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変化(へんげ)

来ていただいてありがとうございます。


変化 



鳥は見ていた。どこからともなく闇がぽつりぽつりと黒い絵の具を垂らしたようにその森に現れるのを。


光の聖女って何だ?星の聖女って何なんだよ!聖女はクオーツ王国のマリカ様だけだ!マリカ様だけが俺たちを救ってくださったんだ!マリカ様の力が落ちただと?そんなことはあり得ない!!!許せない、許せない、ユルセナイ……!!!


鳥は聞いていた。その男の呪詛のようなつぶやきを。



「おい、ケインどうしたんだ?顔色が悪いぞ。ガーネット王国の牢獄なんぞに閉じ込められて、体調も戻ってないんだから今は休養を取るように大聖神官様から言われてただろう?」

「そうだぞ。こんな所で立ってなくていいから、テントで休めよ」

「それにしても、災難だったな、ガーネット王国の聖女の調査中に間違って拘束されるなんてさ」


聖女マリカについて来ていたクオーツ王国の聖神官達はまだ気が付かない。自分たちが浄化した森の周りに黒く濃密な靄のような影が集まりつつあることを。


「……なんていない」


「え?」

「どうした?ケイン」




『もう、大丈夫ですわ』

暖かな微笑み

『わたくしが全て浄化いたします』

女神のような清らかさ

『怖かったですね。よく頑張ってくださいましたね』

優しい声


ああ、聖女マリカ様……俺の全て……




「ガーネット王国に聖女なんていないっ!聖女はマリカ様だけだっ!!」

影達がケインと呼ばれた聖神官に集まる。

「他はみんな偽物だ!!」


「「「うわあああああっ」」」


鳥は飛び立った。それを見届けたのちに。空高くへと。










「!」

「!」

フローラとクリスが同時に顔を上げた。テントの入り口を見てる。


「あ」

遅ればせながら私にも分かった。


「こいはつはやべぇな……」

「はい」

アルスター座長とトールさんは剣の柄に手をかけ、抜き放つ。


物凄く濃い邪霊の気配。ううん、これはちょっと違うかもしれない。どうして?さっきまではこんなんじゃなかったのに。


「何よ、これ……。この森はもう大丈夫なはずよ!ちゃんとコアの邪霊は浄化したわっ」

さすが聖女、茉莉花にも分かったみたい。

「生きている人間の気配が消えてしまったようですね」

茉莉花がクレールと呼んだ大聖神官という人も険しい顔をしている。人の気配が無いってことはつまり……。


「いやがるな。すぐ外に」

アルスター座長が大剣を構えるけど、こんな狭い場所で剣なんて振れるの?


「ニせモノ、ココカ」

布製のテントの入り口に黒い手形が付いた。そこからどろりと布が溶けていく。小さな穴が大きな穴へ。やがて姿を見せたのは……。

「あ、あいつはっ!」

アルスター座長が声を上げる。

「あの時の誘拐犯」

トールさんが剣を構えたままフローラの前へ移動する。私を誘拐しようとしてた男の人だった。いつ牢屋から出たんだろう?


「ケイン!なぜここに!城で謹慎しているように申し渡してあったのに」

クレール大聖神官が呟いた。あ、そういうことか……。

「へえ……。あまねを殺そうとしたのはお前達の差し金か」

クリスの殺気がクレール大聖神官と茉莉花へ向かう。視線はケインと呼ばれた聖神官に向けたまま。


「殺す?違うわっ!私は結晶の女の子と話がしたいから、連れてきてほしいって頼んだだけよ?」

茉莉花が焦って答える。

「その通りです。ガーネット王国に現れた黒髪の聖女を連れてくるように命じただけです。少々手荒でも良いとは言いましたが、まさか、逮捕されるようなことをしでかすとは……」

誘拐事件の黒幕はこの人だったみたい。

「へえ、手荒でいい、ねぇ……」

クリスの殺気が更に膨れ上がった。



「セイジョハ、まリカ、サマ、ダけ」

闇がさらに深くなる。ううん違う。ケインと呼ばれた聖神官の周囲に人の形をした影が集まってくる。あれはさっきまで外にいた人達?ケインの顔色はもう、どす黒くなってしまってる。


「フローラ!精霊の癒し歌をっ!」

私は叫んだ。でも、

「いいえ、ここまで来てしまうともう……。皆さん、飛びますっ私の近くへっ!」

フローラはもう、転移の魔術を発動しようとしてた。


「ニガサナい」

ケインは私の方へ向かってきた。

「させるかっ!」

クリスが剣で受ける。ケインの周りの邪霊たちがクリスを取り囲む。クリスは魔術の盾を展開した。


「クリスッ!!」

私はクリスに手を伸ばしたけど、クリスにフローラの方へ突き飛ばされてしまった。その時、もう用をなさなくなったテントの入り口から無数の影が入り込んできた。アルスター座長が私の手を掴んで引き寄せる。私の手はクリスに届かない。


「行けっ」

クリスが邪霊の波に飲み込まれるのと、フローラの転移が発動するのは同時だった。

「嫌っ!クリスっ!!」

『離して』

私はアルスター座長の手を振り払った。


「ばかっ、あまねっ!」



私はクリスを飲み込んだ闇の中へ飛び込んだ。ためらいなんてなかった。




だって私がクリスを守るって決めてたんだから……!






ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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