崩れ始める世界
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結局私はあれから二日間寝込んでしまった。眠ったり目覚めたりを繰り返して、ずっと不思議な夢を見ていた。目が覚めると必ずクリスがついててくれて、安心できた。三日目の朝になると私の体は軽くなっていて、熱も下がっていた。
「あまねって、もしかして病弱だったりする?」
クリスが心配そうに尋ねてきた。
「ううん。体は丈夫な方。あまり大きな病気もしたことないよ。ごめんね、心配かけて。ずっとついててくれてありがとう」
私が寝込んでる間はアルスター座長とトールさんが冒険者ギルドで依頼を受けてお金を稼いできてた。ああ、私負担になっちゃってる……。
「水飲む?」
「あ、ありがとう」
クリスがグラスに水を注いでくれる。グラスが曇り始めた。クリスが魔力を込めて冷やしてくれたみたい。グラスを受け取ろうとしたら、何故かクリスが飲んでしまった。
「?」
驚いて見てるとクリスの顔が近づいて来て水を飲まされてしまった。口移しで。
「……ク、クリスっ!」
思わずクリスを押し返してしまった。顔が熱い。また熱が出そう。
「どうしたの?ずっとこうして飲ませてあげてたでしょ?」
ベッドに頬杖をついて見上げて来るクリスの顔はとても清らかだった。そうか、時々水を飲ませてもらってたような気がするのって、あれって……。
「…………ありがとう」
クリスはずっと看病してくれてたんだ。うん。善意なんだよね。うん。
「でも、もう自分で飲めるから」
「あれ?そうなんだ。じゃあ、ご褒美をくれる?看病の」
ゆらりと立ち上がったクリスはベッドに手をついて、私に覆いかぶさってこようとした。
「それからこの前の続きもね」
「え?ちょっと……待って!」
今、病み上がりでお風呂とかも入れてない!汗もいっぱいかいたし、髪も梳かしてないし!あまり近づかないで欲しい。本当に今更だけど……。
コンコンとノックの音がしてフローラが部屋へ入って来た。
「あまねさん、もう大丈夫ですか?熱は下がったとお聞きしましたが」
クリスは素早くベッドサイドの椅子に座り直した。面白くなさそうな顔してる。私は少しほっとしたよ。
「えっと、はい、もう大丈夫。ありがとう」
フローラはまだお姫様を演じてる。
「この屋敷には大浴場がありますのよ。一緒にお風呂に入りましょう。わたくしがお背中をお流ししますわ」
「大浴場!?」
そんなのがあるの?
「あまねの世話なら俺が……」
「まあ、ご冗談を。大浴場は男女別ですわ」
フローラはそう言って微笑んだ。
うわ、本当に大浴場だ。
「フローラ、これって……」
「本当は温泉が良かったんだけど、温泉沸いてなかったのよね……」
「やっぱり、フローラが作らせたんだ、これ」
「割と小さい頃に記憶が戻ったから色々とね。いやー、この世界魔法があって良かったわ!」
私達は髪を洗って、体も洗って、広い湯船につかった。フローラの行動力にはちょっと呆れたけど、やっぱり広いお風呂は気持ちいい。フローラには感謝だ。ちなみにこの大浴場は里の人達にも開放されてるんだって。さすがに今は午前中だから私達の他には誰もいないけど。
私はこの前の夜に聞けなかったことを聞いてみた。
「え?どうして精霊の里って呼ばれてるかって?私達が精霊の末裔だからよ。紫の目は精霊の子孫の証なの。っていうかそういう設定よ?」
フローラは教えてくれた。
「ということはクリスも精霊の子孫ってこと?」
「うん。だから魔力が強いのよ。魔物になっちゃうと最強のラスボス!」
「クリスが魔物にならないように気をつけなきゃ……」
「……それは大丈夫じゃない?あまねがいるんだもん」
「なんでそうなるのよ……」
ゲームの強制力っていうのがあるかもしれない……。クリスが魔物になったら嫌だ。
「あー、でも、あまねを傷つけられて、我を忘れるとかありそうね」
フローラはあはははって笑った。
「笑い事じゃないよ、もう!ゲームとかじゃなくて、私達には現実なんだよ?」
私の事はともかく、心が弱ったり激しい怒りを感じたりすると邪霊にとりつかれやすくなるんだって。クリスの場合は魔力が強いから魔物へ一直線ってことか……。私はあごまで湯船につかって考え込んだ。
「ねえフローラ、この先はどんなことが起こるの?」
「うーん、ゲームのシナリオ通りだと、そろそろ邪気の森から邪霊があふれてきて大変なことになると思う。それをクオーツ王国の聖女様と私とガーネット王国の聖女がそれぞれ浄化していって、ラスボスのクリストフェルが魔の船化した死者の船を乗っ取って、クオーツ王国に攻めてくるでしょ?三人の聖女が集結!勝てればハッピーエンド。負けたらクオーツ王国だけじゃなくて世界は滅んじゃうって感じ」
「この里は大丈夫なの?」
「うん。ここは精霊に守られてるからね。でも、この里だけじゃ全ての生活はできないから」
「そっか、外の世界がダメになったら……」
「そ、どっちにしてもここも一緒」
じゃあ、やっぱり邪気の森と死者の船を何とかしないといけないんだ。
「そうだ!肝心のガーネット王国の聖女は?」
たしかこの続編の主人公だよね。この世界に転生してるはずの。
「だからぁ、それはあまねのことでしょ?ふう」
フローラはお湯につかってるのが熱くなってきたのか、浴槽のふちに座った。透き通るような白い肌が薄紅色に染まってて綺麗だった。
「それは、違うってば」
「そうかなぁ……?まあ、違ったとしてもシナリオが進めば私に会いに来るんじゃないかな?」
「え?なんで?」
「精霊の癒し歌っていう究極浄化の歌を教わりに、精霊の里へ来るっていうイベントがあるから」
「それ、私、教わった……」
「えー?!いつ?!誰に?!」
「崖から落ちる前に、赤い実のタルトレットのおばあさんから」
「せっかくの私のイベントがぁ……。なんであのおばあさんが?っていうかもうあまねが三人目の聖女でいいじゃない。っていうか四人聖女がいても、もういいわよ!戦力は多いほうがいいもの!」
「そんな……」
「よーし!世界を救うために頑張ろう!」
フローラは右手を大きく振り上げた。
私とフローラはゲームの設定とかシナリオとかってことは伏せてクリス達に相談することにした。フローラの予言ってことにして。
「どうしてあまねが邪気の森の浄化なんて危険なことをしなきゃならない?」
「そうだなぁ、クオーツ王国の聖女にでも任せておけばいいんじゃねぇか?」
「そうですね。私も同じ意見です。あまね様もフローラ様もここにいれば安全ですから」
クリスもアルスター座長もトールさんも、世界の危機ってことにあまりピンと来てないみたい。まあ、当然だよね。私もゲームの事を聞いてなければそうだっただろうし。でも……。
「私も、聞いたの。……たぶん」
私は熱を出して寝込んでる間に見た夢の話をした。
「神のような存在か……。いよいよもってあまねも聖女っぽくなってきたなぁ」
アルスター座長は笑ってるけど、私は笑えない。世界の危機もそうなんだけど、このままだとクリスが魔物になっちゃうかもしれないんだから。でも、結局その日は保留って形になって取り合ってもらえなかった。
「どうやら、二人の予言は当たったみたいだぞ。冒険者ギルドに依頼が殺到してる。邪気の森が急速に広がったり増えたりして被害が続出してる」
ある日里の外へ出てたアルスター座長が厳しい顔をして帰って来た。
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