こうして世界を旅することになりました
来ていただいてありがとうございます。
何一つ終わってない。そして何一つ変わってない。
ただ、大きな危機が一度去っただけ。
次の日の夜、お城では祝勝会が行われた。城下の街でもお祭りみたいになってる。茉莉花は最初に挨拶だけして後はもう顔を出さなかった。まだ、ケインの事を気にしてるんだろうって思ってたけど、おめでたの体調不良だった。茉莉花は結構王太子様に大切にされてるみたいでちょっと安心した。実はもう三人目なんだって。クオーツ王国は安泰だね。
クオーツ王国では聖女マリカ様に導かれた聖なる歌い手が手伝って、今回の危機を救ったことになってる。他国に対する政治的な思惑があるみたいで、そうすることで私達の自由は保障されるみたい。つまり手柄はこっちに寄越せってことだよね。
「天音が一番頑張ったのに!」
なんてフローラはプリプリ怒ってたけど、あまり目立たない方がいいってアルスター座長に宥められてた。みんなで頑張って今回の結果があるから、どう世の中に伝えられても私は構わないって思ってる。ただ、お城の中には私とフローラに茉莉花と共に留まらせようとする人達がいて、それにはすごく困った。何度も断ったんだけど、しつこくて……。
「ああ、あまねの意思を無視するなら、俺がこの城ごと吹っ飛ばしてあげるよ」
そんな人達も、クリスの一言でみんな黙ってしまったけど。
「ホントにクリスはラスボスっぽいな。カッコいいけど」
お城のバルコニーに肘をついて呟いた私に、隣で同じようにしてたフローラが言ってきた。
「……砂糖をはきそうです……」
「何よ、フローラだってしっかりトールさんを捕まえてるじゃない」
「えっへへへへっ」
フローラが溶けたような顔で笑い出した。うわあ!その顔は駄目だぁ!!
「ほら!顔!精霊の里のお姫様が台無し」
私は思わず周りを見渡した。良かった、誰も見てないみたい。
「こほんっ」
「ぷっ」
「「あははははは」」
ゲームのシナリオとは随分と違ってしまったけど、何とか世界が壊れてしまうのを防ぐことができた。賑やかな祝勝会の会場の外で私達は二人で笑い合った。
祝勝会の後、私達はお城に用意された部屋で休ませてもらった。夜中にクリスが私の部屋へ訪ねてきた。
「これからどうする?」
クリスに尋ねられて私は少し考えた。
私はゲームを未プレイだけど、この後は誰にも予測がつかない時間になるんだろう。悲しいけれど、この世界も人同士、国同士の諍いは無くならないだろうから。そして邪霊、ううん悲しい魂が生まれ続けるから。でも、今回みたいな決定的な危機を避けることはできるかもしれないから。
「できれば私は世界を旅して、邪霊を浄化していきたいなって思ってる」
「うん。何となくあまねはそう言うんじゃないかなって思ってた。じゃあ、師匠の一座に入れてもらおう」
「え?あ、そうか。そうだね!」
そうすれば自然に歌いながら浄化をすることができる。すごくいい考えだと思う。
「でもクリスは……」
「楽器くらい俺も出来るよ。それに用心棒もいた方がいいでしょ?」
「そうじゃなくて……」
今回のクリスやフローラの活躍はお城の人達にも伝わってて、オッドアイや紫色の目への誤解は解け始めたみたい。本当は王宮へ戻って欲しいって王太子様から言われてたんだけど、
「俺はただの冒険者だ。戻る場所なんてない」
ってすぐに断ってた。
「俺の居場所はあまねの隣だ。俺はあまねを王宮に置いておく気は無いよ。だから一緒に行くよ」
「それと、これ……ずっと渡そうって思ってたんだけど……」
クリスが差し出したのは小さな指輪だった。紫色の綺麗な宝石がはまってる。
「母の形見なんだ。受け取って欲しい。婚約の証として」
「こ、婚約?」
「言ったよね?前、ずっとそばにいて欲しいって」
「あ、」
勢い余って私、プロポ―ズしてた…………。
クリスは私の前に跪いて私の左手をそっと取った。
「私、クリストフェルはあまね、貴女に結婚を申し込みます。受けていただけますか?」
クリスの真剣なまなざしに射抜かれて私はしばらく声が出なかった。
「…………ふ、不束者ですがっよろしくお願いしますっ」
私は頭を下げた。ああ、なんかこんなんじゃない気もするけど、他に言葉が出なかった……。
クリスはふっと優しく笑うと私の指に指輪をはめて口付けた。うわぁ王子様みたい……。ううん、クリスは王子様なんだよね。それなのに私の為に……、良かったの?私の不安が伝わったのかクリスは立ち上がると私を抱きしめた。
「ドレスや宝石はないけど、ずっとあまねのそばにいる」
「う、ううん、そんなの要らないよっ」
「……だから、俺から離れていかないで」
「うん。クリスもだよ?絶対だからね?」
こうして私達は二人だけの結婚の約束をした。そして今までで一番優しいキスの後、私は一晩中クリスの思いを受け止めることになったのだった。
お城を出た後、私とクリスはアルスター座長に一座に入れて欲しいってお願いした。
「おう!そいつはちょうど良かった。どうやってあまねをスカウトしようか考えてたんだぜ?」
アルスター座長はにかっと笑って爽やかに片目を瞑った。
「それに、クリスも一緒なら一座は安心だな。ただ、楽器か舞か歌のどれかをやってもらうけどな!」
「俺はメルバを弾きますよ。あまねが弾いてるの見て覚えましたから」
見ただけで覚えたの?すごい!クリスってホントに器用なんだな……。
「私はフローラ様と精霊の里へ参ります。クリストフェル様はもうお一人で大丈夫ですから」
トールさんは優しく微笑むと、頭を下げた。
「あまね様、クリストフェル様をよろしくお願いいたします」
トールさんはフローラと両想いになって、フローラを守って生きていくことにしたみたいだ。私はクリスが心配になった。
「別に、会えなくなる訳じゃない。いつでも精霊の里へ行けるんだから。…………でもそうだな、トール、今までありがとう。俺を守ってくれて」
「クリストフェル様……」
トールさん感極まって泣き出しちゃった。フローラが背中をさすってる。私はクリスが涙を堪えてたの知ってるよ。我慢しなくてもいいのにね。私はクリスの手をそっと握った。力を込めて握り返してくれた手はとても温かかった。
茉莉花はきっとこの後も聖女として、そしていずれはクオーツ王国の王妃としてこの国を守っていくんだろうな。
フローラとトールさんは精霊の里で、辛い思いをして社会にいられなくなった人達を迎え入れていく。
私とクリスはアルスター座長の一座に温かく迎え入れてもらった。十年前の事を覚えてる人が殆どで、「家族」の私が無事に帰ってきたことを喜んでくれた。そして、クリスは一時期、一座にいたことがあったそうで、みんなとも顔見知りだった。そうか、アルスター座長がクリスに実戦的な戦い方を教えたんだもんね。
私はあの後、一人でも人前で歌えるようになった。大変な経験をしたからかな?ちょっと嫌だったけど、「浄化の歌姫」とか「星の歌姫」とか呼ばれるようになった。
こうして私は異世界を元王子様と旅をし続けることになった。
ううん、ちょっと違うかな。
こうして私はこの世界を旅をすることになった。大好きな歌を歌いながら。大好きな人と一緒に。
ここまでお読みいただいてありがとうございました。
この物語はこれで最終話となります。
読んでくださった皆様が少しでも楽しんでいただけましたらとても幸せです。
本当にありがとうございました!
投稿時にミスがあり、投降し直しになってしまったことをお詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。




