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自覚と深心

来ていただいてありがとうございます。



私は今、崖の下にいる。自力で登れそうな高さじゃない。そして膝の上には意識がなくて頭から血を流したクリスがいる。どうしよう……このままじゃクリスが死んじゃうかもしれない……。








池の畔でおばあさんに会った後、私は里長さんの屋敷へ戻ろうとした。その時、クリスとトールさんとフローラさんが他の里の人達と話しているのを見かけた。みんなとっても楽しそうに笑ってて、何だか急に疎外感を感じた。


私はまた森の中のあの池へ戻ろうとしたんだけど、たどり着けなくて……。おかしいな、一本道だった気がするんだけど……。気が付いたら森の中で迷ってた。困った……。何やってんだろ私。動かない方がいいかなって思ったり、何となくあの木に見覚えがあるとか思ったりして、結局動き回ってさらにわからなくなってしまった。ホント馬鹿……。


ガサって音がして初めて、ここに熊とか猛獣がいるかもって思い始めた。急に怖くなってどこか見晴らしのいいところへ行こうとしたら、足元の地面が無かった!落ちる感覚……。そういえば、急に崖になってるから危ないって言われてたのに!


私ってホントーにバカー!


タンッて音がして、誰かに手を捕まれた。抱き締められて、途中生えてる木に体を擦られながら崖下に落ちた。私は奇跡的に無傷だった。私を庇ってくれたのは、クリスだった。


「ク、クリスッ!大丈夫?しっかりしてっ!」

クリスはぐったりして動かない。どうしよう……頭を打ってるかもしれない……。私は崖の上に向かって叫んだ。


「誰かっ!誰かいませんか?!トールさんっ!!」

トールさんなら近くにいるんじゃないかと思ったけどいないみたい。それとも声が届かない?どうしよう、どうしたらいいの?心臓の音がうるさくてなにも考えられない……。クリスの顔が青ざめてる……。どうしよう……。


落ち着け、私!落ち着けっ!涙が出てくる。落ち着いてってば!クリスは目を覚まさない。血が止まらない。傷を癒す呪歌も教わったでしょ?思い出せっ。教わった呪歌を思い返す。


『もうあなたにも歌えるわ』

咄嗟に出てきたのはさっき覚えた精霊の癒し歌……。あの歌はきっと……。私は歌い始めた。どうか、効いて……!




歌い終えていつの間にか瞑ってた目を開くと、クリスが微笑んで私を見てた。

「久しぶりにあまねの歌、聞けた…… やっぱり……綺麗な声だ」

額の血を拭いながら、起き上がったクリスは嬉しそうだった。


「クリスっ!大丈夫なの?」

「うん、あまねのおかげで痛みは消えたよ。あと一応魔術で防御はしたからね。咄嗟だったから完全ではなかったけど……」

私は思わずクリスの頭を抱きしめた。

「……良かった……死んじゃうかと思った。生きてて良かった。ごめんね……。助けてくれてありがとう」

涙があふれて止まらなかった。



ああ、私クリスのことが好きだ。いなくなったらなんて考えるのも怖い……。生きてて良かった。本当に。



「……喜んでくれるんだ……」

クリスが呟く。

「え?当り前でしょう?何言ってるの?」

「うん。ありがとう。……あまねの胸、やわらかくて気持ちいいな……」

「…………」

思わずクリスを放り出した。



「酷いな。自分から抱きしめてきたくせに」

頭をさすりながら、非難してくるクリス。

「クリスが変なこと言うからでしょう?!」

あ、でもけが人だった……。

「でも、ごめん……」

「いいよ、ご褒美くれれば」

「え?」

クリスが近づいてくる。後ろは崖の壁で逃げられない。ちょっと待って、このままじゃダメだ!私はクリスのことが好きだけど、クリスは……。



「ちょっと待って!私じゃなくてもいいんじゃない?」

「……どういう意味?」

クリスが怪訝な表情をする。

「ここには、クリスの目のことを気にしない人達がたくさんいるから、私にこだわらなくても……」

「……ああ、あまねは何か勘違いをしてるみたいだね」


クリスは覆いかぶさるように、崖を背にして座ってる私を両腕の中に閉じ込めた。え?なんか怒ってる?どうして?

「俺はあまねがいいんだ。あまねしか要らない。正直、目のことはどうでもいい。初めて城であまねを見たときからずっと……」

クリスの薄紫と青の目が私を捉える。クリスの顔が近づく。噛みつくように唇が奪われる。


「あまねが俺を嫌がっても、俺はあまねを手放す気はないよ」

唇がふれあったまま言われる言葉に、頭がクラクラする。そして何度も繰り返されるキス。クリスの体の重さを感じ始める。


あ、このままじゃまずいかも、そう思った瞬間声が聞こえた。

「クリストフェル様ーっ!!いらっしゃいますかー?!!」

トールさんだ。私たちを見つけてくれた?よかった、いろんな意味で助かった!


「……、そうか咄嗟に目印にしようと思って、短剣を木に刺したんだった」

クリスはため息をついた。

「仕方ないな、続きはまた今度ね」

そう言って笑ったクリスはぞっとするほど妖艶だった。







ここまでお読みいただいてありがとうございます。

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