。
「フーン、あの聖女サマがね……」
クリスは少し不満顔だ。
『この船は死した魂の旅立ちを見送る船。しかし、この世に未練を残したままここへやってくることが多い。戦の中で犠牲になった者達は特に……』
ライゼンさんの声に悲しみが混じる。
『そういった魂は夜の国へ、そして新たな旅へ出ることが出来ずにこの世を彷徨う。そしてその暗い心を伝染させてしまうのだ』
「それで、死者の船から邪霊たちが溢れてくる、『魔の船』化が起こるのか。邪気の森が出現したのは、戦が激化したからなのか?」
『おそらく。そして私の力が衰えていることもある。異世界から聖なる力を持つものを招かねばならないくらいに。悪循環に陥っているのだ、この世界は』
ライゼンさんはすぐに私を助けようとしたそうだけど、自分も邪霊達に襲われて結晶の中に逃げたそうだ。精霊鳥が連れてくる清らかな魂を扉を開けて夜の国へ送るために。ライゼンさんでも長い間邪気にさらされればどうなるか分からない。結晶は強い浄化の力があって邪霊をろ過するように浄化できるのだそうだ。
『今、この世界に招かれた力あるものは三人』
あ、そこはゲームの設定と一緒なんだ……。
『その中で一番強い力を持つ者が、貴女だ、天音』
「へ?」
我ながら、すっごい間抜けな声が出たと思う。
『天音の歌で一瞬ではあるがあの大きな邪気の塊が晴れ、この船へ招くことが出来た。そしてこの船に至っては今、皆が守ってくれている』
「皆?」
周りには精霊鳥しかいない……ううん!違う!光が……!精霊鳥に交じって光がたくさん浮いてる。あれは……。
「アニスさん?!」
その中の一つが人の形になった。隣にはジェスさんもいる。
「あの時あまねが浄化した邪霊達か!」
『貴女が浄化した魂はわずかながら聖なる力を宿している。この船は今彼らによって邪霊達から守られている。だが、それもいつまで続くかわからない』
パシリッと何かが弾かれる音がする。船の外に黒い影が見える。邪霊が船に乗り込もうとして見えない壁のようなものに弾かれたみたい。
『邪霊達も救われたいのだ。本能的にここを目指してくる。だが、私の力が足りないばかりに全てを癒すことが出来ないのだ。天音、力を貸して欲しい。先程生まれてしまった大きな邪霊は魔物と化して全てを飲み込んでしまうかもしれない』
「具体的にはどうしたらいいんだ?俺が魔術で吹っ飛ばせばいいんじゃないのか?」
クリスがパキパキと指を鳴らす。クリスってけっこう好戦的だよね?アルスター座長の影響?
『一時的に邪霊を散らす事は出来る。しかしやがてそれらは再び集まってしまうのだ』
「!じゃあ、魔術では完全に消し去ることはできないということか……。それも魔の船化が定期的に起こる原因だったのか」
クリスが顔を曇らせてる。
『力を合わせて浄化を。合わせることで、更なる大きな力になる……』
ライゼンさんの体がほんのりと光始めて、結晶が体を包み始めた。フローラの言う通り三人で力を合わせて浄化をするんだ……。でも、何か、それだけじゃない何かがあるような気がするんだけど……。
考え込んでいた私にクリスが声をかけた。船の下を見てたみたい。
「あまね!邪霊、いやもうあれは魔物だな……。動き始めた!クオーツ王国へ向かってるみたいだ」
『我らの眷属の子よ。呪われし運命を跳ね除けし子よ。どうかその尊き方を守って差し上げて欲しい。その方はそなたをも救ったのだから……』
「何を言ってるのか良く分からないが、俺はあまねを一生守るつもりだ。貴方に言われるまでもない」
クリスはそう言って私のそばへ戻って来た。
ライゼンさんは微笑むと結晶の中に再び閉じ込められた。
『すまない……。頼んだ……』
黒い闇の行進が始まった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。




