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クリストフェル

来ていただいてありがとうございます。




深夜、私の部屋にはクリスがいる。何故?

「うん。ちょっと今日のあまねが可愛すぎて我慢できなくなって」

私の声に出してない疑問にクリスは答えてくれた。

「ク、クリス?」

えっと目が本気なんですが……。あっという間にベッドに押し倒されてしまった。


「フローラとは一晩中一緒にいたことあるんだし、俺もいいよね?」

いやいや、フローラは女の子だし、トールさんラブだし、クリスとは全然違うからね?全然良くないよ?

「ちょっと待って……クリスッ」

「嫌だ、待たない。っていうかもう無理」

そのまま、唇をふさがれた。私はクリスを傷つけるのが怖くて強く拒めない。クリスは今夜はやめてくれない気がする。私は覚悟を決めた。でも、その前に……!


激しいキスの合間に私は呪文を唱えた。


『大気の綿』


空気の塊が私とクリスの間に現れ、私とクリスを優しく引き離す。私とクリスはベッドの両端に向かい合って座る形になる。


「そんなに俺が嫌?」


クリスは自嘲気味に吐き捨てた。クリスの傷ついた顔に胸が痛むし、怖くなる。私はそれ以上言葉を挟ませないように一気に言った。


「私っ、クリスの事好きなのっ!!」


「は?」


訳が分からないという顔をするクリス。そりゃそうだよね、拒んでからの告白だもん。これに関してはぐずぐずしてた私が悪いから謝るしかない。


「ごめんなさい。少し前に自覚してたの。伝えようとは思ってたんだけど、なかなかタイミングがなくて……」


「…………」


「でも、私はクリスのことが好き。ずっと一緒にいたいって思ってるの。だから……その、こうなる前にちゃんと伝えておきたくて」


恥ずかしくて顔が熱い。火が出そう。でも下を向いてた私は顔を上げた。クリスが静かすぎるって思ったから。


「え?」


クリスは私を見つめたまま泣いてた。今夜は月は出てなくて星明りがクリスの涙をキラキラ光らせてた。なんて綺麗な涙……。じゃなくて!


「ク、クリス?!どうして?何で泣いてるの?」

も、もしかして、嫌だった?でも、でも、好きって言ってくれてたよね?あれ?聞き違い?私勘違いしてた?


「もう一度言って……?」

「え?」

片手で顔を覆ったクリスのか細い声が聞こえるように私はクリスに近づいた。


「もう一度言って……」


また顔が熱くなる。


「……私はクリスの事、大好きです。私とずっと一緒にいて下さい」


今度はクリスの目をちゃんと見て言えた。綺麗な青い目。青空の目。私はクリスの顔を覆ってる手をそっと下した。涙の浮かんだ綺麗な薄紫色の目。綺麗な朝焼けの目。


「綺麗……」

私は自分からクリスに口づけた。クリスはそのまま目を閉じて私に体を預けてきた。そしてそのまま……眠ってしまった。


「…………あれ?」

クリスの安らかな寝息が聞こえてきた。え?何これ?いや、いいっちゃいいんだけども……。


私の覚悟って……。



……あったかい……。


結局クリスは私を抱きしめたまま眠ってしまって、私もいつの間にか寝ちゃってて、目が覚めたら朝になってた。クリスはもう部屋にいなかった。










どうかしてる。好きな女に手を出さなかった自分は。でも笑えるくらいに心が満たされてる。


早朝の森は少し肌寒くて、俺はあまねの体温が恋しくなった。


俺はクオーツ王国の第四王子として生まれた。第四王子なんていてもいなくてもいい上に余計な火種を生む存在だ。さらに俺はオッドアイで片目が紫なんていうとんでもない容姿をしてた。母親は身分のそれほど高くない側妃。亡くなった後は俺は誰からも無視されていた。ああ、一人だけトールだけは母に恩義があるといって俺の傍についててくれたか……。


それ以外は俺にとっては要らないものばかりだった。ぼんやりといつか壊してやろうなんて幼いうちから考えていた。俺は自分の魔力が強いと自覚していた。ほぼ一人だったから本を読んで知識を増やし、魔術の使い方の基礎を学び、どんどん強い魔術を使えるようになった。


「クリストフェル様は大きくなったら何をしたいですか?」

そんな質問をトールからされたけれど、特に目標なんてものも無かった。あの日までは。


祭りにも聖女にも全く興味が無かった俺はいつものように、本を読んで過ごしてた。気分を変えようと思って中庭に出た時に歌声が聞こえてきた。とても綺麗な……そんなんじゃないな、透き通ったような、胸にしみこんでくるような歌声だった。俺は引き寄せられるように声の方へ歩いて行った。


そこにいたのは、旅の歌謡団の娘だった。舞台用の衣装を着てる。珍しい黒髪だ。とても楽しそうに歌ってる。何故か精霊鳥がたくさん来ていて、一緒にさえずってる。ここにこの鳥達がいることも、ましてや一緒に歌うなんてことも本来はあり得ない。当時の俺には分かってなかったけれど。


美しいと思った。どうしようもないくらいの子どもだったけど、あの時もうすでに彼女を手に入れたいと思ってしまった。


あまねがバカバカしい濡れ衣を着せられて、殺されそうになったあの時、俺は魔力を暴走させそうになった。あまねが結晶化で自分を守ってくれなかったら、おれは城ごと全てを破壊しつくしてただろうと思う。それくらいのことはあの時でもできたと思ってる。


結晶の中に閉じ込められたあまねは城の研究機関へ運び込まれた。結晶とはいえあまねに触れる奴らは殺してやりたいと思ったが、どんな魔術師でもあの結晶を壊すどころか、欠片も削り出すこともできなかった。その内に城の奴らは諦めたのかあまねを放置するようになった。俺は人目を忍んで毎日あまねに会いに行った。そして様々な魔術を試した。時間はたくさんある。いつか自分が救い出してやる、そう思っていたのに……。


あまねが消えた。あの時の絶望は今までの人生で感じたことがない程のものだった。母が亡くなった時もここまで打ちのめされはしなかった。本当にこの城いや、この国を壊してやろうと思った。研究員達の言葉を聞くまでは。

「あの結晶にも浄化の力があるようだ」

「最近出現した邪気の森に運び込んだそうだ」

「役にも立たない邪魔物だったからちょうどいいな」


あいつらは自分たちの無能を棚に上げてそんな風に言ってた。何故か城に忍び込んでたアルスターというあまねの保護者だという男もその場にいた。アルスターはあまねの行方を捜していたそうだ。城の警備が機能してないのか、この男が有能なのか……。おそらく後者だろうと踏んだ俺はこの男と共にトールを連れてあまねを探すために城を出ることにした。詳しくは言わないが、自分が事故で死んだ風を装った。


あまねを探すことは、思ったよりも大変だった。邪気の森をただ消すだけならば俺が燃やし尽くせばいい。ただ、万が一あまねを傷つけることがあってはならない。それにいくら俺が城で無視されていたとはいえ、目立つのは避けなければならなかった。結晶の少女を探していると分かって、移動されても面倒だ。剣術や実践的な戦い方を学びながら徐々に森の探索を続けた。


そしてようやく……!まさかの国外でやっとあまねを見つけたんだ!!


不思議な森だった。最奥に近づくにつれて森の中が清らかな空気になっていく。そこにあまねがいた。鳥が鳴いた気がするけどあまり覚えていない。俺は久しぶりに会うあまねにやっと触れられた。涙が出た。やっと心臓が動き始めたような感覚がする。俺は考えていた魔術を試そうとした。けれどその必要は無かった。あまねを閉じ込めていた、いや守っていた結晶はあまねを俺に託してくれたのだ。


それからは、自分を抑えるのが大変だったよ。目覚めたあまねは戸惑っていた。当り前だよな。いきなり違う世界へやって来て、殺されかけて、次に目が覚めたら、十年も経っていたのだから。それでも俺はもうあまねを手放す気は無かった。最悪あまねをどこかへさらって閉じ込めてしまおうと考えてた。あまねの気持ちは無視してでも。最低だな俺は。



でも……。

 



「私っ、クリスの事好きなのっ!!」


「私はクリスのことが好き。ずっと一緒にいたいって思ってるの」


「……私はクリスの事、大好きです。私とずっと一緒にいて下さい」



真っ赤になって伝えてくれた言葉。あまねの気持ちを聞きもせず迫って、酷いことを考えていた俺なのに。


愛してもらえた。


ああ、俺は自分で思っていたより、寂しかったんだな。








ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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