30. 名前はユキ
「な、なんなんですか?!」
シェフがものすごく怖がって頭を押さえながらしゃがみ込む。
魔法で杖を召喚し、
俺は執事に向かって杖を振り、無詠唱で魔法を放つ。
「Cランク魔術が私に効くとでも?」
執事が《ウォールシールド》を使ってバリアを張っているが、油断している。
今だ。
「《ホワイトカット》」
同様、Cランク魔術だ。
白く光るその魔法はバリアを破り、執事の腹部に直撃する。
【HP:415/1201】
執事は俺の顔を憎そうに見る。
「く、馬鹿な……私のレベルは99だぞ?!」
「レベルが99だからなんだ?」
なんだと、というような顔で俺のことを見てくる。
「レベルが高いのと、その他のステータスが高いというのは、別ものだ」
「っ?!」
「いいことを教えてやろう。魔物をひたすら倒せばもちろんレベルは上がる。辛い修行をすれば、レベルは上がらなくとも、攻撃力などのステータスは上がるんだ」
俺のレベルが99を越していることは、
やはり黙っておくことにしよう。
これを教えてしまうと、少々面倒くさいことになるからな。
「おのれ、ガキがぁぁぁぁぁぁ!!!」
執事らしくない声を上げ、俺の方に手を向ける。
「うぉぉぉ、《バディレル》!!」
緑色の6本の線が曲がりながら飛んでくる。
Aランクの魔術だ。
しかし急ではない限り、俺に攻撃は当たらない。
「《ミラリック》」
6本の線が俺に当たる瞬間。
俺が《ミラリック》を唱えると、6本の線が一つになって、執事に跳ね返る。
「おいまて嘘だろ――」
お見事、執事に直撃だ。胸部に貫通したようだ。
「く、クソ……」
「だ、大丈夫ですか!!」
辛そうにしている執事にメイド一人が駆けつける。
【HP:195/1201】
その他の二人のメイドがまたもや何十本ものナイフを投げてきたので、
王女を守るためにお姫様抱っこをする。
「きゃっ、ちょ、何!」
凄いスピードでナイフを避けているからか、王女様は目をつぶっている。
可愛いところもあるじゃないか。
ナイフをよけながら、一人は猫が魔法で気絶させ、
もう一人はナイフを投げ返して倒れてもらった。
「あいつ、本当に人間か……?」
「もちろん。お前と何ら変わらない人間だ」
残りはメイド一人と執事一人だ。
殺すつもりは無いが、まだ暴れることのできるHPはある。
Aランク魔法を放つことにした。高位魔術だが、
コイツの防御力なら、少し強い魔法でも耐えられるだろう。
「いくぞ、《バギディス》」
これで、流石に気絶してくれるだろう。
小さな光が執事の方に飛んでいく。
「ふざけんじゃねぇガキがぁぁぁ!」
隣で心配してくれているメイドを盾にする。
「や、ヤダ死にたくない!!」
「ぐハハハハハ、お前が盾になれ」
メイドに直撃し、縦に光の魔力が散っている。
俺は頭が真っ白になった。
【HP:0/857】
そう視界に表示され、おまけに死亡マークまで付いていた。
「ハハ……ハハハハハハ」
執事はニヤニヤ小さい声で笑っている。
一方王女様は顔を手で覆い、シェフは気絶し、猫は俯いている。
「……お前。今自分がなにしたかわかってるのか?」
「私ですか? いやいや、貴方がこのメイドを殺したんですよ!」
気づけば体が勝手に動き、瞬間移動して執事の首を絞めていた。
罪悪感を感じているのか、抵抗はされなかった。
「……このメイドは、お前がダメージ受けてたのを心配してくれていたよな?」
「それが何だっていうんですか」
声が震えている。
間違いない。態度は酷いがこの執事は自分自身がやってしまった罪を自覚している。
だが、俺の怒りは収まらない。
「これが心配してくれた人にすることかよ!!」
力を籠め、思いっきり殴る。
その瞬間扉が勢いよく空いて、他の使用人が部屋にはいってきた。
「何事だ!」
どうやら、他の使用人は執事のグルでは無いらしい。
使用人たちは部屋の中をただただ呆然と見ていた。
夕方。城の前まで王女様が送ってくれた。
「今日は私の命をお救い下さり、ありがとうございました」
微笑んで俺にお辞儀をするが、目の奥が悲しみに満ちていた。
気持ちはよくわかる。信頼をしていた執事とメイドが自分自身を殺そうとしていたのだからな。
「こちらこそお城に呼んでいただきありがとうございました。それでは」
「……待ってください!」
俺の手を王女様がつかんでくる。
「よろしければ、また私に会いに来てください。いつでも歓迎します」
護衛の話かと思ったが、今日はもうしないようだ。
「わかりました。近いうちに僕の大切な仲間のココっていう子と一緒に、ここに来ます」
「フフ、それは楽しみです」
「じゃあ、俺はこれで」
大魔法学園に向かって歩き始める。
いつもより人通りが少ない。
俺はさっきの執事のことで頭いっぱいだった。
「……お前が言ったこと、本当だったな」
「そうでしょ。これで少しは僕のことを信頼してもらえたかな?」
猫は首を傾げて俺に問う。
「あぁそうだな。そのせいでもっとお前が何者か気になっちまったよ」
「僕のことしか考えられなくしてあげようか?」
「お前変なことを言うな」
「ごめんってー、ドキッとするかなって思って!」
「いやゾッとしたよ」
俺は立ち止まり、正面をじっと見る。
「なぁ、猫。お前は俺に二回助言した」
「そうだね」
「一回目の助言で、お前はココに頼れて言ったよな。……もし俺がココにアルゲニルへの復讐の件を話していなかったらどうなっていたんだ?」
するとしばらく黙って、やがて口を開いた。
「……レンのメンタルが壊れて、人を殺してたよ」
本当の話か、分からない。
でも今回未来を当てた猫の言うことには信憑性があった。
俺は空を見上げる。
「……ユキだ」
「あ、うん、雪が冷たいね」
「そうじゃなくて、お前の名前」
猫はポーっとしばらくフリーズした後、悲しそうな顔で俺に尋ねる。
「雪が降ってたからユキ……?」
意外と繊細なところあるんだな。
「お前の心は雪のように真っ白だと俺が勝手に感じた」
何それどういうこと、と言ってクスクスと笑う。
「それに魔術言語ではユキというのは美しいという意味がある」
「ユキ……僕嬉しいよ、ありがとう!」
満面な笑みを浮かべた、
偽りがない、本物の笑顔だ。
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