精霊の癒し歌
来ていただいてありがとうございます。
「ようこそいらっしゃいました。わたくし達は皆様を歓迎致します」
そう言って微笑んだのは里長の娘だという物凄い美少女だった。光そのもののような長い髪、透けるような白い肌、薄桃色の唇、小柄で、触れたら折れてしまいそうな細い体。森そのものみたいな深い緑色のドレスがとても似合ってる。そして一番印象的なのは紫色の瞳。
とにかく絵に描いたような完璧な美少女。しかも声もとっても綺麗……。鈴を転がすような声?歌を歌ったら素敵だろうなって思った。
ミルドレッドさんが紫は魔性の色って言ってたけど、この綺麗なお姫様(隠れ里の人達は姫様って呼んでる)といい、クリスといい、どっちかって言うと精霊とか妖精とかの色なんじゃない?
そして、この隠れ里にはクリスみたいなオッドアイの人が何人もいた。それから動物みたいな耳とか尻尾の生えてる人、角が生えてる人……。獣人とか亜人とかって小説とかで言われる人達。
クリスも、もう眼帯を取っていた。それを見た人達から、
「あんたも大変だったな」
「ここではもう隠す必要はないぞ」
とかって労われてる。心なしかクリスの表情も柔らかい気がする。
「良かった」
私はほっとしてた。ここへ来たのは私の為だけど、クリスにとっても安心できる場所かもしれないから。ただちょっと気になってるのは、フローラさんって名乗った里長の娘のあの美少女がずっとクリスのそばを離れないこと。
美男美女でとってもお似合いだ。まるで小さな頃から一緒みたいに打ち解けてるように見える。あ、なんかモヤモヤする。私って勝手だ。クリスのこと嫌わない人がいたらいいのにって思ってたのに。そういう人達がいたら、なんか寂しい気持ちになるなんて……。
「お疲れになられたでしょう?」
フローラさんからそう言われたから、私は用意された部屋で休ませて貰うことにした。何となく、私はフローラさんに良く思われてなさそう……。一度も目を合わせてくれない。うーん、私何かしちゃったかな?最初に会った時、驚いた顔してたけど私のせいだったのかな……?
精霊の隠れ里の中のお家は、森の中にあるけどツリーハウスとか、木のウロの中って訳ではなくて、ごく普通の街の中のような家が並んでる。里長の家は少し大きな館って感じで部屋数も多い。私は一部屋を借りてて、クリスとトールさんは広めの部屋で相部屋。アルスター座長は知り合いがいるとかで、その人に会いに行ってしまった。
「落ち着かない……」
何だか部屋の中にいたくなくて、思いきって一人で外に出ることにした。街を歩いてるといろんな人に挨拶された。みんな優しくて親切な人ばかり。
「散歩はいいが、あまり森の奥へは行くなよ。急に崖になってる場所が多いんだ」
なんて忠告してくれる人もいた。
「ありがとうございます。気を付けます」
私はお礼を言った。ここの人達は仲間意識が強いんだろうな。
私はこの世界の人間ですらないんだけど、私もここにいていいのかな。
しばらく歩いてると、池の畔に着いた。歌が聞こえてくる。一人のおばあさんがカゴに赤い木の実を集めてる。歌いながら。
「手伝ってくれる?」
おばあさんは手を止めて私の方を見た。私?周りを見回すけど、他に人はいない。私はちょっと嬉しくなっておばあさんと一緒に木の実を集め始めた。なるべく赤く熟した大きめの実を集める。カゴがいっぱいになっていくのがちょっと楽しかった。
カゴ一杯に木の実を集める頃には、私はおばあさんの歌ってた歌をすっかり覚えてしまった。
「ありがとうね。あなたが新しい家族になってくれて嬉しいわ」
「家族……ですか?」
「そうよ。ここにいる人はみんな家族。みんなこの精霊の癒し歌を歌えるの」
「精霊の癒し歌……」
「あなたにも、もう歌えるわ」
そう言うとおばあさんは手を振って、カゴを持って街の方へ帰って行った。
「何だか不思議な人……」
私は池に向き直った。
「歌えるかな……」
家族……家族か。何だか胸が温かい。私は息を吸い込んだ。
久しぶりに思い切り歌った気がする。気が付くと、池の周りの木々や、草原にたくさんの鳥達が来ていた。羽音なんてしただろうか?
「あの時お城にいた鳥……」
そして邪霊騒ぎの時、魂達を船へ運んでくれた鳥達。風が吹いて一斉に鳥達が飛び立った。
「あの時はありがとう……」
去っていく翼に小さく呼び掛けた。
ここまでお読みいただいてありがとうございます。




