宴
来ていただいてありがとうございます。
目が覚めたらもうお昼だった。
「うーん、何だかまだ眠い……」
昨夜っていうか明け方までフローラと話をしてたからかな。私はもそもそと起き出した。何だか外が騒がしいような気がする。窓から外を見ると、お屋敷の庭で炊き出し?バーベキューかな?そんな感じの準備をみんなでしてるみたい。
「?」
突然バタンってドアが開いてフローラが入って来た。ノックしようよ……。まあいいけど。
「宴よ!」
「フローラ?」
「あなた達の歓迎の宴をするのよ!」
フローラも一晩中一緒に話をしてたのに元気だね……。
フローラが言うには、この隠れ里は社会から迫害されて追い出された人々の集まりだから結束力が強いんだそう。この里は結界に守られていて選ばれた人しか招かれない。戦える人は外で冒険者として働いてお金を稼ぎ、弱い人は里で様々な仕事をしてみんなで家族のように助け合って暮らしているそうだ。私達は精霊に迎え入れられた新しい仲間なんだって。今夜は私達を歓迎する宴を開いてくれるみたい。賑やかだったのは里のみんながその為に集まってたからだったんだね。
「おう、あまね!起きたんだな!随分と遅かったじゃないか!」
外へ出るとアルスター座長が声をかけてきた。準備を手伝いながらもうお酒を飲んでるみたいで顔が赤い。
「昨日はごめんなさい。ちょっと寝坊しちゃいました」
「おう、もういいから、お前も手伝え!」
「はい」
見回すとクリスやトールさんも薪を運んだり、食材を運んだりしていた。赤い実を採るのを手伝ったおばあさんを見つけた。おばあさんに駆け寄って話しかけると、何故か私の事を覚えてないみたいだった。おかしいな、確かにこのおばあさんだったんだけど……。おばあさんは手作りだっていう赤い実のたくさんのったタルトレットをかごに入れて運んできてた。私はとりあえずおばあさんを手伝ってお菓子をお皿に並べた。おばあさんは私の事を覚えてないだけで、あとは普通に優しく話してくれた。
「手伝ってくれてありがとうね。えっと……」
「あ、あまねです」
「そう、あまねちゃんっていうのね。これからよろしくね」
私はその後も里の人達を手伝って、野菜を洗ったり、肉を切ったり、串に刺したりした。普段は料理なんてしたことなかったけど、なんだか楽しかった。
日が傾いて暗くなってくると、肉や野菜の焼ける良い匂いが漂ってきてみんなにお酒や飲み物が行き渡った。集まったのは大人や子どもも合わせて五十人くらいかな?用があって里を留守にしてた里長さんも戻って来てて、乾杯の音頭を取った後アルスター座長やクリス、トールさん、そして私に挨拶をしてくれた。賑やかな宴の始まりだった。
「はあ、何で歓迎される側がこんなにこき使われるわけ?」
クリスが飲み物を片手に私の隣に座った。
「おかげで今日はちっともあまねのそばにいられなかったよ」
「クリス……」
私はちょっと困って苦笑いした。飲み物を飲みながら里の人達が飲んだり食べたり歌ったりするのを眺めてた。
「そら!」
アルスター座長がメルバを渡してきた。
「え?」
「なんか弾いてくれ」
いきなりの無茶ぶりだった。メルバはギターに似た楽器だけど、そんなにたくさんは練習してない。
「でも……」
戸惑ってると、里のみんなの期待を込めた視線が集まって来る。ええ…………?
「どうなっても知らないよ?」
私は弾ける曲で出来るだけ明るくてノリのいい曲を選んで弾き始めた。
驚いたことに、アルスター座長は私の曲に合わせて踊り始めた。即興で。すごい……!座長は踊り手だったんだ。あまり良くは知らないけれど、クラッシックバレエの踊りみたいだって思った。焚火を背にしてダイナミックに踊るアルスター座長は、猛る炎の精霊みたいだった。曲が終わって、アルスター座長が礼をすると大きな拍手が沸き起こった。うーんすごかったな。必死でメルバを弾いてたからちょっとしか見られなかったけど、今度アルスター座長の踊りをちゃんと見てみたいな。
「ふう……」
私はホッとしてメルバを置いた。森の中は涼しいはずなのに変な汗かいちゃったよ。
「おう、あまね!なかなかやるじゃねぇか!お前、やっぱうちの一座に戻れ。いい舞台ができそうだ!」
アルスター座長が汗を光らせて私の頭を撫でた。褒めてもらっちゃった。
「そうできたら嬉しいです」
音楽は楽しい。こんな感覚は久しぶりだった。好きだったはずの歌は人前では歌うことは出来なくなってしまってるけど、いつか自由に歌えるようになりたい。
「あまねは、そうしてるとすごく楽しそうだ。俺も何か楽器でも始めようかな……」
クリスが少しすねたように私を見てる。
「じゃあ、クリスも一緒にアルスターさんの一座に入れてもらおう?それで、ずっと一緒に世界を回ろうよ」
「ずっと、一緒に……。うんそれいいね」
私が笑いながら言うとクリスもとても嬉しそうに笑った。
宴は夜遅くまで続いていた。みんな元気だな。私は途中から何だか頭が痛くなってきちゃった。みんなには申し訳ないけど私はもう眠いからって言って、部屋に戻って休むことにした。断ったんだけどクリスがついて来てくれた。屋敷の廊下を歩いているとなんだかぐらりと視界が回ったような気がした。倒れないように壁に手をついたけど、座り込んでしまった。立てない。
「あまねっ!大丈夫?」
クリスは私の頬に手を触れると
「熱いな」
額にも触った。
「熱があるじゃないか!」
「ごめん。大丈夫だから」
私は立ち上がろうとしたけれど、クリスに抱き上げられてしまった。
「ク、クリス……」
そのままクリスに部屋へ連れていかれて、ベッドに寝かされた。
「ちょっと待ってて」
そういうとクリスは部屋を出て行った。確かに頭も体も熱い気がする。熱があるんだって自覚したら、なんだか体が重い。背中がベッドに吸い込まれそう。
「疲労ですね。体にも心にも負担がかかってるようです」」
里の魔術師兼お医者さんが呼ばれて私を診てくれた。ぼんやりして遠くで声が聞こえる。
「いろいろあって、疲れたんだろう。ゆっくり休ませたほうがいい」
アルスター座長の声だ。ふふ、お父さんみたい。
「クリストフェル様、あまね様についているのはいいですが、無理をさせてはいけませんよ?」
トールさんはそう言ってフローラと一緒に部屋を出て行ったみたい。結構仲良くなったのかな……?早いな……。
「あまね……」
誰もいなくなった部屋でクリスが心配そうに私を見てる。
「クリス、私大丈夫だから……」
ああ、クリスって綺麗……。この人とずっと一緒にいられたら嬉しいな。この気持ちを伝えたい……。私の頭を撫でるクリスの手の感触が気持ちよくて私はすとんと眠りに落ちた。夢うつつに何度か冷たい水を飲ませてもらった気がする。
夢の中で鳥の鳴く声と誰かの声が聞こえた。
「伝染……強い……はやく……を…………このままでは……て……世界が失……てしまう………」
ここまでお読みいただいてありがとうございます。




